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29話

「ええ、今から文化祭の出し物を決めたいと思います。何か候補はありますか?」


 学級委員長が黒板の前に立ち、皆に意見を求めていた。

 私は基本、イベントごとには流れに身を任せる。


「はい!」


 蒼ちゃん手を挙げて、立ち上がった。

 蒼ちゃんは私とは真逆で、文化祭などのイベントごとには積極的に参加するタイプだ。


「では……夏目さん」

「バンジージャンプが良いと思います!」

「……はい、他は?」

「な、何でだよ! 去年やったハンマー投げは好評だったじゃないか!」


 蒼ちゃんが言うハンマー投げとは、テレビなどで観るハンマー投げとは違う。普通はぐるぐる回ってハンマーを投げられるものだが、蒼ちゃんが去年やったハンマー投げは、蒼ちゃんがお客さんの手を掴み、ぐるぐる回って投げ飛ばすという、スリリング満点のアトラクションである。

 それで、事故や怪我が無かったのは、蒼ちゃんのコントロールが良く、飛ばされたお客さんがマットに着地できたからだ。


「……去年のハンマー投げは好評でしたが……絶対にやるなと、先生達から言われてまして……」

「なら、バンジーは良いじゃねえか!」

「……バンジー……ちなみに内容は?」

「私が屋上から投げ飛ばす!」

「ダメですね。絶対に通りません!」

「なっ……」


 蒼ちゃんが信じられない、という表情で固まった。


「他には?」

「はい、お化け屋敷が良いと思います!」

「喫茶店とかも良いよね!」

「後、たこ焼きとか……」


 クラスメートが出し物の案を出していく。


「そんなの、普通の文化祭じゃねえか……!」


 蒼ちゃん、私は普通の文化祭が良いよ。


「はい、メイド喫茶が良いと思います」


 と、お調子物の男子生徒が言った。


「おいおい、それお前が見たいだけだろ」

「そうだけど、お前は見たくないのかよ」

「俺は」


 あちゃ、と私は頭を抱えた。

 メイド。それは蒼ちゃんの前では今は禁句ワードだった。


「おい!」

「っ……な、何……夏目さん」


 メイド喫茶を提案した男子生徒の前に蒼ちゃんが仁王立ちしていた。


「確か……山田だったよな?」

「は、はい……山田ですっ……」


 蒼ちゃんの迫力に男子生徒は顔を青くしていた。


「メイド喫茶か……山田、お前がメイド服を着たいんだよな? まさか、この私に着せたいなんて……一ミリも思ってないよな……!」

「はい! 夏目さんに着せたいなど一ミリも思ってません! むしろ、自分が着てその姿を皆に見て欲しいと思っています!」

「そうか。すまないな、てっきり私に着せたいのかと誤解していた」

「いえ、滅相もありません! むしろ、夏目さんが提案したバンジーが至高の出し物だと思います!」

「おお、わかるじゃねえか……!」


 それから男子生徒からバンジーを押す声が上がる。蒼ちゃんは満足気だったが、皆、蒼ちゃんのことが怖かったのだろう。

 恐怖政治なんて言葉が思い浮かんだ。

 結局、出し物は決まらずに、後日決めることになった。


「バンジー行けそうだったのに……」


 帰り道、青ちゃんは不服そうだった。

 まあ、私はバンジーに決まらなくて、安心したけど……まとめ役の学級委員長は大変そうだ。胃に穴が開かないと良いけど……。


「文香もバンジーが良いよな?」

「え? 嫌だけど……」

「なっ、どうしてだよ……!」


 むしろ、どうして私が賛成だと思ったの?


「だって……危ないし……」

「そうか……けど、実際にやれば文香も賛成になるはずだ!」

「実際……?」


 それだと遊園地とか行かないとダメじゃないかな……?

 蒼ちゃんが私の鞄を奪うと、公園に入った。


「蒼ちゃん……?」


 私も後に続き公園に入る。蒼ちゃんは私の鞄と自分の鞄をベンチに置いて、私の両手を掴んだ。ものすごく嫌な予感がする。


「も、もしかして……」

「文香、私を信じてくれ……!」


 男前の表情で蒼ちゃんが言った瞬間、私の足は地面から離れた。


「……っ」


 目の前の景色がすごい勢いで変わっていく。

 蒼ちゃんに振り回されているのだ。


「行くぞ!」

「え……」


 次の瞬間、浮遊力が私を襲った。

 目を開けると、空が目に入り、次に建物が。

 あれ? 私建物より高く……もしかして、鳥になった……?

 そんなわけもなく、落下し始める。


「きゃああ!」


 迫り来る地面、死の恐怖に私は目を閉じた。

 あ、あれ……?

 いつまで経っても、衝撃が伝わってこない。もしかして、痛みを感じる暇も無く死んだとか。

 恐る恐る目を開けると、蒼ちゃんの顔があった。どうやら、蒼ちゃんがしっかりと受け止めてくれたようだ。


「よう、どうだった?」


 蒼ちゃんが笑顔で聞いてくる。


「……っ」


 私の目から涙が溢れ出してきた。


「ふ、文香……!」

「生きてる……生きてるよぉ……」


 高校生なのに、人目を気にせずに泣きじゃくった。

 それから、ようやく泣き止んだ私に蒼ちゃんは頭を下げた。


「悪かった……文香、絶叫系苦手だったよな……」

「……」


 まあ、蒼ちゃんも反省していることだし、許してあげよう。


「後、これ……」


 蒼ちゃんはバックから、ジャージを取り出した。


「……どうしたの?」

「……文香、その……下」

「下……」


 私が視線を下ろすと、スカートが濡れていた。

 どうやら、恐怖のあまり漏らしてしまったようだ。

 泣き止んだ涙がまた溢れ出してきた。


「うぅ……蒼ちゃんのバカ……! 返して……私の尊厳を返してよぉ……」

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