12 騎士「魔王の刺客」
~クリエントまでの道中~
騎士「……」ピタ
ガンナー「……どうした」
騎士「忘れ物」
僧侶「おや、引き返しますか?」
騎士「一人で行く」
ガンナー「早くこいよ」
騎士「うん」
騎士「……」
騎士「誰」
赤髪の男「ああ、なんだやっぱり気付かれてたか」
騎士「……」
赤髪の男「お前は騎士――であっているな?」
騎士「まずそっちから名乗ったらどう?」
赤髪の男「俺はフラマ。『魔王の刺客』とか呼ばれてる連中の一人だ」
騎士「何の用? さっきからつけまわして」
フラマ「いいや、別に用は無い。ただ、てめえらの顔と名前をしっかり覚えておこうと思ってな」
騎士「……」
フラマ「それにしても、そうか、ガンナーは生きていたのか。あンの野郎、とことんしくじりやがって」
騎士「……」
フラマ「まあ安心しろ、今はまだ戦う気はない」
騎士「用がないなら消えなさい」
フラマ「そう睨むなよ。近いうちに戦う事になる――それだけは覚えておくといい」
~・・・~
ガンナー「おい僧侶、気付いたか」
僧侶「ええ」
ガンナー「騎士の方に一人いったな」
ガサ、
僧侶「どちら様です?」
ドロシー「……レディーに名前を尋ねるときはまず自分からって礼儀知らないの?」
ガンナー「……」
僧侶「失礼、私は僧侶と申します」
ガンナー「ガンナーだ」
風「……うわあ」
ドロシー「……風! アンタ標的間違えてしかもそれも殺せてないってどういう事よ!!」
風「お互い様だろ」
ドロシー「う、うっさいわねえ」
僧侶「お二人はたしか、レンテにいらっしゃった方々ですね。勇者さんを討とうとした」
ドロシー「あら、よく知ってるじゃない。なに、あんた何処かに隠れてたわけ?」
ガンナー「なんだ、あいつ痴情の縺れかなんかが原因で刺し違えられでもしたか」
僧侶「『勇者』だから命を狙われたんですよ。というか勇者さんの仲間である私達全員が狙われています」
ガンナー「あーあ」
ドロシー「風、帰りましょ。どうせ今日は様子見しにきただけで用はないんだし」
風「……」ジッ
ガンナー「……」
風「……ああ」
~宿~
勇者「……で?」
ガンナー「そんだけ」
勇者「いや、『そんだけ』って――かなり唐突にとんでもないことになったよな」
僧侶「我々がこの宿に来るまでの道中で三人の『魔王の刺客』の方々にお会いしました。まず勇者さんを刺した、ドロシーと名乗る金髪の少女。そのドロシーさんの傍にいた『風』と呼ばれる手袋をつけた緑髪の青年。そして騎士のもとに現れたフラマという赤髪の青年」
勇者「俺が知ってる限りではドロシーはツインテールだったよ」
僧侶「私達と会った時も同じでした。風という青年は前髪で口元以外顔が見えませんでしたが」
魔法使い「ねえ、今の話に出てきたその『フラマ』って……」
勇者「魔王の刺客の一人。赤髪に青い目の男――フラマ。吟遊詩人が集めた情報が正確なら、サブマラを滅ぼしたのはそいつで間違いないよ」
魔法使い「つよそう」
吟遊詩人「近いうちに戦うことになる――といっても、誰と戦う事になるかは……」
騎士「さあ」
ガンナー「そのうちわかるし考えても無駄じゃね」
勇者「そうだけど……気楽なやつだなあ」
ガンナー「誰が相手でも勝てばいいんだろ?」
魔法使い「つよい」
僧侶「簡単に言いますね。不意打ちとはいえ勇者さんと貴方もやられかけたというのに」
ガンナー「俺は剣士を庇ったんだ。勇者は弱いから仕方ない」
僧侶「そうですか」
勇者「おい」
剣士「僧侶。魔王の刺客について、ガンナーはお前のほうが詳しいことを知っていると言っていたんだが」
