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ACCEPT  作者: 機動戦士ガンジス
Ghost meets the ghost
15/20

Introduction Part1

◆◆◆ 4月某日 ◆◆◆


 都市伝説のタマは今日も暇であった。

 それは即ち、空腹を意味する。


 あの空を流れる綿雲の群れを美味しくいただけたなら、どんなに良いだろう。

 もう一々オソナエモノを漁る必要はなくなるし、時々迷い込んでくる人を驚かせなくても済む。

 群れなすビルの陰に生えた草花は、まあ食べれなくはないが出来る事なら遠慮したい。


 しかし、不満と言ったらそれぐらい。

 旧市街と臣島ストリートの境目、切り立つビルの窓からそっと眺める足下の景色は、今日も色とりどりで飽きることがない。

 陽光を跳ね返すレンガ道、様々な商品を飾ったショーウィンドウ、そこを行き交う人々に、たまに混ざる個性的なシルエット。


(いいよねぇ、みんな一緒で、みんなちょっとずつ違う)


 声には出さず、温かい気持ちでそれを眺める。

 彼らは時々仲間同士で争ってはいるけど、基本的に皆楽しそうだ。


 翻って、己は違いすぎる。何もかもが違いすぎる。

 言葉も分かる。笑うことも出来る。涙だって流せる。体力を使うが、彼らの容姿を真似ることだって出来た。その後、試しに犬の姿を取ろうとしても、どうにも上手く行かなかったことで確信した。


 かつて、己は人間(ア レ)だったのだと。


 それがどうしてこのような姿になったのかが、とんと思い出せない。

 気がつけばどうしようもなく辛くて悲しくて、全身(・ ・)の手(・ ・)で何かをつかもうとする己の姿が、最初の記憶。

 涙をとめどなく滝のように流し続け、自らを取り囲む風景を強く心に刻み付け──その日、都市伝説は慟哭(うぶごえ)を上げた。



 近頃、あまり長いこと彼らを眺めていると、妙な気持ちになってくる。こんなことは今まで無かった。

お腹が満たされて、キチンと夜に眠れていればひたすらに幸せだったのに。


 原因は解っている。彼だ。彼と『お話』してしまったから。

 初めて人間とたくさん喋って、さよならしてしまったから。


 要するに、寂しいのだ。コレが寂しいという気持ちなのだ──そんな新鮮な気持ちを胸の奥に大事に大事に仕舞いこむ。再び空を見上げる。

 果てなき空にのんびりとした雲の群れ。彼らにそっと、願い事。


(……──また来ないかなあ、クラマ君)


 そんな何気ない願いは、程なく叶うことになる。


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