15 剣士「なにもわからねえな」
魔法使い「そういえば結局アグアちゃんが何処から来たのかとか具体的に何処に行くのかわからないままだね。勇者が遮るから」
勇者「俺のせいなのか? ……でも、さすがにあの子も自分達の拠点を教えるような事はしないだろ」
剣士「餌付けはされたけどな」
勇者「……まあ、そうだな」
ガンナー「餌なんかあげたらついてくるからやめとけ。母にしかられるぞ」
魔法使い「やだやだやだァ、飼いたいーウチで飼おうよお母さん!」
吟遊詩人「駄目よ、うちは貧乏なんだから。元の場所に返してきなさい」
勇者「なんだこの唐突な茶番」
吟遊詩人「お父さんからも何か言ってあげてくださいよ」
勇者「えっ? 俺お父さん!? 吟遊詩人なんでちょっとノリノリなの?」
魔法使い「いいでしょお父さん、ねぇ、お兄ちゃん意地悪なんだよォー」
勇者「何この流れ」
剣士「ほら、決めてやれよ父さん」
勇者「ああっ! 剣士お前裏切ったな!! 中立って言ってたのに結局そっちにつくんだな!」
剣士「中立はどっちでもねぇよ」
勇者「そうだけどさぁ!」
騎士「父、刺客嫌い?」
勇者「何その『猫嫌いだから飼うの反対』みたいなよくある会話。つうか、なんで騎士もノってるの」
僧侶「……この空気は、なんでしょう。巻き込まれると厄介な気がするので私は一時避難しておきましょうか」
~すこし後~
僧侶「……終わったようです」
ガンナー「勇者薄情」
勇者「だ、だって魔王の刺客だろ?」
魔法使い「差別ぅ、勇者人種差別ぅ」
勇者「うっ、じゃあ飼っていいよ!!」
ガンナー「魔王の刺客を飼うとか何考えてんだよ。つかなんだよ『飼う』って」
勇者「じゃあどうすりゃいいんだよ!!」
僧侶「誰が何の役をしていたのやら」
勇者「子供達に振り回されるお父さん」
吟遊詩人「子供達に振り回されるお父さんを見守るお母さん」
騎士「絶賛反抗期中長女」
魔法使い「まだ年端もいかぬ、次男にべったり次女」
剣士「もうすぐ成人する長男」
ガンナー「まだ幼い次女の世話をする次男」
僧侶「アドリブ全開なコントだったにも関わらず思っていた以上に設定がしっかりしてますね」
ガンナー「じゃあ僧侶は三男だな」
僧侶「ああ巻き込まれてしまった」
魔法使い「僧職系男子」
勇者「ぴったりだな」
ガンナー「お前は軟弱系男子だな」
魔法使い「ぴったりだね」
勇者「おい」
~翌日、クリエント~
魔法使い「二度目のクリエント到着!」
勇者「とりあえず、ここでは魔王の刺客についての情報を集めようか。前回のこともあるから慎重に、何処かに行くときも極力一人では行動しないようにしよう」
剣士「勇者は特に気を付けろよ」
勇者「ハイ」
魔法使い「ねえ、私思ったんだけどさ、情報収集するんだったらクリエントよりも王都セシリカのほうがいいんじゃないの?」
勇者「え? あっ……」
剣士「いや、たしかにセシリカには兵団も、王宮だってある。だから一見してみればここより多くの情報を集められそうだが、セシリカよりもクリエントのほうが人の出入りが多い――つまり移住民なんかも多くいる。だからその分得られる情報の幅も広がるんだよ」
魔法使い「そうなの?」
勇者「……う、うん」
勇者「(そうなんだ……)」
剣士「それに、実はセシリカに戻ったとき、騎士と僧侶が教会で準備をしている間に俺とガンナーで王宮の兵士たちに刺客について知っていることはないか聞いて回ったんだ。念のためにな。だが俺たちが持っている以上の情報はなかった」
僧侶「私と騎士も国王と対面した際に直接尋ねてみましたが、大した成果は得られませんでした」
吟遊詩人「派手に暴れている割にはガードが堅いのね」