僧侶「ああ――いえ、刺客についてはガンナーも私と同じだけの情報を持っていますよ。彼はただ説明がめんどうだっただけです」
勇者「なんだそれ、おいガンナー……あれ、ガンナーは?」
魔法使い「クリエントのパンは美味しいとか言いながら外に出ていったよ」
剣士「あいつ大体食べることと寝ることしか考えてないからな」
勇者「とことんテキトーなやつ……」
僧侶「……ふっ」
勇者「え、僧侶なに、その儚げな微笑は」
僧侶「いえ、話を戻しましょう。ガンナーからは何処まで聞いていますか?」
勇者「えっと、魔王を倒す前に倒さないといけない七人の敵、って。それ以上詳しいことは僧侶に聞けって言われてる」
僧侶「それ以上詳しいこと――といいましても、ほとんどそれがすべてなんですよね」
魔法使い「でも、どういう人たちなのかとかは全然知らないよ」
僧侶「個々の性格だとか外見的な特徴だとかは、先に挨拶に来られたお二人以外とは面識がないのでさっぱりですが――わかりました。刺客の性質ですとか、そういったものを私の知る限りお話ししましょう」
剣士「アラバの丘にいるときにガンナーが言っていたんだが、向こうも俺たちと同じように石を持っているんだよな?」
僧侶「ええ、その通りです」
魔法使い「僧侶と騎士の分は明日王様にもらいに行かないとね」
吟遊詩人「そうね」
勇者「こっちが七人、一人ずつひとつの石を持っていて、あっちも同じ石を一人ひとつずつ持ってる――だから魔王の刺客が七人なのか」
僧侶「同じ石――というわけではありませんよ。たしかに見た目は似ていますが、やはり性質が違います」
吟遊詩人「どう違うの?」
僧侶「プラスとマイナス、陽と陰ですよ。魔王側、世界にとってこれは陰の要素です。ですから我々『勇者』の側は世界にとって陽の要素で、存在が完全に対となっています。この場合の陽陰はイコール善悪と捉えてください」
魔法使い「似てる様で根本的な部分が違うんだね」
勇者「簡単に仕組みを説明すれば今僧侶が言ったようになるけど……めんどくさかったのか」
僧侶「その部分は省いても何も問題ありませんし、同じような石という言い方で間違っているというわけではありません。重要なのは『それらを全て壊さなくては魔王には辿り着けない』という部分です」
勇者「まぁ、そうだけど。……つまり七人も戦わないといけないのか」
魔法使い「魔王をあわせると八人だよ」
剣士「『人』として数えていいのか、それ」
勇者「思った以上に長い旅になりそうだな」
魔法使い「でも幸先いいよね、もう七人全員集まったんだし」
吟遊詩人「メンバーも心強いしね」
勇者「まあ、それもそうだな」
魔法使い「ねえ、私思ったんだけどさ、やっぱり相手も属性は同じなのかな?」
勇者「と言うと?」
魔法使い「ほら、私は水、勇者は炎、ガンナーは風でしょ? それと同じように、魔王の刺客にも属性とかってあるのかな」
僧侶「……まあ、そう考えるのが自然ですかね」
魔法使い「じゃあやっぱりさ、各々の属性同士で戦う事になるのかな?」
勇者「え、さあ? でも、刺客は一人一人が凄い強いらしいし、流石に一対一だと無茶というかパーティ組んでる意味がないというか」
僧侶「まあ、そのあたりは我々が考えずとも剣士さんやガンナーが考えてくれるでしょう」
勇者「た、他人任せ」
僧侶「私は策を練るのはあまり得意ではありません。魔法使いさんも吟遊詩人さんも、そういうことにはあまり慣れてはいないでしょうし、でしたらあの兄弟に任せるしかありませんでしょう」
吟遊詩人「それもそうよね、私たちよりもガンナーたちの方が実戦経験が豊富そうだし。ねえ僧侶?」
