44話
「おはようございます、蒼先輩」
「っ……おはよう、光……」
光ちゃんが目元を擦りながら、起き上がった。
「……昨日は、その……」
光ちゃんが顔を赤らめて、視線を逸らした。意味有り気な発言に蒼ちゃんの顔も赤くなっていった。
「そ、そうなのか……! すまん、全然記憶に無くて……けど、責任は取るから……!」
蒼ちゃんは動揺しながらも、光ちゃんと肩を掴み、そう宣言した。
「……ふふ、冗談ですよ」
「………………え? 冗談?」
「はい、昨日は何もありませんよ。蒼先輩と一緒に学校行きたいと思って、蒼先輩を起こしにきました。ついでに悪戯しちゃいました」
と、笑いながら話す光ちゃん。
「そ、そうか……」
一安心した蒼ちゃんは私を睨んできたけど、私は視線を逸らした。
準備を終えて、私達は一緒に登校する。
「……母さんにバレるなんて……」
蒼ちゃんは顔を赤くしていた。
『蒼にこんな可愛い恋人が居たなんて母さん知らなかったわ。今日はお祝いに晩御飯蒼の好きな物たくさん作ってあげるから』
と、蒼ちゃんのお母さんが言っていた。
「……私が彼女じゃ、ダメって事ですか?」
「いや、そうじゃないんだ! 光が彼女で嫌だと思った事は一度もない……! ただ、根掘り葉掘り聞かれるのが恥ずかしくて……!」
蒼ちゃんが頭を抱える。
うん、蒼ちゃん頑張って。
それから、私は不審者に会ったことを蒼ちゃんに話した。もちろん、光ちゃんの家に泊まったことは内緒で。
「不審者に会ったのか……! 怪我、してないか!」
「……だ、大丈夫……逃げたら、追って来なかったから……」
「……すまないな。私が一緒に帰っていれば不審者なんてボコボコにしてやったのに……!」
蒼ちゃんが拳を握り締める。蒼ちゃんのことだから、本当にボコボコにするだろう。
「文香、しばらくは一緒に帰るぞ」
「部活の助っ人は良いの?」
「構わん。文香の安全の方が大切だ」
「ありがとう……」
「光もしばらくは一緒に帰るぞ」
「了解です」
一人で帰るのは不安だったので、蒼ちゃんの誘いは有り難かった。
放課後。昇降口で待ち合わせした私達は一緒に帰る。
蒼ちゃんは周囲を警戒するように、見回していた。
まるでSPのようだ。
「折角なので、寄り道しませんか? あの公園でクレープ売ってるみたいで、友達が美味しいて言ってました」
「クレープか……良いな!」
公園に入ると、一台のキッチンカーが停まっていた。私達はクレープを注文した後、ベンチに座って食べることにした。
「飲み物買ってくる。文香と光もいるか?」
「では、コーヒーを」
「私も」
蒼ちゃんはベンチから離れて、自販機に向かう。
「文香先輩のクレープ美味しそうですね」
「美味しそうて……同じのだよ」
「一口ください」
「……」
あーんしたいだけだろう。
私は周囲を確認すると、
「っ……」
公園内を見回しながら歩いている昨日遭遇した不審者を見つけた。
「文香先輩?」
固まっている私を不思議に思ったのか、光ちゃんが顔を覗き込んできた。
「光ちゃん……不審者いた」
「え? どこですか?」
「右の方」
光ちゃんが視線を向けると、
「え? 嘘……」
光ちゃんは立ち上がった。クレープから手を離して、地面に落ちた。
「……光ちゃん?」
あまりの動揺振りに、私が首を傾げていると、不審者の視線が私達を捉えた。
不審者は足を止めると、唇を歪ませ、不気味な笑みを浮かべる。
「見つけた」
不審者は私達に近付いてくる。
あれはやばい……!
ビビリの私の本能が警報を鳴らしていた。
「光ちゃん、逃げるよ……!」
私は光ちゃんの手を引くが、光ちゃんは動かない。
不審者はポケットからカッターを取り出した。
「光ちゃん……!」
「っ……」
力強く引っ張ると、光ちゃんがようやく私を見た。
「逃げる!」
「は、はい……」
光ちゃんの手を引き逃げるが、不審者が追ってくる。昨日は追って来なかったのに……!
あっといまに距離が詰められて行く。
「あっ……」
段差に足を取られて、私は転んでしまった。
「文香先輩……!」
光ちゃんが足を止めると、不審者が追いついてしまった。
「光……! 久しぶりね……!」
名前を知って……! もしかして、光ちゃんの知り合い……?
「響……」
「ふふ、私のこと覚えていてくれたんだぁ……嬉しいなぁ……」
頬を赤く染めて、うっとりとした笑みを浮かべる不審者。
「……何のよう?」
「ようて……あなたを迎えに来たの」
「……」
「ねえ、光。一緒に暮らそう! 幸せな家庭を作ろう! 私と光ならできるよ!」
「……響。ごめんなさい、あなたとは一緒になれない」
光ちゃんがそう言うと不審者は固まった。
「……え? 冗談だよね……? あ、分かった。そこの女が光に変なこと吹き込んだんでしょ? 見るからに暗そうで地味でチビな女だもんね!」




