38話
蒼ちゃんと光ちゃんがキスをした翌日。
私は風邪を引いた。
「うぅ……」
雨にずっと打たれていたら、風邪を引くのは必然だった。
「頭が痛い……寒気が……」
私は布団を被り、目を瞑る。
「文香! 邪魔するぞ!」
「……あ、蒼ちゃん……」
蒼ちゃんの大きな声が頭に響いた。
「学校は……?」
「もう終わったぞ」
窓の外を見ると、夕焼けだった。
どうやら、長時間寝ていたようだ。
「あっ、これ差し入れな」
蒼ちゃんはビニール袋からプリンとゼリーを取り出し、テーブルに置いていく。
「……たくさんある」
「文香には……この前、世話になったからな」
「キス……上手くいってたね」
「……ああ、文香のおかげだ」
蒼ちゃんは顔を赤くして、頬をかいた。
そう言われると、頑張った甲斐があるという物。
「じゃあ、遠慮なく……」
私はプリンに手を伸ばすけど、身体が上手く動かない。
そもそも、ベッドからではテーブルまで手が届かない。
「無理するな」
蒼ちゃんはプリンを取ると、蓋を開けた。
スプーンの袋を開けて、渡してくれるのかと思ったけど、違った。
「ほら」
蒼ちゃんはスプーンでプリンを掬うと、私の口元に運んだ。
「……自分で食べる……」
「調子悪い時は甘えとけ、な」
蒼ちゃんにはいつも甘えている気がするけど。
「ん……」
甘えさせて貰おうと、私は口を開けた。蒼ちゃんがスプーンを私の口の中に入れる。
「どうだ?」
「……うん、甘い」
「食欲はありそうだな」
それからも私は蒼ちゃんにあーんをして貰った。
「……ありがとう」
「おう」
少し食べたら、眠くなってきた。けど、蒼ちゃんとも少しだけ話がしたい。
「蒼ちゃん……あーんは浮気だと思う」
「え? あーんが浮気だと……? そんなわけないだろ」
「じゃあ、想像して。光ちゃんが他の子とあーんしたらどう?」
「っ……そいつをぶちのめす……はっ、そうか……」
蒼ちゃんは自分のした行動が浮気であると認識したのだろう。
「くっ……私はなんてことを……浮気なんて最低だ……!」
冗談で言ったつもりなのに、蒼ちゃんが真に受けてしまった。
蒼ちゃんは浮気してないし、浮気しているのは私と光ちゃんである。
「文香、私はどうすれば……」
わなわなと震える蒼ちゃん。
訂正してあげないとダメだけど、頭がボーとしてきた。もう、限界みたい。
「おやすみ」
私は蒼ちゃんを放置して寝る事にした。
***
数日後、風邪が治って学校に行くと、昼休みに光ちゃんに呼び出された。
空き教室に行くと、光ちゃんが笑顔で出迎えてくれた。
「文香先輩、風邪大丈夫ですか?」
「うん」
光ちゃんも心配してくれてたのかな。
「蒼先輩に甘えたみたいですね」
「っ……」
光ちゃんがニヤニヤと笑った。
たぶん、あーんの件を言ってるだろう。
「それに、あーんすることが浮気なんて……ふふ」
うん、そんなことを言った気がする。
でも、どうして知ってる……?
「蒼先輩が私に『浮気をしてしまった』て、顔青くしながら報告してきました……浮気相手が文香先輩だと」
「……」
蒼ちゃんめ……まあ、冗談を言った私が悪いけど……。
「……分かってると思うけど……」
「ええ、詳しく聞いたら文香先輩にあーんしたと……ふふ、蒼先輩は本当に可愛らしいですね」
光ちゃんは笑った後、私に近づいて来た。
「さて、恋人を盗られた私は教育しないとダメですよね」
「……それは、蒼ちゃんに必要な事じゃ……」
「蒼先輩には教育しました」
「なっ……蒼ちゃんに何を……」
「それは今度、蒼先輩に聞いてくださいね。今は文香先輩です」
「っ……」
光ちゃんは私にキスをした。
「風邪、移る……」
「もう、治ってますよね。それに移ったら文香先輩にメイド服を着て看病して貰うので良いですよ」
「拒否権は?」
「文香先輩は風邪を引いた可愛い恋人を、一人放置する薄情な人間ですか?」
「……」
これじゃ、嫌とは言えない……。
私が黙り込むと、光ちゃんはニコリと笑った。
「では、話を戻しますね。良いですか、文香先輩も私の恋人なんですよ。なのに、浮気するなんて酷いですね。それとも、三人で付き合うハッピーエンドでも狙ってるんですか?」
「いや、違う……第一、浮気なんて」
光ちゃんは私の制服のリボンを取ると、シャツのボタンを一つ一つ外し始めた。
「っ……」
顔が熱くなる。
光ちゃんが私の首筋を指でなぞった。
「ふふ、良い事思いつきました」
光ちゃんは私の首や肩に唇を押し付けた。
「なかなか上出来ですね」
嫌な予感がして、スマホを自撮りに切り替えて写真を撮る。首や肩にキスマークが付いていた。
「文香先輩は私の物です。あっ、文香先輩も付けます?」
「付けない……!」
「遠慮しなくて良いですよ」
光ちゃんはリボンを外して、ボタンを外していく。
「どうぞ」
「……」
「そうですか……分かりました。文香先輩、これは命令です」
「っ……」
私はしぶしぶ光ちゃんに近づくと、首筋に唇を押し付けた。
「文香先輩の物になっちゃいました」
私が付けたキスマークを見て、光ちゃんは笑っていた。




