Good-bye and Hello!
はいけい 二十年後のボクへ
仕事は、何をしてますか? けっこんは、してますか? ボクは、未来のボクに、会うのが楽しみです。
きっとボクは野球せんしゅになって、たくさん活やくしてると思います。
ボクは、今楽しいです。幸せです。きっと、未来のボクも、とっても、幸せだと、思います。
拝啓 十三年後の俺へ
未来の俺は何をしてますか? ニートになっていないか、俺は心配です。
やりたいことはやってますか? 野球は、まだやってますか? 普通のサラリーマンなんか、親父みたいで、俺は嫌です。
今の彼女と、まだ付き合ってますか? もしかして、結婚なんかしちゃったり。でも、そんなに続かないこともわかってます。
未来の俺は、元気ですか? 俺は元気です。幸せですか? 俺は彼女がいるから、めっちゃ幸せです。
拝啓 九年後の俺へ
俺は、大人になるのが怖い。仕事とか、責任とか。この年で、そんなこと怖がっちゃいけないってのは、わかってる。でも、やっぱり怖い。
今日、俺は大学を辞めた。未来の俺は、「あぁ、そんなこともあったな」って、笑って思いだしてくれるかな。
親父は、まだ生きてるか? 俺、あいつのこと殺してやりてぇ。もしかしたら、本気で殺しちまって、三十歳の俺、牢屋行きかもな。
あいつなんか、親でもなんでもねぇ。出てくとき、一発でも殴っとけばよかった。まぁ、そんな余裕なんてなかったけど。
金とか、そういうのホント嫌になっちまう。借金抱えて、バカじゃねぇのか? 挙句の果てには、俺らのこと見捨てやがって。あいつは、逃げやがったんだ。殺してぇ。マジで、しんでくれ。
あー、もうやだ。これからどうすんだよ。俺、働かなきゃなんねぇ。母さんも、仕事探してるし。
俺、どうなってんだろ。わかんね。
拝啓 五年後の俺へ
こうやって、自分自身に手紙を書くのは、いつだって落ち着く。これのおかげで、俺の精神は安定してるのかもしれない。俺の、ストレス解消法。
久しぶりの休日だったから、昼近くに起きた。そしたら、電話が鳴った。相手は母さんだ。久しぶりに声が聞けて、俺は懐かしくてうれしかったけど、様子がおかしかったんだ。
今朝、親父が水死体で発見された。
発見したのは、川で釣りに来てたおっさん。発見した時には、もう死んでいたらしい。死因とかは、後日わかるらしいけど。たぶん、自殺だろう。
母さんは、泣いてた。かすれ声で、俺に帰って来いって行った。
俺は、泣かなかった。泣けなかった。泣く気配すらなかった。それほど、俺の中での親父の価値は低かったのかって、結構ショックだった。
俺は、親父が嫌いだった。借金から逃げて、俺たちを捨てた、あいつが憎くてたまらなかった。でも、腐っても親だ。心の中のどこかはしっこでは、あいつをまだ家族として見てる自分がいると、そう思ってた。
でも、違った。全然、俺にとってのあいつの存在なんて、これっぽっちもなかったんだ。
そう思った途端、気持ち悪くなった。吐いちまった。肉親をただの他人、いやそれ以下だと思ってる自分が、気味悪くてしかたなかった。
不安になった。母さんのことも、そんな風に思ってるんじゃないかって。結婚した相手とか、子供とかも死んでもなんにも思わないんじゃないのか?
未来の俺はそんな心配なんて、してないか? お気楽に過ごしてるか?
