32話
文化祭当日。
私と蒼ちゃんは教室で展示会の受付をしていた。
ちなみに、料金は入場料五十円で、一日入り放題。
「私も早く回りたいぜ……!」
「少しの時間だから……頑張ろう」
私達のクラスは、文化祭当日はやることと言ったら受付しかない。そのため、クラスメートで少しの時間ずつ交代しながら担当することになった。
そのおかげで、文化祭は周り放題だけど、蒼ちゃんは不満そうだ。
「それにしても……人、全然来ないな……」
「……それは仕方ない……」
他のクラスは喫茶店やお化け屋敷をやっている。対して、私達のクラスは展示会。他のクラスに足が向いていくのは自然の摂理だ。
「暇だな……」
蒼ちゃんはそう言って、椅子に背中を預ける。椅子の前足が持ち上がり、後ろ足だけでバランスを取っていた。
「……危ないよ」
「平気、平気……」
机から手を離して、絶妙なバランスを取っていた。
扉が開き、光ちゃんが入ってきた。
「蒼先輩! 文香先輩! 遊びに来ました!」
「っ……」
驚いた蒼ちゃんが背中から倒れそうになる。椅子が倒れて大きな音を立てたが、蒼ちゃんはバク転して転倒を免れた。相変わらず、無駄に良い運動神経である。
「光、いらっしゃい。ぜひ、見てってくれ!」
「はい!」
光ちゃんは五十円を払うと、展示物を見始めた。
「蒼先輩のはどれですか?」
「わ、私のは……ど、どれだろうなぁ……」
展示物には名前が書いていないのでとぼける蒼ちゃん。
「ええ、教えてくださいよ」
光ちゃんは蒼ちゃんの腕を抱きしめる。蒼ちゃんは顔を赤くした。
「私のは……これ、だ……」
蒼ちゃんが指差したのは、犬のぬいぐるみだ。
不格好で、所々血痕がある。目もほつれていて今にも取れてしまいそうだ。
「えーと……個性的で素敵だと思います。ホラー映画に出てくる犬がテーマですか?」
光ちゃんの問いかけに思わず笑いそうになったが、グッと堪えた。
「え……あ、うん」
「わぁ、凄いリアルですね。この血痕とか本物みたいです」
だって、本物だし。
「そ、そうか……うん、色々こだわったんだ……!」
光ちゃんの勘違いにより、蒼ちゃんの作品は拘った作品となった。
まあ、真実はどうあれ、蒼ちゃんは恋人に褒められて幸せそうだ。
「文香先輩のはどれですか?」
「……私のは猫のぬいぐるみ」
「可愛い猫ですね」
「ありがとう」
誰かに褒められるのは悪くない。
「蒼先輩、文香先輩。店番終わったらいっしょに文化祭回りませんか?」
「良いぞ!」
「……私も大丈夫」
「けど、光の方はクラスとかは大丈夫なのか?」
「はい、撮影でヒロイン頑張ったので、文化祭はフリーです!」
「なるほど」
それから、交代のクラスメートが来て、私達は文化祭を回ることにした。
「まずは光のクラスに行こう!」
「私のクラスですか?」
「光がヒロインの映画観たいからな」
「もう、仕方ないですね」
と、光ちゃんの案内でクラスに向かう。
「あれ? 七瀬さん、どうしたの?」
教室に入ると、光ちゃんのクラスメートが出迎えてくれた。
「その……私の恋人が映画観たいて……」
「え? 七瀬さんの恋人?」
「七瀬さんの恋人! 誰!」
光ちゃんのクラスメートが集まってくる。
「私の恋人の……蒼先輩です」
「どうも、夏目蒼です」
「蒼先輩……!」
「あの、去年の文化祭で……人を空に投げていた……!」
「熊にも素手で勝てるて言う……!」
蒼ちゃん、有名人だな……。
「あれ? 七瀬さん、この子は?」
光ちゃんのクラスメートが私を指差す。て、この子て私はあなた達よりも年上なんだけど……。
「この人は……文香先輩。蒼先輩の友達で、こう見えても、二年生だよ」
「え? 二年生……」
「嘘……中学生だと思ってた……」
中学生て、高校の制服着てるのに……後、視線が……!
私は蒼ちゃんの後ろに隠れた。
蒼ちゃんが手を叩くと、蒼ちゃんに注目が集まった。
「ごめんな。今日は映画を観にきたから……」
「あ、すいません……」
「そうだよね……七瀬さん、また今度話聞かせてね」
光ちゃんのクラスメートが離れていく。
「文香、大丈夫か?」
蒼ちゃんが小声で訊いてきた。
「……ありがとう」
蒼ちゃんの制服の裾を掴み、私はそう答えた。
教室内は窓に暗幕が設置されて、日の光を遮っていた。黒板の前にスクリーンが、教室の真ん中にプロジェクターが設置されている。
私達が空いている席に座ると、スクリーンの前に光ちゃんのクラスメートが移動した。
「お待たせしました。まもなく上映の時間になりますので、注意事項を説明します。上映中はスマホの使用は禁止で、撮影も禁止となっております。では、映画をお楽しみください」
教室の照明を消えると、スクリーンに映像が映し出された。




