48話
私は光ちゃんを抱きしめた。
「……文香先輩、ワンパターンですね」
「……否定はしない」
どう言葉を掛けて良いのか分からないので、私にできるのは抱きしめることだけなのだ。光ちゃんの言う通りワンパターンだけど。
「抱き枕の才能……あるんでしょ?」
「ふふ、そうでしたね」
光ちゃんが私の背中に腕を回した。
「でも、良いんですか? 最低な私を抱きしめても?」
「……光ちゃんが最低でも良い。私にとっては大切な……」
「大切な、何ですか? フィアンセですか?」
首を傾げて、ニコリと笑う光ちゃん。恥ずかしくなった私は目を逸らして小さな声で答えた。
「……友達」
「友達……文香先輩と友達だったんですね?」
グサリと私の心に刺さる。私の目から涙が溢れた。
「っ……うぅ……」
「ふ、文香先輩……! 泣かないでください……」
「な、泣いてないもん……」
「……文香先輩と私は友達です。ええ、ベストフレンド! 一番の友達です!」
「光ちゃん……」
ベストフレンドで一番の友達かぁ。
そう言われると、照れて頬が緩んでいく。いつの間にか、涙は止まっていた。そして、私は光ちゃんに頭を下げた。
「ごめん……一番の友達は蒼ちゃんだから」
「……文香先輩……はぁ」
光ちゃんは呆れたようにため息を吐いた。
「まあ、良いですけど……」
それから、私達はしばらく無言で過ごした。そして、光ちゃんが重々しく口を開いた。
「文香先輩、私蒼先輩と別れようと思います」
一瞬、光ちゃんが言ったことが理解できなかった。
視線を向けると、光ちゃんはいつもの揶揄うような笑顔ではなく、真剣な表情をしていた。
「っ……どうして?」
「今回の件で……思い出したんです。恋愛は二度としないて決めたことを」
「で、でも……蒼ちゃんと付き合うこと承諾して……」
「……そうですね。私が承諾したのは文香先輩のせいです」
「わ、私……はっ、まさか……」
私の身体が目的……!
「ふふ……文香先輩の身体が目的じゃないですよ。いや、いっぱいキスしたので一概に無いとは言えないですね」
「っ……」
光ちゃんは私の唇を指でなぞる。ゾクゾクとした感覚が背筋に走る。
「まあ、理由としては、文香先輩が蒼先輩を大切な友達だと言っていたので……イラっとして壊してみたくなったんです」
「……」
返事に困っていると、光ちゃんが困った表情を浮かべていた。
「ねえ、最低でしょ?」
「えーと……うん」
つい正直に頷くと、光ちゃんがクスクスと笑った。
「文香先輩は正直ですね……」
「……なんか、ごめん」
「謝らないでください、怒ってないので……」
そっか、光ちゃん……蒼ちゃんと別れるのか……。
蒼ちゃん悲しむよね……。
光ちゃんは胸元からネックレスを手に取ると、首から外した。
「……文香先輩、私達の関係も終わりです」
「っ……」
ネックレスには指輪がついていた。私と光ちゃんがペアルックしているものだ。
「……文香先輩、最後にお願い聞いてもらって良いですか?」
「……うん」
「じゃあーー」
その日、私は光ちゃんの家に泊まることになった。
お風呂から出ると、身体を拭いて裸のまま、ベッドに向かった。
「文香先輩……」
ベッドでは私と同じく裸の光ちゃんが私を出迎える。
「……」
光ちゃんの視線を感じて、顔が熱くなった。身体を隠すと、光ちゃんがニコリと笑った。
光ちゃんの最後のお願い。
それは、温もりが欲しいとのことだった。そのため、私と光ちゃんは裸で一緒に寝ることにしたのだ。
「変なこと……しないよね?」
「もちろんです……」
その約束を信じて、私は裸でベッドに潜り込んだ。
ふと、光ちゃんの左手の薬指に視線を向けた。そこには指輪が嵌められていた。同様に私の指にも嵌められている。
「文香先輩……」
「っ……」
光ちゃんが私を抱きしめた。
光ちゃんの肌の柔らかさ、体温を直で感じ取り、身体が熱くなっていく。
「緊張してますね」
「……緊張しない方が……無理」
私の心臓は壊れそうなほど早く動いていた。
「文香先輩、分かりますか?」
「な、何が……?」
光ちゃんは私の手を握ると、自分の胸元へ導いた。
「私も緊張してますよ」
「っ……」
手のひらを通じて、光ちゃんの心臓の音が伝わってくる。
それから、私達は抱きしめ合ったまま、ぽつりぽつりと話を続けた。気がつけば瞼が重くなっていった。
光ちゃんの温もりが心地よくなっていく。
「文香先輩、おやすみなさい」
「光ちゃん……おやすみ」
しばらく経つと、隣から寝息が聞こえてきた。
「……」
私と光ちゃんの関係が終わる。そう思うと、胸が痛んだ。自然と目から涙が出てきた。
「そっか……」
いつの間にか、私は光ちゃんのことを好きになっていたようだ。
私はスマホを手に取ると、光ちゃんに頬を寄せて、ツーショットを撮った。