葬式には行く。でも、墓参りとかは、わかんねえ。命日とか、覚えられる自信が無い。一年もたたずに、あいつの存在なんて忘れてるかもしれない。怖い。気持ち悪い。
拝啓 一年後の俺へ
今日は、親父の命日だ。なんだかんだでいろいろと悩んでたけど、毎年墓参りはしている。でも、やっぱり複雑な気分だな。
今まで何度も手紙を書いてきたけど、今日ほど落ち着いて書いたのは、ガキのころ以来なんじゃないかな。
高二のときは、普通に彼女できた嬉しさに書いてたからな。あの子今何してんだろ。たぶん、普通にOLかな。俺も、普通のサラリーマンだし。
なんだかんだで、あの子以来の本気で好きになった彼女もできたし。会社の同僚で、かなり気が合うんだ。俺、今幸せだな。
一年後、どうだろうか。とうとう俺の手紙も、一年後には卒業だな。
なんで三十歳にしたのか、全く覚えてない。たぶん、ガキのころだから、そんなに深い意味はないかな。
拝啓 三か月後の俺へ
三か月後、俺は無事に会社に来てるだろうか。覚悟を決めたのはいいが、緊張で三か月後までもつ自信がない。
未来の俺は、どうしてるだろうか。自分の誕生日近くに決めるなんて、やっぱどうかしてるかも。もう、誕生日当日でもいいかな。たぶん、覚えてくれるだろう。この日だって。よし、誕生日にしよう。
もしかしたら、泣いてしまうかもしれない。とりあえず、母さんは泣いてしまう。あまり、泣かしたくないんだけどな。
とりあえず、悔いの残らないように、今のうちに残り少ない日々を楽しんでおこうと思う。
拝啓 明日の俺へ
本当に誕生日の日にしてしまった。なんか、後悔しそうだ。いや、後悔なんてする必要ないか。
今日は眠れそうにない。さっきコーヒーを飲んだからかもしれないけど。
たぶん、明日俺はこの生活に別れを言わなければならない。だから、ここで言いたいことを書いておこう。
とりあえず、今までお世話になった人へ感謝だ。まず思い浮かぶのは、母さんだ。
こんな、不甲斐ない息子を、今まで育ててくれてありがとうございました。最後まで迷惑をかけると思うけど、あなたの子供に生まれてこれて、俺は幸せでした。親孝行なんて、全然できなくてごめんな。
それから、もういない親父。俺、あんたのこと嫌いだ。だから、とりあえず今度会ったらぶん殴るから。会えたらの話だけど。でも、なんだかんだで二十歳ぐらいまでは世話になった。あんたと、野球の話するのは、楽しかった。また、話したい。
あとは、世話になった学校の先生とか、昔のダチとか、会社の同僚とか。もう、一緒にやんちゃできないからな。
俺は明日、今日までの自分自身にお別れする。もう、二度と同じような景色は見えない。
明日はたぶん、思ってる余裕なんてないから、今言ってしまおう。誕生日おめでとう、俺。
よし、寝よう。
拝啓 三十分後の俺へ
駄目だ、心臓がばくばくする。足が、がくがく震えだしてる。冷や汗が止まらない。うまく、息ができない。自分が、ここまで情けない奴だとは思わなかった。
でも、やらなきゃ、やらなきゃだめなんだ。
あぁ、携帯でこの文を打っている俺の情けない姿。でも、こうでもしなゃ俺は落ち着かないんだ。誰でもいいから、俺に勇気を!
だめだ、もうこんなことしてる場合じゃない。そろそろだ、そろそろやらなきゃ。
拝啓 五分後の俺へ
よし、俺はやる。
今までありがとう! そしてさようなら! 今日までの俺! 俺は今日、いや五分後、俺の世界は終わる!
ありがとうございました!
「今日は、俺の誕生日だ。だからプレゼントに、君の一生をください」
そう言って、給料三カ月分の指輪を差し出した。
彼女は泣きそうな顔で笑って、強く頷いた。
拝啓 昨日までの俺へ
我ながら、恥ずかしいプロポーズの仕方だと思う。でも、彼女が抱きついた瞬間、恥ずかしいとかそんなものは思わなかった。
今日はまだ俺の誕生日だ。今夜は眠れそうにないな。
新しい俺の人生の門出だ。それなりに自粛することもあるし、仕事にも精を出さなきゃな。飲み会だって、数を少なくするぞ。
今日で俺の独身生活も終わりなんだ。今までの生活に、お別れだな。
今日までの、未来にあてた俺への手紙を、いっきに呼んでみた。馬鹿らしくて笑ってしまった。
まずな、野球選手になんてなってない。どうせ、親父みたいな普通のサラリーマンだ。でも、親父と一緒にするなよ、過去の俺。俺は出世街道突っ走ってるからな。
それから、大学。親父の借金のせいでもあったけど、アレはあの大学選んだ俺にも責任がある。その場の勢いで決めて、専門大学とか、ただのアホだ。しかも、補欠で合格して勉強追いつけてないし。元々、俺の家庭であの授業料はきつかったんだ。親父に謝れ、過去の俺。
親父の死因は事故だった。親父の趣味は野球と釣りだからな。普通に足を滑らしたんだろ。本当、馬鹿だ。
それにしても、アホなことで悩んでたなぁ。家族が死んでもだ? んなこと思ってたら結婚なんてしない。安心しろ、俺。俺は人情のある人間だ。ちゃんと確信もてる。
本当、アホだな。アホだ、馬鹿だ、本当に俺アホだ。くっだらないことに悩んで、今思うと笑えるぜ?
