33話
上映された映画は恋愛物だった。
舞台はうちの高校で、男役の男装した女子生徒がヒロイン達と出会い、何人ものヒロインと付き合っていく。
「俺と君は出会う運命だった」
「君のことが、好きで堪らないんだ……!」
「卒業したら結婚しよう」
そんなキザのようなセリフをヒロイン達に囁く。
結果、浮気がバレ、ヒロイン達に滅多刺しにされて、校舎裏に埋められると言う何ともバッドエンドな物語だった。
浮気者の末路は悲惨だと言うことか……うん、私の場合、バレたら包丁ではなく、包丁よりも凶悪な蒼ちゃんの拳が飛んでくる。
「ふぅ……面白かったな! 私がヒロインの立場なら、腕を引き千切ってたぜ!」
「……」
蒼ちゃんなら本当に出来そうである。
私は自分の右腕をさすり、引き千切られる光景を思い浮かべると、顔から血の気が引いていく。
「……文香先輩、大丈夫ですか? 顔青いですよ」
「……だ、大丈夫……」
蒼ちゃんは椅子から立ち上がると、身体を伸ばした。光ちゃんは私の耳元で囁く。
「腕、引き千切られないと良いですね」
「……」
光ちゃんは楽しそうに笑った。
けど、光ちゃんも腕を引き千切られるリスクはあるよ? わかってるよね……と、視線を向けるが光ちゃんは小首を傾げるのであった。
それから、光ちゃんのクラスを出て、私達は文化祭を回った。
お化け屋敷、喫茶店、焼きそばなどなど。
「ふぅ……」
蒼ちゃんと光ちゃんはまだ元気がありそうだ。
私は人混みのせいもあって、体力が尽きかけていた。
「蒼ちゃん、光ちゃん……私、少し休憩するから……二人で回ってて」
「大丈夫か? 私も付き添うぞ」
「うん、大丈夫……人混みに酔っただけ……」
「わかった……もし、辛かったら連絡してくれ」
「うん」
私は蒼ちゃん達と別れる。
文化祭用に用意された休憩室の空き教室に行くと、用意された椅子やテーブルは空きがなかった。
ここじゃ、ダメ。
私は人気のない場所を求めて移動する。階段を上り屋上の扉前に辿り着く。
私は床に座った。
「ふぅ……」
ここなら、人も来ないし、ゆっくりできる。目を瞑り、うとうととしていると、
「あっ……」
声が聞こえて、顔を上げる。
階段の下の方に女の子が立っていた。
もしかしたら、私と同じように休憩できるところを探しに来たのかもしれない。
「あ、すいません」
彼女は私に頭を下げて、階段を下ろうした。
「あっ」
次の瞬間、階段を踏み外し、転んだ。
「……大丈夫、ですか?」
人と話すのが苦手でも、目の前で転倒されたら、放っておくわけにはいかない。
「だ、大丈夫です……」
幸いにも怪我はないようだ。
私達は階段に座り、一緒に休む事にした。
「私は鮎川嵐。別の高校の一年生です」
「私は……緑川文香。二年生」
「え? 先輩だったんですか……し、失礼しました」
「……」
私が幼く見えるって事か……?
まあ、いつものことだけど。
「鮎川さんは……どうして、ここに?」
「えーと……この学校に従姉妹が通ってまして、文化祭を一緒に回ってたんですけど、逸れちゃいました。彷徨ってたら、ここに」
「スマホで連絡は?」
「バッテリー切れです」
「……なるほど」
私は改めて、鮎川さんを見た。
小さめのポニーテールで、背丈は私くらい。
シャツとショートパンツと言った動きやすそうな服装をしていた。
どこかで見た事があるけど、思い出せない。私の交友関係は狭いから、忘れないはずだけど。
「緑川先輩、ここで……あ、失礼しました!」
鮎川さんは口を押さえて慌てて頭を下げた。
もしかしたら、デリケートな問題だと思われたのかも。文化祭だけど、居場所がないボッチとか。私の見た目は地味だしね。
「大丈夫。疲れたから落ち着けるとこで休んでただけ」
「そ、そうですか……」
「本当、ちゃんと文化祭を回る友達も居る」
「……わ、わかりました……」
本当かな……? まあ、いいや。
たぶん、もう会う事もないし……。
「じゃあ、私は戻る。鮎川さんは?」
「私も、そろそろ」
「あっ、文香先輩! ここに居たんですね!」
階段の下に視線を向けると、光ちゃんが私に指を差していた。
「もう、スマホにメッセージを送っても返事来ないので、探しましたよ」
「ごめん、気づかなかった」
スマホを確認すると、光ちゃんからのメッセージが来ていた。
「じゃあ、私は友達が来たから」
さっきの発言は本当だぞ!
と、少し得意げになりながら鮎川さんに視線を向ける。鮎川さんは光ちゃんを見て固まっていた。
もしかして、私に友達がいたことが信じられなかったのかもしれない。まあ、実際友達ではなくて……浮気関係だけど。
「ひ、光……!」
「っ……」
光ちゃんは鮎川さんの存在に気づいたのか、僅かに驚いた表情を浮かべた後、すぐにいつもの表情に戻る。
「では、文香先輩行きましょう!」
光ちゃんは私の手を握ると、歩き始めた。
「光ちゃん、鮎川さんと知り合い?」
「全然知りませんよ。文香先輩はあの子と知り合いなんですか?」
「……さっき初めて会った」
「そうですか……」




