11 僧侶「夜は明けました」
~翌朝、レンテ付近の小屋~
僧侶「おはようございます」
勇者「ん、あ、ああ……おはよう」
勇者「(そっか、俺僧侶の家に泊まったんだ。家っていうか、小屋だけど)」
僧侶「お体の具合はいかがですか?」
勇者「昨日と比べてかなり楽になったよ」
僧侶「それは良かったです」
勇者「早いところクリエントにもどらないとな……あ、なあ、僧侶も一緒に来てくれないか?」
僧侶「私も――ですか?」
勇者「実は王様からこの手紙が届いて……」
僧侶「……なるほど、魔王討伐――ですか」
勇者「僧侶がいればこの先の戦いも楽になるし、ガンナーや他の奴も喜ぶしさ……というより、現段階での俺のすべきことが仲間を六人集めることだから、あと二人必要なんだよ」
僧侶「……」
勇者「とはいえ、多分こういうことってすぐには決められないこと――のはず、だから、今すぐに返事をしろとは言わないよ」
僧侶「お断りします」
勇者「えっ」
僧侶「あ、いえ、ざっくり言いすぎました。断る――というのは現時点では返答しがたいという意味でして、その、騎士の事もありますので……一度話し合わせてください。それまで勇者さんについて行くことはできません」
勇者「ああ、そうか……じゃあ、俺は街に戻るから、答えが出たら連絡してくれ」
僧侶「承知致しました」
~クリエント、宿の外~
剣士「やっぱり朝は少し冷えるな」
剣士「一晩経って少し気は落ち着いたが――どうするかなあ、これから」
剣士「……なんとかなる、か」
「剣士」
剣士「……ん?」
勇者「剣士」
剣士「」
勇者「は、半日ぶり……」
ドタバタ
剣士「大変だ、おい魔法使い、起きろ!」ペシペシ
魔法使い「痛ッ、ちょ、えー、なに……なにィー……」
吟遊詩人「どうしたの剣士、そんなに慌てて」
魔法使い「テンションたかいね」ポケー
吟遊詩人「いやそういうわけじゃないと思うんだけど……」
剣士「勇者が帰ってきた!」
吟遊詩人「えっ」
剣士「なんか知らんが無傷で!!」
魔法使い「な、なんだってェー!?」
~事情報告~
勇者「――で、だから俺は、レンテで刺されたあとはずっと僧侶のところにいたんだ」
魔法使い「な、なるほど。とりあえず無事でよかったよ」
吟遊詩人「ええ、そうね。……僧侶は騎士と一緒じゃなかったの?」
勇者「喧嘩して騎士が出て行ったみたいなんだ。ついてくるか来ないかは騎士と一度話し合ってじっくり考えたいらしい」
剣士「そうか」
魔法使い「出ていったって、あの騎士が? っていうかあの双子が喧嘩してる姿なんて想像できないんだけど」
勇者「俺もそう思ったよ……それよりガンナーだ。落ちていなくなった……って、ガンナーは無事なのか?」
剣士「わからねぇから困ってるんだろ!」
勇者「怖い。ごめん」
剣士「……いや、こっちこそ。ちょっと昨日から衝撃的なことが起こりすぎて不安定なんだ」
勇者「う……なんかゴメン」
勇者「森――その剣士たちが行ったっていう丘の下ってアラバの森だよな?」
剣士「ああ」
勇者「確かアラバって、武闘家が住んでるんじゃなかったか?」
剣士「武闘家――えっあいつ森に住んでるのか?」
魔法使い「剣士は会った事あるんだっけ?」
剣士「面識自体はある。住んでる場所は知らなかったが……会ったのはクリエントの街の中でだけだったからてっきりその辺に住んでるのかと」
吟遊詩人「私は会った事ないんだけど……女の人? それとも男の人? 勇者と同い年なの?」
勇者「女の人――というより女の子って歳だな。えっと、確かまだ十歳くらいだったはずだ」
吟遊詩人「お、幼いのね」
魔法使い「よく外を走り回ったり、森のなかで訓練とか言って魔物倒したりしてるし……もしかしたらそこにガンナーがいるかもしれないね」
剣士「……可能性はあるな」
勇者「じゃあ、一度武闘家の家に行ってみよう」
~アラバの森~
武闘家「おー! ガンナーの兄ちゃんならさっきまでうちにいたぞ!」
剣士「本当か!」
武闘家「騎士の姉ちゃんが兄ちゃんを運んできて泊まってった」
魔法使い「騎士が?」
勇者「騎士もここに来たのか」
剣士「二人は今何処にいるんだ?」
武闘家「二人とも朝起きてすぐどっか行っちゃったぞ! ガンナーの兄ちゃんが騎士の姉ちゃんを送るって言ってた! 言ってたっていうか、書いてた!」
魔法使い「手紙?」
手紙「騎士を僧侶のところまで送る。戻らない。 ガンナー」