あと、俺は今とてつもなく幸せだ。もちろん、これからも。
あぁ、そういえば。昨日の夜、やっぱ眠れなくて母さんに電話したんだよ。なんで手紙のあて先が三十歳なのか、訊いてみた。
その年は、母さんと親父が結婚した日らしい。
で、思いだした。ガキの頃、というか初めての手紙を書くその夜に、親父から聞いたんだ。酔っぱらっててさ、酒臭い口で惚気たんだよ。滅多にそんなこと話さないから、やけに真剣に聞いていたのを覚えてる。
それで決めたんだ。三十歳に結婚しようって。恥ずかしい話だ。昔から、俺は乙女思考だったんだな。キショイな。
その日から、俺の手紙は始まった。その決め事は忘れても、ちゃんと今日まで手紙を書き続けた俺は、我ながらすごいと思う。無事に結婚できたしな。
さて、そろそろ俺の誕生日は終わる。だから、この辺で終わりにしよう。
もう二度と書くことのない、過去から未来への手紙。
「さむっ」
思わず独り言をこぼして、俺はコートの上から腕を擦った。コートの下はただの寝巻だ。さすがに冬の夜では寒すぎる。
夜中の公園は本当に薄気味悪い。電灯と月明かりだけでは気味悪さも倍増だ。そこに、コート姿の俺は、傍から見れば変質者だろう。とりあえず、誰もここを通らないことを願っておこう。
コートのポケットに手を入れて、奇麗に封をされた一通の手紙を出す。もう時刻は十二時を回っている。俺の誕生日は過ぎた。
俺はもう片方のポケットからライターを取り出し、試しに火を点けてみる。ガスは十分のようだ。
その場にしゃがみ込み、寒さに震える指先で、もう一度火を点ける。そして、その火を手紙へと近づけ、点火した。燃え広がる前に、冷たい地面に手紙を置いた。
あたりを照らしながら、手紙についた火はゆっくりと燃え広がっていく。それを間近に見て、焦げて行く手紙を見続けた。
「……っ、げほ! ごほっ、くっせぇ!」
近くにいたせいで、煙をもろに吸ってしまった。手でばたばたと煙を散らし、すぐに後ずさった。我ながら、アホな姿だ。
十分すぎるほど離れた場所で、煙によって涙目になった目を向けると、そこにはもうチリチリと燃える紙の残骸しかなかった。
過去へと向けた俺の手紙は、塵となった。
静かな夜の公園で、俺はポツンと立っている。放火魔と勘違いされないかが心配でならない。だが、頭の隅でそうは思っていたが、妙に落ち着いた気分だった。
俺は空を仰いだ。特には変哲のない、ただの冬の夜空だ。都会の空にしては星がよく見える夜だった。でもその中でも、月だけが異様に明るい。
「……さむ」
ぶるりと寒さに体を震わせ、俺はポケットに両手を突っ込んで家へと歩き出した。
自然とにやついてしまう俺は、とりあえずただの変態だろう。
俺は、今日から新しい生活を始める。きっと、昔みたいにうだうだ悩むこともあるだろう。まぁ、そのときは思いっきり悩むといい。どうせ、三十年も経てば、どうでもいいことと思えるのだから。
俺はアホだ。アホだから悩む。昨日までの俺よりは、ちょっとはましなアホにはなっただろうか。
さて、昨日までの俺とはお別れをしようか。
さようなら、昨日までの俺。そして、こんにちは、今日からの俺!
了
文芸部で文化祭に出すために書いた物語です。
短編は書くのが難しいです……。
ちなみに、この物語は少し僕と似通った部分があります。どこかとは言いませんが。
といっても、同じところはほんの一部分ですけど。
自分の体験を織り交ぜたフィクションは、書いていてあまり気持ちのいいものではありませんが、実際の僕の感情をリアルに書くことができるので、とても書きやすいです。
さまざまな体験をして、僕はようやく一つの文を完成することができます。
想像だけでも一応かけるのですが、僕の力ではまだまだ伝えたいことの半分以上も伝えることはできません。
僕は、こういう書き方が、性にあっているのでしょう。
お目々汚し失礼いたしました。