13 勇者「お前は本当変わらないな」
いじめっこA「やぁいへなちょこ勇者ー!」
勇者「や、やめてよぉ! 返してよ!」
いじめっこB「へっへーん、取れるもんなら取ってみろよ! お前『勇者』なんだろ?」
勇者「返して! それ僕のオモチャだよ!」
いじめっこA「それ、パース!」ポイッ
いじめっこB「ほらほらこっちだぞへなちょこ!」
勇者「か、返してってばぁ!」
いじめっこB「あっ勇者が泣くぞ! 男のくせに泣いてやんの!」
いじめっこA「だっせぇ! 泣き虫勇者!」
勇者「う……うぅ……」
魔法使い「こらぁ! 勇者をいじめるなー!!」
いじめっこA「ウゲッ、魔法使いだ」
いじめっこB「行こうぜ!」
魔法使い「勇者、大丈夫?」
勇者「うん……」
魔法使い「もう! あんなのやっつけちゃえばいいじゃん」
勇者「だって、もしそれで怪我しちゃったら……」
魔法使い「あっちからいじめてきたんだもん。怪我したってジゴージトクだよ!」
勇者「無理だよ……僕、弱いしチビだし……逆にやっつけられちゃう」
魔法使い「でも悔しくないの?」
勇者「悔しい……けど……でも、無理なものは無理だもん。痛いの嫌だし、魔法使いみたいに強くないから……」
魔法使い「あたしが強いとかカンケーないでしょ? 勇者いつもやられっぱなしじゃん。たまにはやりかえしてみなよ」
勇者「怖いよ」
魔法使い「勇者がいいなら私は何も言わないけど、勇者、いっつも近所のおばさんたちになんていわれてるか知ってる?」
勇者「え?」
魔法使い「あんなのが『勇者』でいいのか、って言われてるの。いっつも。勇者がいじめられる度に」
勇者「……」
勇者「(仕方ないじゃないか。怖い物は怖いんだ)」
勇者「(僕はどうして『勇者』に生まれたんだろう。普通の子供に生まれたかった。そしたら、きっといじめられることもなかったのに)」
勇者「どうして僕が『勇者』なんだよ」
勇者「なんで……」
ガサ
勇者「!」ビクッ
勇者「ひっ……ま、魔物!?」
魔物「グルルルル……」ザ、ザ……
勇者「わ、わ、く、来るな!」
魔物「グルルルル……」
魔物「ガァァッ」ダッ
勇者「う、うわあああああああ!!」
パァン!!
……
勇者「っ……」
勇者「……?」パチ
魔物「」ドサ
勇者「え……?」
黒髪の少年「……」
勇者「あ――き、君が……た、倒したの?」
黒髪の少年「……」コクリ
勇者「(僕よりちっちゃいのに……)」
勇者「あ、りが……とう……」
黒髪の少年「そんな底辺モンスターも倒せないのか」
勇者「へっ? て、ていへん?」
黒髪の少年「そんなのそのへんの辺鄙な村の近くにいるような雑魚だぞ」
勇者「へんぴ? ざこ……?」
黒髪の少年「……お前、勇者だよな?」
勇者「そ、そう――だけど、どうしてわかったの?」
黒髪の少年「有名だぞ、弱虫で泣き虫なへなちょこ勇者だって」
勇者「き、君も僕をいじめるの?」
黒髪の少年「ガンナー」
勇者「え?」
ガンナー「俺の名前」
勇者「あ……うん」
ガンナー「いじめなんて弱い奴が周りに自分を強く見せようと必死になってるだけだ」
勇者「む、難しい事わかんないよ」
ガンナー「いじめは弱くて頭の悪い奴がする馬鹿げた行為だって事だ」
勇者「でも……」
ガンナー「でもその弱い奴にいじめられるお前も弱いんだろうな」
勇者「うう……そんな言い方ないだろ。弱い弱いって……」
ガンナー「俺から見ればお前もお前をいじめる奴も弱い。お前なんかいじめてもちっとも強そうに見えないのにな」
勇者「酷い」
それから毎日勇者は森に通った。村を出たところにある森の、決まった位置にガンナーという少年はいて、彼は自分をいじめてくる同い年の子供よりも酷い事ばかり言ってきたが、冷たい態度にも少し優しさがあって、勇者は段々ガンナーと仲良くなっていった。彼がどう思っているのかはともかく、少なくとも勇者はそう思っていた。
ガンナーと出会って一週間が経ったころ。
ガンナー「またいじめられたか」
勇者「うう……」スンスン
ガンナー「男が泣くなよ情けない。女かお前は」
勇者「だって……」
ガンナー「泣くほど悔しいなら仕返しすればいいだろ」
勇者「で、できないよ……」
ガンナー「できない事あるか。丸裸で空を飛べと言っているわけでもあるまいし」
勇者「ガンナーにはわかんないよ! いじめられる気持ちなんて!」
ガンナー「……」
勇者「どうせお前も僕を馬鹿にしてるんだろ!? お前に僕の気持ちがわかってたまるか!」
ガンナー「……」
勇者「! ……あ、ご、ごめ――」
ガンナー「わかるわけないだろ?」
勇者「え……」
