31話
土曜日。
私と蒼ちゃんはアート作品の参考のため、美術館に来ていた。
「うーん……」
蒼ちゃんは一枚の絵を眺めいていた。角度を変えて、何度も見ているが、最終的に首を傾げていた。
「よく分からない……文香はどうだ?」
「私も……」
風景画やイラストなら上手いなと何となく感じる。けど、他は見てもよく分からなかった。
「私達にはアートはまだ早かったようだ」
「……そうだね」
ゆっくりと作品を見ながら館内を回る。
「こうして美術館を回ってると……何か博識ある女みたいじゃないか?」
「……」
その発言自体、博識が無さそうだけど……。
「そう言えば、光ちゃんは誘わなくて良かったの?」
私が訊くと、蒼ちゃんは頬をかきながら答えた。
「……たまには、文香と二人で遊びたいと思ってな」
「……そっか」
前は蒼ちゃんと二人きりで遊ぶのが当たり前だった。けど、最近は光ちゃんを入れて三人で遊ぶようになり、私は少し疎外感を感じていた。
もしかしたら、そんな私の気持ちを蒼ちゃんは察してくれたのかもしれない。
「……今日はたくさん遊ぼう」
「そうだな!」
私達は美術館を出ると、電車でショッピングモールに移動した。私が雑貨店に入ると、蒼ちゃんが首を傾げた。
「雑貨、珍しいな」
「うん、私も初めて入る……けど、アート作品に使える物あると思って……」
「なるほどな!」
私は商品を眺めていると、ある物を手に取った。
「蒼ちゃん、これ良いかも……」
「ぬいぐるみのソーイングセット……? あ、針と糸でやるやつか……!」
「うん」
「でも……私不器用だしな……あ、ぬいぐるみ買うていうのはどうだ?」
蒼ちゃんがぬいぐるみを手に取ると、私に見せてきた。
「……」
私が冷ややかな視線を蒼ちゃんに向ける。蒼ちゃんはぬいぐるみを戻した。
「ソーイングセット、良いと思う」
「色々と動物の種類、あるみたい……」
「おお……私は犬にするか」
「私は猫」
ぬいぐるみのソーイングセットを購入し、私達は雑貨店を出た。
「ゲーセン、行こうぜ!」
蒼ちゃんは私の手を掴むと、歩き始めた。
蒼ちゃんが一人の時は歩くペースはもっと早い。けど、私と歩く時は遅い私の為にペースを合わせてくれる。
そして、私は蒼ちゃんと遊びまくったのだった。
***
翌日、私は中学の時に使用していた裁縫セットとぬいぐるみのソーイングキットを持ち、蒼ちゃんの家に来ていた。
「文香、いらっしゃい」
「お邪魔します」
蒼ちゃんの部屋で、ぬいぐるみ作成を始める。袋を開けると、中に作り方が書かれた説明書が入っていた。
これなら、行けそう。
私は説明書を読みながら、作業を始める。
「ふぅ……」
裁縫なんてやったのは中学以来だ。けど、案外覚えているものだ。
ふと、蒼ちゃんが静かで顔を上げてみると、
「すぅ……」
蒼ちゃんが寝ていた。
「蒼ちゃん」
「んっ……あ、文香……」
蒼ちゃんが目を覚ます。
「……夜更かし?」
「いや、ちゃんと寝てるぞ……ただ、説明書読んでたら眠くなって……すぅ」
蒼ちゃんが説明書を読むと一瞬で夢の世界へと旅立っていく。
一緒に勉強した時は、脳がショートしてたけど、今度は寝落ちか……もし、蒼ちゃん一人なら、完成するのは一年以上先かもしれない。
私は蒼ちゃんを起こした。
「このままだと終わらないよ」
「うぅ……でもなぁ……」
「わかった……こっちが終わったら手伝うから……それまで頑張って」
「……文香……くっ、いつもすまない……」
どうにか猫のぬいぐるみを完成させる。少し不格好だけど許容範囲だ。蒼ちゃんは目を擦りながらも、説明書を読み終えていた。
「蒼ちゃん、お待たせ」
「文香……出来たのか?」
「うん」
私が猫のぬいぐるみを見せる。
「おっ、上手いな」
「……ありがとう」
蒼ちゃんの犬のぬいぐるみに取り掛かる。実際に作業するのは蒼ちゃんで私が説明書を見ながら指示する。
「……なかなか通らない……!」
蒼ちゃんが目を細めながら、針に糸を通していた。うんうん、その気持ち分かるよ。
「あれ……糸抜けた……?」
「玉結びしないと……」
「玉結び……?」
「うん、こうやって……」
私が指でやってみる。蒼ちゃんも玉結びをやってみるが糸がプツリと切れた。
「む、難しい……!」
「蒼ちゃん、頑張って……!」
「くっ……あ、針が折れた……!」
「……」
それからも、蒼ちゃんの戦いは続いた。
「指に刺さった……!」
「ぎゃー、服まで縫っちまった……!」
「あれ、目の位置が……」
蒼ちゃんの奮闘の末、出来上がったのは犬のようなぬいぐるみだった。
目の位置はズレて、片目は糸で垂れていた。また、所々に蒼ちゃんの血痕がついていた。
まるで、キメラのようだ。
「まあ……形にはなったかな……?」
「う、うん……味があって……良いと思う」
「あ、ありがとう……」
蒼ちゃんの頬は引き摺っていた。




