34話
光ちゃんに手を引かれて連れて来られたのは、やけに盛り上がっているクラスだった。
その盛り上がりの中心では蒼ちゃんと男子生徒が腕相撲している。
「腕相撲……?」
「はい、十回連続で勝つと、賞品が貰えるみたいで」
「なるほど……」
ゴングが鳴り、腕相撲が始まる。
「ぐっ……」
男子生徒が顔を赤くして、腕に力を入れているが蒼ちゃんはピクリともしない。
「おりゃ!」
蒼ちゃんは掛け声と共に、力を入れると、男子生徒を容易く倒していた。
「夏目さんの勝利です! これで八連勝! まもなく賞品に手が届きます! さあ、次の対戦希望の方は居ますか?」
と、レフェリーの格好をした女子生徒が観衆に呼び掛ける。
「文香先輩、参加したらどうですか?」
「え? 無理……」
絶対蒼ちゃんに勝てないし、人に注目されるのも嫌だ。
「俺がやる!」
手を挙げたのはボディービルダーのような肉体をした男性だった。
「おっと、これは強敵だ!」
レフェリーがそう言うと、周りも歓声を上げた。
「お嬢ちゃん、悪いな。ここであんたの連勝記録はストップだぜ」
「へぇ、面白いこと言ってくれるぜ。けどな、私を止めるなら筋肉が足りないんじゃねえか?」
「ほう……これでもか?」
男性が力こぶを作る。誰の目から見ても大きい事はわかった。
「ああ、足りねえな。もっと、バルクアップしてから出直してきな!」
「ほう、言ってくれる……! その戯言、ここでへし折ってやる」
蒼ちゃんと男性が机に肘をつく。そして、手を握った。両方とも獣のような笑顔を浮かべている。
「文香先輩」
「何?」
「なんか暑苦しいので、教室から出ましょう」
「蒼ちゃんの勇姿、見なくて良いの?」
蒼ちゃんのことだから、光ちゃんにカッコいいところを見せたいはず。
「見なくても良いです」
「そっか」
残念……蒼ちゃん、頑張ってね。
心の中でエールを送って私達は教室を出た。
それから、校内を適当に歩いていると、校舎裏で男子生徒と女子生徒が向かい合っていた。
「好きです、俺と付き合ってください!」
まさかの告白現場だった。
私達は咄嗟に隠れる。
「光ちゃん……行こう」
「えー、面白そうじゃないですか」
「……」
光ちゃんは移動する気はないみたいで、告白現場を物陰から見ていた。
「はぁ……」
ため息を吐きながらも、私も気になってしまう。
だって、健全な高校生だし。
「……わ、私も好き……」
告白成功。男子生徒は女子生徒を抱きしめる。そして、お互いに見つめ合ってキスを始めた。
「青春ですね」
「そ、そうだね……そろそろ、移動しよう」
「そう言いながら、文香先輩も気になるんじゃないですか?」
「……そうだけど……」
「……まあ、私も見るだけでは飽きて来たので」
「飽きて……」
嫌な予感がして、光ちゃんから離れようとするが、その前に手を掴まれた。
「逃げないでください」
光ちゃんは笑顔を浮かべると、私が逃げられないように私の背中を壁に押し付けた。そして、私の頬に手を添える。
「ま、待って……人たくさんいるし……」
文化祭の喧騒はここまで届いている。誰かが来る可能性は十分に合った。
「大丈夫です。今は誰もいないので……それに、誰かくるかも、て思うとゾクゾクします」
光ちゃんはそう言うと、私にキスをしてきた。
「……一回じゃ、足りないですね」
光ちゃんは唇を舐めると、何度もキスをしてきたのであった。
***
腕相撲の教室に戻ると、蒼ちゃんが廊下で待っていた。
「文香、光。どこ行ってたんだ?」
「ごめんなさい、少し見たいところあったので文香先輩と出掛けてました」
「そっか……文香、顔赤いけど大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
まだ、キスの余韻が抜けていなかった。
「蒼先輩はどうでしたか?」
「私か……私は勝ったぞ!」
蒼ちゃんはそう言って、クマのぬいぐるみを見せてきた。
「これが賞品だ!」
腕相撲の賞品としては可愛らしい物だ。これを求めて力自慢の男達が腕相撲をしてたと思うと、少し面白いかも。
「わあ、可愛いですね」
「ああ……光にやるよ」
「え? どうしてですか……?」
「ほら……その、文化祭一緒に回った記念みたいな物だ」
「ふふ、ありがとうございます」
光ちゃんはぬいぐるみを大事そうに受け取った。
「では、お返しに」
光ちゃんはそう言うと、蒼ちゃんの頬にキスをした。
「っ……」
蒼ちゃんの顔が一瞬で真っ赤になる。
「形には残らないですけど……」
「いや、十分だ……!」
形には残らなくても、記憶にはガッツリと残っただろう。
「文香先輩」
光ちゃんは私の名前を呼ぶと、私を抱きしめた。
「頬にキスは出来ませんが、文化祭を一緒に回った記念のハグです」
「……ありがとう」
光ちゃんが抱擁を解いた。
蒼ちゃんが唇を噛み締めて、こっちを見ている。まるで嫉妬した女のようだ……て、その通りか。
「次は蒼先輩と文香先輩の番ですよ」
「そうだな」
蒼ちゃんは両手を広げる。
まるで獣に襲われるみたいだ。
私は蒼ちゃんとハグをした。




