40話
体育祭が終わった。
結果は蒼ちゃんの大活躍で女子のバスケとバレーは優勝だった。
そして、翌日。私と蒼ちゃんは一緒に登校していた。
校門を入ると、あちこちから多数の視線を感じる。
やっぱりか……。
「蒼ちゃん、頑張って」
「文香……?」
首を傾げている蒼ちゃんを放置して、私は離れた。
次の瞬間、蒼ちゃんは人混みに呑まれてしまった。
「夏目先輩! この間のバレーかっこよかったです!」
「私はバスケが素敵だったと思います! 特にダンクシュートが素敵でした!」
「蒼! 今度、練習試合あるから助っ人来てくれ!」
などなど。
体育祭で大活躍した蒼ちゃんのファンになった子達が、蒼ちゃんを取り囲んだのであった。一歩退避が遅ければ、ぺちゃんこに潰れていた。
「おはようございます、文香先輩」
「おはよう、光ちゃん」
「この状況、どうしたんですか? もしかして、アイドルが来たとか?」
光ちゃんは黄色い声援を聞いて、そう判断したのだろう。
「アイドルじゃない……光ちゃんの恋人」
「え? 蒼先輩ですか?」
「うん、蒼ちゃん、スポーツの行事だと活躍して、いつもああなる」
「なるほど、モテモテですね」
もしかして、嫉妬してる?
そう思い、光ちゃんを見るけど、心は読めなかった。
私は蒼ちゃんを放置して、校舎に足を進めた。光ちゃんも一緒についてくる。
「蒼ちゃんと一緒じゃなくて良いの?」
「文香先輩が言いますか?」
「……」
あの状況で蒼ちゃんを連れ出すのは無理。見捨てるのが正解だ。
「それに、モテない方の恋人が可哀想なので」
「誰がモテない、と……」
「モテるんですか?」
「……」
光ちゃんの質問に対して、私は沈黙で答えるしかない。
「まあ、文香先輩がモテなくても、文香先輩の良さは私が知っているので」
「光ちゃん……」
「メイド服が似合うとか、唇が柔らかいとか」
「っ……」
性欲色魔め。
私は光ちゃんをその場に置いていくと、教室に向かった。
教室に入り、席に座る。
スマホをぽちぽちしながら、時間を潰しているとホームルーム開始直前に蒼ちゃんが入ってきた。プレゼントだろうか手には大量のお菓子がある。
「はぁ……困ったぜ……」
「お疲れ、ヒーロー」
蒼ちゃんは席につくと、私を睨みつけて来た。
「置いていくなんて、酷いぜ」
「助けろってこと? 無理。潰されちゃう」
「薄情もの……そうだ、文香。もし困ったことがあったら私を呼べよ」
「……うん」
蒼ちゃんはバッグから教科書を取り出して、机に入れる。そして、バッグにお菓子を入れようとするが、量が多い為、入りきらない。
そんな困っている友人に私はビニール袋を差し出した。
***
蒼ちゃんがモテモテになり、数日経った頃。
放課後。蒼ちゃんが部活の助っ人でいないので、一人で帰ろうとしていると声が掛かった。
「あなたが緑川文香さん?」
いつの間にか三人の女子生徒に囲まれていた。
「……そうですけど」
「そう、話があるからついて来なさい」
友好的な雰囲気では無いけど、逃げることもできない。
私はしぶしぶ付いていくと、校舎裏に辿り着いた。
「単刀直入に言うわ、夏目さんと縁を切りなさい」
「そうそう、あなたみたいな地味な子、夏目さんに相応しく無い」
「夏目さんも目障りだと思ってるわ」
私を囲み、言いたい放題。
恐怖で泣きたくなるが、私はグッと堪えた。
「……嫌だ」
「そう……なら痛い目、見る事になるわ」
そう言って、一人が私に手を伸ばした。
髪を引っ張るつもりか、ビンタするつもりか、は分からない。
けど、黙って受け入れるつもりはない。
「蒼ちゃん! 助けて!」
私は大声で蒼ちゃんに助けを求める。
「っ……」
「何よ、コイツ……」
「叫んだところで、夏目さんは体育館にいるわ。気付くわけが……」
三人が顔を見合わせて、改めて私に手を伸ばそうとした瞬間、
「おい」
三人の後ろから声が掛かった。
三人が振り返ると、蒼ちゃんと目が合う。
「な、夏目さん……!」
「どうして、ここに……?」
「そりゃ、大事な友達の助けを求める声を聞いたら、飛んでくるよな?」
蒼ちゃんはポキポキと拳を鳴らした。
「で、お前らは文香と何をしてたんだ?」
「な、夏目さんの誤解よ……!」
「そ、そう……私達はただ緑川さんのお友達になりたくて……」
「今も楽しくお喋りをしていたの……!」
必死に誤魔化そうとする三人。けど、蒼ちゃんはそんな誤魔化しは通用しなかった。
「そうか……なら、私とも楽しくお喋りしようぜ……拳でな」
蒼ちゃんは一人の女子生徒にストレートを放つと、顔面に届く前に止めていた。
「あ、あっ……」
女子生徒はペタリと座り込んだ。次の瞬間、足元に水溜りが広がっていく。
うんうん、怒った蒼ちゃんは怖いもんね……。
「さて……おまえら覚えておけ」
蒼ちゃんは私の側に来ると、私に肩を回した。
「文香に手を出したら、寸止めじゃ済まなくなるぞ」
「ひっ」
「わ、分かりました……」
女子生徒三人は去っていった。




