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35話

 文化祭が終わり、数日経ったある日のこと。

 学校の帰り道で、私は本屋に向かっていた。

 今日は私の欲しかった漫画の発売日。買って家で読む使命がある。


「緑川先輩!」


 名前を呼ばれて振り返ると、文化祭の時に出会った鮎川さんが立っていた。


「……鮎川さん」

「はい、鮎川です……いきなりで悪いんですが……今、時間良いですか?」


 強張った表情の鮎川さん。

 もしかして、デートの誘いか……! けど、私には光ちゃんが……!

 いや、光ちゃんは彼女なのか……?


「……た、大切な話……です……!」


 鮎川さんが私の手を握り、真っ直ぐに目を見つめてきた。


「わ、わかった……少しなら」


 押しに弱い私はあっさりと承諾してしまった。

 これだから、光ちゃんに好き放題やられるのだ。

 鮎川さんが話し合いの場所に選んだのはカラオケだった。


「ま、待って……歌うのは苦手」

「大丈夫です。個室で話したいだけなので」

「……」


 鮎川さんと個室で二人きり。健全な高校生同士が。

 ピンクな展開が起こっても不思議ではない環境。


「……」


 光ちゃんのせいか、最近は思考がピンク寄りになっている。

 受付を済ませて、個室の中に入り、私達はソファーに座った。


「緑川先輩」

「は、はい……」


 一体、どんな話をされるのか。


「私と光の仲直りの仲介をお願いできませんか?」

「仲直り……?」


 私が首を傾げると、鮎川さんは恐る恐るといった様子で私に訊ねてきた。


「光から……私の事て聞いてますか?」

「えーと……全然知らないて言ってた」

「そ、そうですか……」


 鮎川さんの肩がしゅんと落ちた。

 鮎川さんと光ちゃんの関係。そう言えば、鮎川さんは従姉妹と文化祭を見て回ると言っていた。光ちゃんは自分の親戚を紹介するのが恥ずかしくて「全然知らない」と答えたなら……!

 私の中で、何かが繋がった。


「……光ちゃんの従姉妹?」

「いえ、違います」


 名推理だと思ったのに外してしまった。恥ずかしい……!


「私は光の友達です……それで、喧嘩別れ……みたいな感じになってまして……」

「……なるほど」


 文化祭で鮎川さんと出会った時、既視感の原因がわかった。

 以前光ちゃんの部屋で発見した写真の女の子。それが鮎川さんだ。


『ゴミですね』


 そう言って、ビリビリと写真を破り捨てた光ちゃんを思い出す。

 仲直りは絶望的かも……。

 けど、残酷な真実を伝えるなんて、私の口からは出来ない……!


「……喧嘩の原因て?」

「そ、それは……!」


 鮎川さんは強く手を握ると、私から目を逸らした。


「……言えません」


 言えない……困った……。

 仲直りの仲介なんて初めてだし、原因も言えないとなると、どうして良いのかわからない。


「けど、お願いします……! どうしても、光と仲直りをしたいです……!」


 鮎川さんは私に頭を下げる。


「……光を呼び出すだけでも、良いので……」


 もう、断り難い空気だ。


「……わかった。呼び出すだけなら……」

「あ、ありがとうございます」


 引き受けてしまった……。

 その後、私と鮎川さんは連絡先を交換した。


***


 昼休み、私は光ちゃんに連絡して空き教室に来てもらった。


「文香先輩、話って何ですか?」

「……」


 正直、切り出し難い。たぶん、光ちゃんは物凄く嫌な顔をするだろう。


「文香先輩?」

「あ、えーと……光ちゃん。文化祭であった鮎川さん、覚えてる?」

「……」

「実は光ちゃんとの仲直りの仲介を、お願いされて……」

「文香先輩」


 光ちゃんは私の顎を掴んだ。そして、真っ直ぐに私を見つめる。


「お断りします」

「っ……」


 やっぱり、ダメだったか……。

 ごめん、鮎川さん。


「……と、言いたいですけど断ってもしつこそうなので、話し合いくらいなら良いですよ」

「……ありがとう。じゃあ、土曜日にでもセッティングして良い?」

「はい、大丈夫です」


 私は鮎川さんにメッセージを送った。これで、私の役目は終わった。後は光ちゃんと鮎川さんで話し合って欲しい。


「じゃあ」


 光ちゃんの横を通り過ぎ、空き教室を出ようとしたが、光ちゃんは私の腕を掴んだ。


「文香先輩、私は文香先輩の願いを聞きました。なのに、文香先輩からのお礼は無しですか?」

「……ありがとう」

「ふふ、言葉だけではダメですね」

「っ……」


 光ちゃんは私に顔を近づけてきた。キスされる、と思って目を瞑る。


「せっかくなので、文香先輩からキスしてもらいましょう」

「……え?」

「もちろん、唇にですよ。後は愛の言葉も添えてください」


 光ちゃんは自分の唇を指で触れた。視線が自然と唇に吸い寄せられる。


「……」

「ふふ、どうしましたか? 早くしないと昼休み終わっちゃいますよ。それとも、午後の授業サボってずっとキスします?」

「っ……」


 覚悟を決めた私は光ちゃんに顔を近づける。そうだ、愛の言葉も言わないと……!


「あ、愛してる……」


 私はそう言って、光ちゃんにキスをした。

 うぅ……恥ずかしさで顔が熱い……!


「ふふ、上出来です。でも、足りないのでもっとお願いします」

「っ……」


 私は光ちゃんに愛の言葉を囁き、キスを繰り返すのであった。

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