魔法使い「短っ」
剣士「まあ、あいつらしいが……」
吟遊詩人「入れ違いになったのね。ガンナーの無線機は宿にあるから、連絡手段もないし。足で捜すしかないわね」
勇者「なあ、そもそもあいつはどうして無事だったんだ? あの高さからだと……死んでなかったのが奇跡みたいな感じだし」
武闘家「騎士の姉ちゃんがな、ガンナーの兄ちゃんが落ちてきた時、ぶわ! ってなったって言ってたぞー?」
勇者「地面に向けて強い風をぶつけてクッション代わりにしたってことか?」
剣士「……風の能力を使ったんだな。力の使いすぎで気を失ったんだろう。直前に俺を助けた分もあったし、なにより力を使ったのはあれがはじめてだったはずだ」
吟遊詩人「無理もないわね、自分にどれほどの力があるのかもわからなかったはずだもの。まだ慣れてないうちからめちゃくちゃに使えばそりゃ、倒れもするわ」
魔法使い「とにかく一度、僧侶の家に行ってみよう。もしかしたら三人とも一緒にいるかもしれないよ」
勇者「このまま宿で待っててもいい気がするけど、そうだな」
武闘家「勇者がんばれー!」
勇者「あっ俺には『兄ちゃん』って付けないんですかそうですか。いえハイわかってましたよ」
~レンテ付近の小屋~
吟遊詩人「だいぶ歩いたわね」
魔法使い「誰もいないみたいだよ。鍵もかかってるし」
勇者「あっ、もしかしてクリエントに行ったのかも。二人で話して結論が出たら俺たちが泊まってる宿に来るって言ってたし」
吟遊詩人「なら一人残って居ればよかったわね」
剣士「宿に行ったなら、僧侶は騎士と一緒って事だよな。なんで誰も残らなかったのか不思議だ」
魔法使い「全ては勇者の説明不足」
勇者「うわっ俺にすべての責任を押し付けた……」
吟遊詩人「と、とにかくクリエントに戻りましょう。ガンナーたちが戻ってるかもしれないんでしょう?」
剣士「三人一緒で寝てる、という事もあるかもしれない」
魔法使い「それはどうかなぁ」ハハ
~少し前、小屋~
ガンナー「ここか?」
騎士「ここ」
ガンナー「ずっとここにいたんならクリエントで捜しまわっても無駄だったんじゃねえか」
騎士「うん」
ガチャ
僧侶「! ガンナーに……騎士! いったい何処にいたのですか、丸一日連絡を寄越さないなんて!」
ガンナー「僧侶久しぶり、魔王退治行こうぜ」
僧侶「ガンナー、空気を読みなさい」
ガンナー「兄妹喧嘩とかもういいから魔王退治行こうぜ」
騎士「もう怒ってないから魔王退治」
僧侶「貴方は賛成なのですか」
騎士「反対?」
僧侶「……そうは言ってません」
ガンナー「僧侶が仲間になった」
僧侶「人の話は最後まで……ハァ、貴方は本当に昔から変わらない。三人でじっくり話をしたかったのですが」
騎士「教会の仕事より旅のほうがいい」
僧侶「そうでしょうか」
ガンナー「そうなんじゃねぇの?」
僧侶「……分かりました。お供しましょう。反論しようにも貴方がたが相手では歯が立ちませんし」
ガンナー「物凄い速さで事が進んだ。それもこれもすべて計画通り」
~クリエント、宿~
ガチャ
「わっ暗い」
「電気電気」ゴツッ
「痛っ足ぶつけた」
「何してんだよ……」
「電気のスイッチどこ?」ペタペタ
「そっちじゃなくてこっちよ」
パチッ
勇者「……」
剣士「……」
魔法使い「……」
吟遊詩人「……」
ガンナー「Zzz」
騎士「Zzz」
僧侶「Zzz」
剣士「……ほら俺の言った通りだった」
魔法使い「わぁ、僧侶の寝顔なんて始めてみた」
勇者「あ、本当だ、俺も始めてみた」
吟遊詩人「あらあら、三人とも仲いいのね」フフフ
勇者「……ってそうじゃねえだろ!!」
剣士「なんつーノリツッコミ」
勇者「何があってどうして本当にこの三人が一緒に寝てるんだよ」
魔法使い「ガンナーと騎士が合流してそこに僧侶が入ってここにきたんでしょ?」
勇者「急に冷静になったな」
吟遊詩人「あんまり騒ぐと三人共起きちゃうわよ」
僧侶「ん……! あっ、ゆ、勇者さん。ああしまった、私とした事が二人につられて眠って」
勇者「起きたと思ったら物凄い勢いで落ち込みだした」
騎士「足寒い」ムク
ガンナー「うおまぶしっ」
魔法使い「二人も起きちゃった」
ガンナー「……あ、剣士昨日ぶり。あの後何もなかったか?」
剣士「心配させるだけさせといて呑気に昼寝なんかしやがって」
ガンナー「悪い悪い」ノビー
剣士「(……でも、まあ無事だったならいいか)」ハァ