47話
「っ……」
私はカッターを投げ捨てた。床にぶつかり、刃が折れる。
「はぁ、はぁ……」
鏡で自分の姿を見る。刃先が軽く触れた程度だから、傷は付いていなかった。
「どうして……」
ふつふつ腹の底から湧き上がってくる。拳を床に叩きつけた。
どうして……! どうして、自分が理不尽な目に遭わないといけないの……!
絶対に許さない……!
「そうだ……」
私の容姿は周りよりも優れている。なら、武器になるはずだ。
「ふふふ……あはは」
鏡に映る自分は楽しげに笑っていた。
さあ、楽しい楽しい復讐劇の始まりだ……!
翌日、私はいじめっ子の一人である響が一人になる瞬間を待った。
トイレに入った瞬間、私はぴたりと背中につく。
「ひ、光……!」
響が私に気づいて、睨んできたが、私は軽く微笑んだ。そして、響の背中を押して一緒に個室へと入る。鍵を掛けると、響は眉をピクリと動かした。
「ど、どういうつもり……!」
声を荒げて、私の肩を掴む。私は響の頬に手を添えると、キスをした。
「っ……な、何をして……」
初めてのキスだった。けど、何の感情も湧いてこない。私の頭にあるのは復讐のことだけだった。
キスをされた響は顔を赤らめながらも私を睨みつける。
「私ね、響のこと……好きなの」
「はぁ……! おまえは何を言って……!」
「信じて……! 本当の事なの……」
涙を浮かべながら、訴えかけると、響が一歩後ろに下がった。それから、何度もキスをした。最初の方は必死に抵抗していた響だが、抵抗が弱々しくなっていく。
「私の気持ち……伝わった?」
「……よく分かった」
響は顔を赤らめて、目を逸らした。
どうやら、私の容姿が武器になるのは間違いではなかったようだ。
それから、私達は秘密裏に会って、キスだけではなく身体を重ねていく。次第に響から私を求めるようになっていった。
そして、響だけではなく、他のいじめっ子にも同様のことをした。皆、私のことを求めるようになっていく。
その頃になると、誰がいじめの首謀者で噂を流した犯人か分かった。予想はしていたけど犯人は楓だった。
「私……楓とは誤解があったと思うの」
「光は優しいな……私が間を取り持ってみる」
「ありがとう……大好きだよ」
身体を重ねた一人一人に楓と仲直りしたいと伝えた。楓とは誤解があっただけだと。
楓は当然反対した。
「仲直り? ふざけないで……!」
その結果、今度は孤立した楓が虐められる番になった。
「あはは……」
上手く行った。私は鏡を見て笑った。人を陥れて笑う醜い笑顔だ。
けど、復讐はまだ終わっていなかった。最後まで絶対にやり遂げてやる。
「光……」
「嵐、久しぶり」
「その……楓が虐められてるよね……どうにかならないかなって……」
「……」
私が虐められている時は何もしなかったのに、寝ぼけたことを嵐は言ってきた。声を荒げたいのをグッと堪えて、私は嵐に笑顔を向けた。
「……嵐は優しいね……色々あったけど、楓のこと……友達だと思ってるから、頑張って見るね」
「……ありがとう、光」
嵐は私を抱きしめた。
まあ、何もする気はない。そもそも、私が皆を扇動していると、嵐は気づいてすらいないだろう。
楓は不登校になった。
それを見届けた私は復讐計画を次の段階へと進めた。
「響……私達、別れよう……」
「っ……どうして、理由を教えて……!」
「……それは……」
私は目から涙を溢れさせた。
「……私……脅されてて、響以外ともこういう行為をしてるの……! 本当は響以外とはしたくないのに……!」
私は響に訴えかけると、響は私を抱きしめた。
「光……私に任せて。光をそんな目に合わせた奴絶対に許せないから……!」
「響……ありがとう」
私は響とキスをした。
同様の手口を他の人にも行う。
「本当に好きなのはあなただけ」
「他の人には脅されている」
そう伝えると、みんな信じてくれた。
そして、私を巡って潰し合いが始まった。
この頃には、教師だけでは事態は収集できなくなり、警察沙汰が怒ることも珍しくなかった。
「七瀬さん、少しお話し良いかしら」
「……はい」
「みんな七瀬さんの為にやったて言ってるんだけど……」
流石にやり過ぎてしまった様だ。
親に連絡が行き、私は他の学校に転校することになった。
それから、中学時代の友達とも会う事がなく、高校生になった。
***文香視点***
「この前の不審者は……中学時代の友達で、私が唆した相手です」
光ちゃんは私から離れると向き合った。
「私は最低の人間なんです。復讐するために、他の人を利用して……そして、私自身も楽しいと思いました……文香先輩……こんな私を軽蔑しますよね」
「……」
光ちゃんは目を伏せて、私に懺悔した。