僧侶「訂正する点はございません。事実、剣士さんや私は国の兵として何度か戦場へ駆り出された経験があるので存じておりますが、ガンナーはシュミレーション等が得意です。実際何度か作戦会議に参加していました。国はほとんど彼を中心に動いてましたよ。戦場――といっても、要は魔物が増えすぎた地域での救助活動ですがね」
勇者「天才かよ。カリスマ性半端ないな」
僧侶「銃の扱いに長けていて視力もかなり良い。軍師にだってなれるし学業を厭うところはありますが、結局頭は良いですし、やろうと思えばなんでもできます――生まれ持った才能と言う奴ですね」
魔法使い「今まで気にしてなかったけどガンナーと剣士って美形で強くて家はお金持ち……あれよく考えたら半端ない高スペック」
騎士「ガンナーはこの中で最も強い」
勇者「しかも剣士は料理うまいし」
吟遊詩人「ほそいし」
勇者「あの兄弟、なんていうか、やばい」
魔法使い「ボキャブラリーが貧困だよ勇者」
僧侶「まあ、その、努力は実力へと繋がりますが、才能も実力のうちですからね」
勇者「神は二物を与えまくり。不公平だなあ」
魔法使い「っていうか、剣士は? いつの間にかいないけど」
吟遊詩人「お夕飯作るからって出ていったわよ」
僧侶「ガンナーは……そのへんにいるでしょう」
勇者「漠然としすぎだろ」
僧侶「彼のことはいまいち分からないのです」
勇者「あ、でもその気持ちは分かる。とても分かる」
僧侶「長い間友人として傍にいるというのに、ガンナーという男の核の部分には未だ辿り着けませんね」
魔法使い「どれくらい一緒なんだっけ」
僧侶「私の両親とガンナーのご両親が知り合いだったので、おそらく赤ん坊のころから頻繁に会っていましたよ。物心ついたころには既に我々の傍にいましたので。よく一緒に遊んだりしましたね……遊んだというより泣かされていた記憶しかありませんが」
勇者「ああ……それは俺にも心当たりあるなあ」
魔法使い「幼いガンナーってどんなだったの」
勇者「俺があいつと初めて会ったのは、たしか俺が八才のころだったから、九年前かな。……ぶっちゃけ今と全然変わんないよ。あいつ七才で既にあんなだった」
魔法使い「ああ、勇者の泣き虫時代か」
勇者「言うなよ」
吟遊詩人「勇者、貴方記憶力いいわね」
勇者「そうかな? 僧侶と騎士は確か、街に越してきてからだから……俺が十四の頃だったか? 吟遊詩人とも同じ時期に知り合ったよね」
吟遊詩人「ええ。そうね」
僧侶「ガンナーとの口論で涙目になった貴方に助け舟を出した事はしっかり覚えています」
勇者「なんでそこしっかり覚えてるんだよ」
僧侶「……彼に勝てるとは思わない方がいいですよ。身も心もズタズタにされますから」
勇者「うわぁ説得力ある! ……っていうか、僧侶って泣くんだな」
僧侶「たしかに私は父から『いかなる時も冷静さを忘れぬように』と言われ育てられてきましたが」
魔法使い「……勇者、いくら僧侶でも落ち着いた性格ってだけで感情がないわけじゃないんだよ? 怪我すれば血は出るし傷付けば泣くんだよ……」
勇者「えっ!? い、いやそういう意味じゃなくて! ただ、幼いころとはいえ僧侶が泣くってところを想像できないというか……俺は今みたいに冷静な僧侶しか知らないからさ」
魔法使い「気持ちはわかるけどね」
勇者「それに、今は誰に酷い事言われても表情一つ変えないし……だから余計信じられなくて」
僧侶「勇者さん、勇者さんはこれまで多くの人と出会ってきたでしょう。その中で最も手厳しく、毒舌な人は誰です?」
勇者「ガンナー」即答
僧侶「私も同じ意見です、勇者さん。……慣れというのは、恐ろしい物なのですよ」
勇者「……ああ」
勇者は理解して項垂れた。