ガンナー「お前の気持ちが俺に分かるはず無い。お前に俺の気持ちが分からないのと同じように誰も人の考えを完璧に理解する事なんてできない。特に俺とお前の性格は何もかもが正反対だ。何もかもが違う。俺はお前みたいに弱くて泣き虫で頭が悪くて、見ていて腹が立つほど優柔不断でいつまでもうじうじして、自分にちょっかい出してくる奴に仕返しもできなくて、自分が弱いことを自覚しているくせに強くなる努力もせず誰かと比べるだけで、そのへんのへぼモンスターに襲われ腰抜けっぷりを惜し気も恥じらいもなく晒した挙句、年下の住使いに助けられるような奴とは違う。俺はお前とは違ってずっと強い。俺はあんなくだらないガキのいじめに傷付くようなへなちょこではない」
ガンナー「お前なんかに俺を超えられると思うなよ」
勇者「うっ、一言っただけで十も二十も返ってくる……」
ガンナー「文句、言えるじゃねぇか」
勇者「え?」
ガンナー「お前がいじめられようがどうなろうが俺には関係ないさ。当然だ、お前があのいじめっこ共にいじめられても俺に損はないからな。俺が言いたいのは、お前はこのままでいいのかってことだ」
勇者「あ……」
勇者「……」
子供1「勇者のくせにちびで弱っちいのー!」
子供「女に守ってもらってばっかで、かっこわりィー!」
勇者「うう……」
――お前はこのままでいいのか。
勇者「……」
勇者「(いいわけないよ……いじめられっぱなしなんて嫌だ……)」
子供2「弱虫勇者ー!」
勇者「……やめてよ」
勇者「も、もうやめてよ! 毎日毎日……いい加減にして!」
子供2「な、なんだよ急に! へなちょこ勇者のくせに生意気だぞ!」
勇者「そうだよ、僕は弱い。でも、だからってずっとこうやってからかわれるのは嫌だ!」
勇者「(ガンナーみたいになれるとは思わない。でも、だからって今のままは……嫌なんだ)」
勇者「ガンナー! ガンナー、俺やったよ」
ガンナー「どうした馬鹿勇者。いじめっ子を殴ってきたのか」
勇者「いや、流石にそれはできないけど……でも、言い返せたんだよ。嫌だって、はっきり言えたよ」
ガンナー「そうか。まああれはただの開き直りとも言うがな」
ガンナー「『全然勇ましくない者』から『勇ましいとは言えない者』になったか、勇者」
勇者「そ、それってどう違うの?」
ガンナー「……さてと、俺は帰る」
勇者「えっ?」
ガンナー「元々俺はこのあたりの人間じゃない。今回は用があってセシリカに滞在していたんだ。サブマラには散歩で来ていた。だが勇者が明日も来るだの抜かすからなかなか帰れなくてな、また明日来ると宣言される前に帰る」
勇者「そんな……それならはじめに言ってくれればよかったのに」
ガンナー「子供の淡い期待を裏切るほど俺は冷たい奴じゃねぇよ」
勇者「僕より年下だったよね?」
ガンナー「たかだか一年早く生まれたくらいで年上面してんじゃねぇよ。へなちょこ勇者のくせに」
勇者「で、でも急にお別れなんて……」
ガンナー「昨日と今日は俺がお前の都合に合わせてやったんだ、だから今度はお前が俺の都合に合わせろ。それでプラマイゼロって奴だ」
勇者「む、難しい事わかんないよ」
ガンナー「わかんなくていいから俺は帰る」スタスタ
勇者「あ! あの……また、会える?」
ガンナー「……会おうと思えばな」
~セシリカ王宮、応接室~
勇者「お前は本当に変わらないよな」
ガンナー「あ?」
剣士「どうした急に」
勇者「いや、昨日昔の夢を見てさ。ガンナー全然変わってないな、って。性格とか、昔の性格を今に引っ張ってきたみたいな」
剣士「そうか? ……ああ、そうだな」
ガンナー「なんだ、俺がガキっぽいって事か」
勇者「逆だよ。子供の頃のお前が全然子供らしくなかったってこと。精神年齢が高すぎた。俺のいじめ方とか言葉の言い回しとか今思い出したら『ああガンナーだな』って感じだった」
ガンナー「意味わかんねぇぞ」
勇者「会おうと思えばいつでも会えるとかいってたくせに結局次会えたの何年も後だし」
ガンナー「お前いつの話してんだ」
勇者「九年くらい前」
ガンナー「つか、いじめとか聞こえ悪いな。もっと別の言い方できねえのかボキャ貧」
勇者「いや立派ないじめだと思うよ」
剣士「こんなに仲良さそうないじめがあるかよ」
ガンナー「仲……いや、うん」
勇者「そこで微妙な空気になるのやめない?」
魔法使い「僧侶と騎士、まだかな」
吟遊詩人「さあ、どうかしら。一応あの子たちは仕事でクリエントにいたわけだから、 王様から石をもらう他に、その報告なんかもあるじゃない?」
魔法使い「そっか」
ガチャ、
僧侶「お待たせしました」
騎士「……」