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37話

「キスの……練習……」

「頼む、文香にしか頼めないんだ……!」


 蒼ちゃんが私に頭を下げた。

 蒼ちゃんの為なら、断るという選択はない。


「……わかった。キスの練習、付き合う……」

「文香……!」


 それに、光ちゃんに散々キスされてるし、もうキスに慣れたと言っても過言ではない。

 そう私はキスのスペシャリストだ……なんてね。


「……でも、恥ずかしいから……蒼ちゃんから……やって」

「……わかった」


 私は目を閉じて、蒼ちゃんからのキスを待った。


「……ん?」


 待ってもキスがこないので目を開ける。蒼ちゃんは顔を赤くしながら、手を伸ばしたり引っ込めたりしていた。


「……よし」


 覚悟を決めたのだろう、蒼ちゃんが私の両肩を掴んだ。


「い、痛い……!」

「あ、すまん……」


 蒼ちゃんが慌てて手を離した。


「もう……優しくして」

「……ああ」


 蒼ちゃんは今度は私を抱きしめた。


「……っ」


 背骨がミシミシと音を立てる。へ、へし折られる……!


「すまん……文香、大丈夫か?」

「……どうにか」


 危うく天に召されるとこだった。

 キスの練習じゃなくて、殺人の練習に付き合っているんじゃ……。


「くっ……このままじゃ、光に怪我をさせちまう……! 文香、もっとだ……! もっと練習に付き合ってくれ……!」


 蒼ちゃんの瞳にメラメラと燃え上がる炎が見える。

 けど、これ以上私が付き合ったら、私の身が持たない。良くて骨の一本や二本の骨折、悪くて全身骨折だ。


「蒼ちゃん……まずは、触れ合うことに慣れよう」

「触れ合う事に……?」

「うん……蒼ちゃんは動かないで」


 私は蒼ちゃんの手を握った。そして、指を絡めていく。


「どう?」

「どうって……」


 蒼ちゃんの様子に変化なし。

 今度は蒼ちゃんを抱きしめた。


「どう?」

「うーん……」

「……」


 蒼ちゃんの反応は微妙なものだ。

 それもそうか。私は光ちゃんじゃないのだから、意識しろという方が無理だ。

 少し、強引に行こう……。

 私は蒼ちゃんの頬に触れて、頬を撫でた。


「くすぐったいな……」


 蒼ちゃんが笑っている隙に、私は頬にキスをした。


「っ……」


 蒼ちゃんの顔が赤くなった。

 ようやく、意識したみたいだ。

 私は自分のおでこと蒼ちゃんのおでこをくっつけた。


「ふ、文香……」

「蒼ちゃん……頑張って耐えて……」


 正直、私も恥ずかしい。顔が熱いし、変な気持ちになりそうだ。それでも、蒼ちゃんのために、心を鬼にする。

 首筋にキスをする。それから肩、手、足。

 キスをやめて、顔を上げると、蒼ちゃんと目が合った。


「っ……」


 蒼ちゃんの顔は真っ赤で、耳まで赤くなっていた。

 なので、耳を食べてみる。


「……こ、これ以上は……」

「何?」

「っ……」


 耳元で囁くと、蒼ちゃんの身体がピクリと跳ねた。

 ドクドクと心臓が高鳴り、身体が熱くなっていく。


「……」


 何か、意識がボーとしてきた。

 耳を食べるのをやめて、蒼ちゃんと向き合う。

 私はゆっくりと蒼ちゃんの顔に近づけていき、


「む、無理だぁ!」

「っ」


 叫んだ蒼ちゃんが立ち上がり、抱きついていた私は後ろに転がった。


「はぁ、はぁ……悪い、文香」

「……私もやり過ぎた」


 私達は気まずくなって、顔を逸らした。


「文香のおかげで、少しは……慣れたと思う」

「……どういたしまして……もっと、練習する?」

「……少し休んでから……」

「わかった」


 それから練習を積み重ねて数日が経ち、作戦決行の日がやってきた。

 夜、蒼ちゃんは光ちゃんをデートに誘う。

 人気が少ない夜の公園。

 二人がゆっくりと歩く中、私は遠くから後をつけていた。


「頑張れ……蒼ちゃん」


 天気は快晴。星空が良く見える。

 蒼ちゃんが光ちゃんの手を握った。

 もしかしたら、ロマンチックな言葉を言っているのかもしれない。いや、蒼ちゃんには難しいかも。


「ん……?」


 雲が出て来たと思うと、あっという間に雨が降って来た。蒼ちゃんと光ちゃんがこっちに走ってくる。

 ど、どうして……?

 咄嗟に私は草むらに隠れた。

 蒼ちゃんと光ちゃんは私の近くにあった東屋に入った。


「……」


 動いたら、バレる。

 雨の中、私は動けなくなってしまった。


「はぁ……」


 蒼ちゃんがため息を吐きながら、手で顔を隠した。


「雨……ついてないですね」

「そうだな……光とキスしようと思ったのに……」

「え? キス……」

「あっ……」


 蒼ちゃん、うっかり言っちゃたな。


「……ふふ、そうだったんですね……」


 光ちゃんが顔を赤くしている蒼ちゃんを見て笑った。


「蒼先輩」


 蒼ちゃんは光ちゃんの方へ顔を向ける。次の瞬間、光ちゃんは蒼ちゃんにキスをした。


「念願のキスは、どうですか?」

「っ……」


 蒼ちゃんの顔が一気に赤くなった。


「蒼先輩?」

「すまん、今は何も言わないでくれ……!」


 蒼ちゃんは手で顔を隠すと、しゃがみ込んでしまった。どうやら、蒼ちゃんにはキャパオーバーだったようだ。


「もっと、してみます?」


 光ちゃんが甘い声で、蒼ちゃんを誘う。

 蒼ちゃんはゆっくりと立ち上がると、消え去りそうな声で呟いた。


「……頼む」


 それから、蒼ちゃんと光ちゃんは何度もキスをした。

 うんうん、幸せそうで何よりだ。

 私は冷たい雨に打たれながら、その光景を眺めているのであった。

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