勇者「そういえば、ガンナーと僧侶はどうやって刺客のことを知ったんだ?」
僧侶「それは……数年前にガンナーが一人で旅に出たことはご存知ですか?」
魔法使い「聞いたことはあるよ」
剣士「今から三年ほど前だな。勇者と魔法使いがセシリカに移住してきた少し後のことだ」
勇者「ああ、あのふらっといなくなって半年くらいで帰ってきた……」
僧侶「その旅の途中でガンナーは情報屋さんに会ったのです」
剣士「情報屋?」
僧侶「北の大陸に住んでいる彼のご友人です。広い情報網を駆使して確かな情報を提供してくださる、とても優秀な方でして」
吟遊詩人「その人が刺客のことを教えてくれた――ということ?」
僧侶「はい。私が知っていることは全て、ガンナーが情報屋さんから教わったことを又聞きしたものですので、だから私よりも、情報屋さんから直接話を聞いた彼のほうが刺客についてはより正確な情報を所持しているはずなのです」
勇者「でもごちゃごちゃ話すのがめんどくさかったから解説を全部僧侶に任せた――と」
僧侶「そういうことになります」
勇者「……って、ガンナーと騎士は?」
魔法使い「先に宿に行くってさ」
勇者「自由すぎるだろ。団体行動苦手か」
吟遊詩人「でも、ずっとここで立ち話していたってはじまらないわ。二人と合流しましょう」
剣士「そうだな。大人数でこんなところで屯していたら町の住人に不審者だと思われかねない。下手すりゃ警備の兵を呼ばれるぜ」
勇者「お前兵士だろ」
魔法使い「それって私たちが怪しまれるような格好してるってこと?」
剣士「いや、別にそういうわけではないが……職業色の強い格好した集団が街中で立ち止まって魔王がどうとかひそひそ話しているのを見たらどう思う?」
魔法使い「え……なにその人たちこわ。通報しよ」
剣士「今の俺らだよ」
僧侶「と、とにかく、話はここまでにして宿へ参りましょう。騎士たちが待っていますよ」
~宿、客室~
ガンナー「ぶっちゃけ刺客が何か動きを見せない限り、俺たちがすることってないんじゃね? そんだけ向こうのガードが堅いなら一般人への聞き込みじゃロクに情報集まんねえだろうし、向こうがいついつどこで決闘だって手紙でも寄越してこねえと、なんもできねえじゃん」
勇者「た、たしかに……!」
ガンナー「前々から思ってたけど、お前アホだよな」
勇者「もうちょっとオブラートに包んで」
ガンナー「あーなんかゴミだと思って捨てちまったわ」
勇者「オブラート捨てられた! で、でも何もしないよりは情報収集でもしたほうがいいだろ」
騎士「今持っている以上の情報は、おそらく手に入らない」
勇者「そうかなあ……でも情報収集の専門家から得た情報だもんな。その情報屋って人に新しい情報がないか聞くほうがいいのかなあ」
ガンナー「外に出て直接聞いて回るからこそわかることってのもあるだろうから聞き込みだのは好きにすればいいけど、騎士の言う通りあんまり期待はできねえな。それに変なこと聞いてまわる怪しい連中だって目つけられるかもしんねえぞ」
勇者「そ、それは……でも、今は剣士と僧侶が外に出てる。あの二人なら特に怪しまれることもないだろ? 服装見れば兵士と教会の使いだってなんとなくわかるだろうし」
ガンナー「たしかにその人選は賢明だな。まあ、俺が情報屋と最後に会ったのは二年ほど前のことだからな、もうそろそろ新しい情報も入ってるだろうし、一度連絡とってみんのもひとつの手……あ、でもあいつの家電話ねえわ」
勇者「だめじゃん」
ガンナー「情報くれっていう依頼の電話がうるさすぎてブチギレた勢いで電話線引きちぎったらしい。それ以来あの家めっちゃ静かになった」
勇者「なあ、その人なんで情報屋なんてやってんの?」