25話
「じゃあ……何か望みはある?」
『望みですか……』
光ちゃんは少しの間、沈黙した。
『では、文香先輩が私のお願いを何でも一つ聞く、のはどうですか?』
「っ……お願い、て……?」
『それは後のお楽しみです』
「……」
リスクがある選択。私の直感が碌なことにはならないと告げている。
けど、蒼ちゃんのやる気を出すためには……。
私は悩んだ末、その契約を受けることにした。
「……わかった……蒼ちゃんの件、お願い……」
『ふふ、友達の為に自分を犠牲にする。美しい友情ですね……涙が出てきます』
「涙が出るなら……まけて」
『それは嫌です』
光ちゃんのケチ……!
『では、失礼します』
光ちゃんがそう言うと、電話が切れた。
「はぁ……さて……」
スマホをポケットに入れて、部屋に戻り、目の前の光景を見て固まった。
「……」
蒼ちゃんが手錠に繋がれた椅子と一緒にベッドに横になり、漫画を読んでいた。
「……蒼ちゃん?」
「ふ、文香……! これは違うんだ……! ま、漫画が誘惑してきて……!」
浮気がバレた夫の言い訳みたい。
「はぁ……」
私は蒼ちゃんから漫画を奪い取ると、部屋の隅に戻した。
「さあ、勉強の続き……」
「勉強……」
蒼ちゃんの目が、どんよりと暗くなっていく。勉強しすぎて闇堕ちとかしないよね? 闇堕ちした蒼ちゃんなんて、私が手に負える相手じゃない。
蒼ちゃんはしぶしぶ机に戻ると、スマホが鳴った。
「文香……光からだけど……」
「どうぞ」
私が許可を出すと、蒼ちゃんは光ちゃんと電話を始めた。
「もしもし! ……え? うん……キ、キスッ……!?」
一体、どんな話をしてるんだろう。
「ま、待って…….文香もいるから……う、浮気じゃなくて……」
私の方へチラチラと視線を向けてくる蒼ちゃん。蒼ちゃんは顔を赤くすると、
「……わ、私も愛してる……ちゅ」
電話越しに光ちゃんに愛を囁き、スマホにキスをしていた。そして、スマホを机に置く。
「……ラブラブだね」
「っ……」
私がツッコミを入れると、蒼ちゃんはしばらく身体を振るわせて、顔を真っ赤にしていた。
そして、立ち直った蒼ちゃんが口を開いた。
「文香……光が……テストで赤点回避できたら……ほっぺに……キスしてくれるて……!」
蒼ちゃんは自分の頬を強く叩いた。パンッと乾いた音が部屋に響く。
「絶対、テストで良い点取るぞ……!」
蒼ちゃんの心に火がついた。流石は光ちゃん。
それから、蒼ちゃんは弱音を吐く事も無くなり、勉強に取り組む。私も必死に教えて、夏休みが明けた。
宿題も終わり、テスト対策も万全。
「では、開始」
テストが始まった。
***
「うーん……もう少しできると思ったのになぁ……」
蒼ちゃんは返ってきたテストを眺めながら、顔を顰めていた。
「でも、全部赤点回避」
「まあ、そうだけど……」
蒼ちゃんはテストの点に不満らしい。
これを機に勉強に力を入れて欲しい。
「……わかった。次はもっと良い点取れるように厳しくする……」
「いや、この点数で満足だ!」
「……」
よっぽど、私に厳しくされるのが嫌なようだ。
また、テスト前に教えることになるけど。
「蒼先輩!」
「光!」
「テストの結果、どうでしたか?」
「えーと……」
蒼ちゃんは光ちゃんにテストの結果を見せる。
「蒼先輩、頑張りましたね」
「おう」
光ちゃんに褒められて嬉しいのか、蒼ちゃんが腰に手を当てて、頬を緩めていた。
「……蒼先輩、約束……覚えてますか?」
光ちゃんが顔を赤くしながら、上目遣いで訊ねる。
「……も、もちろんだ……!」
「……ここでは恥ずかしいので、二人きりになれるとこに行きませんか?」
「っ……わ、わかった……! 文香、少し行ってくる」
「ごゆっくり」
蒼ちゃんと光ちゃんは私を置いて去って行った。
十分後、蒼ちゃんが戻ってきた。
「ふふ」
今にも蕩けそうなほど、緩み切っていた。
光ちゃんの頬にキスがよほど良かったようだ。その証拠に、蒼ちゃんの頬には薄っすらと口紅の痕がついていた。
マナーモードのスマホを震えた。
メッセージで差出人は光ちゃん。
『文香先輩、約束忘れてないですよね。次の土曜日は空けておいてください』
メッセージを読み終えて、私はスマホを置いた。
「はぁ……」
「文香、ため息なんて吐くと幸せを逃げるぞ……えへへ」
「蒼ちゃんは幸せそう……」
「そうか……わかるかぁ」
「……」
蒼ちゃんの幸せは私の尊い犠牲でなっている。
そう思うと、少しムカついたので、蒼ちゃんの頬を引っ張った。
「いてて……何するんだよ」
「……八つ当たり」
「えー」
少しは気が晴れたので、スマホを取り出して光ちゃんに承諾のメッセージを送る。
「はぁ……」
気が重いなぁ……。




