50話
十二月。もうすぐクリスマスだ。
それにちなんで、私達三人はケーキを食べに行くことにした。
やってきたのはちょっとお高めのカフェ。
それでも、カフェの前には列が出来ていて、女子高生も並んでいる。理由はSNSで話題の可愛らしいケーキにあった。
「蒼先輩、寒いですね……」
「そうか……?」
蒼ちゃんは風の子。子供の時は冬でも半袖短パンで平気だった。もちろん、今はそんな格好をしないけど。
「温めてください」
光ちゃんが両手を差し出す。蒼ちゃんは手を見て考えた後、光ちゃんの手を握った。
「こ、こうか……?」
顔を赤らめて、不安気な表情を浮かべる蒼ちゃん。光ちゃんは笑顔を浮かべる。
「はい、蒼先輩の手温かいです」
「っ……」
私の前でカップルがいちゃついている。
蒼ちゃんとは違い、私を温めてくれる相手は、目の前で他の女の子を温めている。
何て残酷な世界なんだ……!
それから、寒い中、列は解消されて私達の番になった。
テーブル席に座る。私の対面には蒼ちゃんと光ちゃんが座っていた。
運ばれてきたケーキは小さなホールケーキ。
「わぁ、可愛いですね……!」
光ちゃんは瞳を輝かせて、ケーキの写真を撮った。
そんな光ちゃんの様子を見て、蒼ちゃんは満足げに笑った。今回、光ちゃんを喜ばせようと、必死にお店を調べたのは蒼ちゃんだった。
ふと、蒼ちゃんがこっちに視線を向けた。
『良かったね』
口パクで伝えると、蒼ちゃんは親指を立てた。
「あ、蒼先輩……! 可愛くて食べれないです……!」
光ちゃんが上目遣いで蒼ちゃんにそう伝えた。
可愛さ増し増しである。
「そ、そうか……!」
蒼ちゃんの顔を緩んでしまった。もう、デレデレである。
「でも……勿体無いので食べます……!」
光ちゃんはフォークでケーキを切ると、一口食べた。
「お、美味しいです……! 蒼先輩のも美味しそうです」
「ひ、一口いるか……?」
「はいっ!」
蒼ちゃんはケーキを光ちゃんに差し出すが、光ちゃんは首を横に振った。
「蒼先輩が食べさせてください」
「っ……わ、分かった……!」
蒼ちゃんは震える手でケーキを切り分けると、光ちゃんの口元へと、ケーキを運んだ。
「美味しいです……蒼先輩もどうぞ」
「お、おう……」
光ちゃんは蒼ちゃんにあーんをした。
「………………」
そんな甘々な光景を見せられて、私の胸がチクリと痛んだ。
その視線に気付いたのか、光ちゃんは僅かに笑った。
「手洗い行ってくる」
蒼ちゃんが席を離れ、トイレの方へ向かう。
「文香先輩」
「っ……」
光ちゃんの足が、私の足を撫でた。ぞくりとした感覚が背筋を走る。
「嫉妬してますか?」
艶やかな唇は弧を描いていた。
「……うん」
「ふふ、素直ですね……素直な文香先輩は可愛くて好きですよ」
「っ……」
顔が熱くなる。たぶん、私の顔は真っ赤だ。
「文香先輩、口を開けてください」
目の前には、フォークで刺したケーキがあった。
「……っ」
大人しく口を開けると、ケーキが口に入る。
「どうですか?」
「……美味しい」
「ふふ、良かったです……次は文香先輩の番ですよ」
光ちゃんはそう言って、口を開けた。私はケーキを切り分けると、光ちゃんにあーんをした。
「……恋人に食べさせて貰うと格別ですね」
「っ……」
「あ、文香先輩。また、顔赤くなりましたね」
「み、見ないで……」
「えー、照れた顔可愛いのでもっと見せてくださいよ」
光ちゃんはそう言って私の頬を突いた。
「残念、時間切れです」
光ちゃんは指を離した。そして、蒼ちゃんが戻ってくる。それからも、蒼ちゃんと光ちゃんのイチャイチャは続く。
「……」
光ちゃんは私の恋人なのに……!
ちょっと、ムカつくけど、この道を選んだのは私だ。だから、このイライラは受け入れないといけない。
それから、カフェを出て、私達は解散した。
ちょっと、お散歩してから帰ろうかな……?
「やあ、そこの可愛らしいお嬢さん、お茶でもどう?」
誰かにナンパしているのだろう。そんな漫画みたいな台詞が聞こえてきた。
見てみたい衝動はあるけど、面倒ごとに巻き込まれたら嫌なので視線を伏せて移動する。
「おーい、そこのお嬢さん」
肩に手を置かれた。どうやら、お嬢さんとは私のことのようだ。振り返ると、キザらしい笑みを浮かべた光ちゃんが立っていた。
「……お茶はさっきしたでしょ」
「ふふ、そうですね。では、お茶はやめて休憩でもしていきませんか?」
「……光ちゃんの変態」
「……そう言って、期待してますか?」
光ちゃんは楽し気に私の顔を覗き込んだ。
「……文香先輩、私の家に行きましょう」
「……うん」
光ちゃんが身体をぴたりと寄せて、私の手に指を絡めてくる。私も握り返した。
私達は付き合っている。世間でいう浮気の関係だ。
いつまで続けられるかは分からない。けど、続けられるまでは続けていきたいと思う。




