36話
土曜日。光ちゃんと鮎川さんの話し合いの日。
仲介人である私は遠くから二人を見守ることになった。
「……」
私は公園のベンチに座っていた。
視線の先では、光ちゃんと鮎川さんが話し合いをしているが、遠くにいる為内容は聞こえてこない。
仲直り、できるかな……?
そう思いながら、二人を見守っていると、鮎川さんが泣き始めた。それを光ちゃんは冷たい表情で見つめる。
泣きながらも必死に訴えかけていた鮎川さんだが、拒絶されたのか泣き崩れてしまった。
光ちゃんはそれを見た後、優しく抱きしめるとかせずに私の元へゆっくりと歩いてきた。
「文香先輩、終わりました」
「……うん、お疲れ」
私達は公園を出た。
重々しい空気が流れる。
そんな中、私は話を切り出した。
「話し合い……どうだった?」
「……あの子には、二度と関わらないように忠告したので、もう大丈夫です」
「っ……そっか」
やっぱり、仲直りできなかったか……。
泣き崩れている鮎川さんを思い出して、私はポツリと呟いた。
「……鮎川さん、泣いてた……」
光ちゃんが足を止めた。
「……それがどうしましたか?」
光ちゃんの声が低くなる。冷やかな視線が私に向けられる。
「いや、その……」
「泣いていたから可哀想。もっと、優しくしてあげるべき、てことですか?」
「……」
光ちゃんは私を睨みつけ、私に詰め寄った。
「文香先輩は私とあの子に何があったのか知りません。なのに、泣いているから許してあげて……なんて、軽々しく言わないでください。すごく腹が立ちます」
光ちゃんの言う通りだ。
私は光ちゃんと鮎川さんに何があったか知らない。鮎川さんから相談された時点でしっかりと断るべきだった。
「……ごめん」
私が頭を下げると、光ちゃんは私の頭を撫でた。
「すいません、言い過ぎました……今日は帰りましょう」
「……うん」
***
学校が終わり、蒼ちゃんと一緒に帰っていると、
「文香、大切な話がある」
蒼ちゃんからそう切り出されて、私は蒼ちゃんの家に寄る事になった。
部屋に入ると、顔を赤くした蒼ちゃんが言った。
「その……光とのことで……」
もしかして、光ちゃんとの関係がバレた……! それとも、この前の鮎川さんの件?
ヒヤヒヤしながら蒼ちゃんの言葉を待った。
「光とキスをしたいんだ!」
「……え?」
「キスだよ! キス! 口付けだ……!」
「あ、うん……」
全然予想外のことに私は唖然としていた。
「それでだ……キスするにはどうすれば良い?」
「どうすれば、て……」
私はキスの経験はある。もちろん、相手は光ちゃんだ。
「……普通に、流れに任せて」
うん、私からは何もしていない。
普段から光ちゃんがキスをしてくるだけだ。
「文香……もしかして、キスの経験があるのか?」
「キスの経験……な、ないよ……」
あ、危なかった……!
あるって言ったら、光ちゃんとの関係がバレるかもしれない。
「だよな」
「……」
あっさり納得されたのも、少し腹立たしい。
まるで、私がキスには縁がないみたいじゃないか。
「……それで、キスする方法……蒼ちゃんからしたいて言えば良いと思う」
光ちゃんのことだから、すぐに答えてくれるだろう。
「そ、そうだけど……ほら、誘うムードとかあるだろ?」
「誘うムード……」
光ちゃんとキスする時は、いつも二人きりになれるとこだった気がする。
「二人きりのとこで、キス……」
「二人きり。確かにそれも大切だ……! 後はほら……夜景を見ながらとか……!」
蒼ちゃんはロマンチストかもしれない。
「……蒼ちゃんの戦略を聞かせて」
そう言うと蒼ちゃんは机から一冊のノートを取り出し、差し出してきた。
受け取った私はノートを開いた。そこには箇条書きで蒼ちゃんの戦略が書かれていた。
『夜景を見ながら』
『高級レストランで』
『教会で』
『高級ホテルで』
『夜の学校で』
などなど、何ページにも渡り書いてある。
読みのがめんどくさくなり、蒼ちゃんに訊ねた。
「ちなみに……蒼ちゃんの有力プランは?」
「えーと……夜に登山して、山頂で夜景を見ながらキスとか……」
夜の登山て……危険過ぎる。
「登山の時間は?」
「片道三時間くらい」
「うん、没」
「なっ……どうしてだ?」
「蒼ちゃんなら体力的に余裕だけど、光ちゃんは無理。仮に山頂に辿り着いても、良いムードじゃなくて達成感だよ」
「っ……た、確かに……」
「他には?」
私達はそれから話し合いを続けた。
そして、公園で夜空を眺めながらキスという、現実的な案になった。
「……文香のおかげで良い戦略になったぜ。ありがとうな」
「……どういたしまして」
ほとんど、ネットで調べたんだけど。
けど、蒼ちゃんの力になれたのなら、良かった。
「後、他にもお願いしたいことが……」
「何かな?」
「その、キスの練習に付き合ってほしい」




