23話
「蒼くん……!」
私は蒼くんに抱きついた。
「ふ、文香……! 大丈夫か? 怪我とかしてないか?」
「……うん……っ」
私は慌てて蒼くんから離れた。自分のした大胆な行動を思い出して、顔が熱くなる。
「……ごめん……私、逸れちゃって……」
「いや、謝るのは私の方だ。祭りとかあると、いつも突っ走って、母さんに怒られるんだ……だから、ごめんな」
「……うん」
蒼くんは優しい。他の人からは「鈍臭い」て言われるのに、蒼くんは私の手を引いてくれる。
蒼くんは手を伸ばすと、私の手を掴んだ。
「あ、蒼くん……!?」
「手を繋げば逸れないだろ!」
そう言って蒼くんは笑った。
それから、私達は祭りを回った。
射的、金魚すくい、たこ焼き、綿飴など。
蒼くんは初めての友達で、友達と過ごす楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「リンゴ飴……」
蒼くんが屋台のリンゴ飴を見つめながら、涎を垂らしていた。そして、財布の中身を見て、がっくりと肩を落とす。
私も財布の中を見るけど、お金が足りない。
「蒼くん……」
「うん?」
「その……いくら持ってる?」
「このくらい……」
蒼くんが財布の中を見せてくる。うん、私のお小遣いと合わせたら、一つは買える。
「私のお小遣いと、合わせたら……一つ買えるよ」
「本当か……でも、文香のお小遣いだし、自分の欲しい物買ってくれ」
「……私もリンゴ飴、食べたくて……半分こ、しよ……」
「っ……良いのか! ありがとう!」
蒼くんはリンゴ飴を買った後、私の手を引いて、階段を上り始めた。
「もうすぐ花火だからな! 良いところ知ってんだ!」
案内された場所は、夏祭りの会場を見渡す事ができ、ベンチがいくつか設置されていた。
私達はベンチに座って、リンゴ飴を食べ始めた。
「うめぇ……!」
「……甘くて、美味しい」
これって、間接キスだよね。
蒼くんにはその意識は無いみたいだ。
そして、花火が始まった。
ドン、ドン、と夜空に打ち上がり、お腹に振動が伝わってくる。
「なあ、文香。来年も一緒に来ような!」
「……っ、うん」
「その時は、リンゴ飴、たらふく食おうぜ!」
「ふふ、そうだね」
「でも、綿飴もチョコバナナも捨てがたい。そしたら、全部食ってやる!」
蒼くんは結構食い意地が張っているようだ。
花火が終わり、私達は帰路についた。
「文香、今日は遅いし泊まっていけよ」
「え……」
と、蒼くんのうちに急遽泊まることになった。
蒼くんのお母さんに、私のお母さんへ連絡を入れてもらう。
「一緒に風呂入ろうぜ」
「一緒に、風呂……」
私は小さいけど女の子だ。異性と入るのは少し緊張する。けど、蒼くんなら嫌じゃ無いかも。
脱衣所で蒼くんは躊躇うことなく服を脱いでいく。
「……」
そういえば、男の子て……。
蒼くんをチラチラと見ながら、服を脱いでいると、蒼くんがパンツを脱いだ。
「……え?」
男の子ならある物が、蒼くんには無かった。
「どうした?」
「え、え……」
もしかして、後から生えてくるとか……そんなわけない。
「蒼くんて……蒼ちゃんなの?」
「ん?」
「えーと……女の子なの?」
「そうだぞ」
「……」
こうして、私の初恋は終わったのであった。
***
「ん……」
目が覚めると、窓の外は真っ暗になっていた。
ぐっすり寝たおかげで、身体が少し楽になった。
「おう、起きたか?」
「っ……あ、蒼ちゃん……」
蒼ちゃんはベッドに肘をつき、私の顔を覗き込んでいた。
「いつから……」
「うーん……一時間くらい前から」
「そっか……」
そうなると、寝顔をずっと見られていたということだ。
「……デートどうだった?」
「……上手く行ったとは、思う」
「……」
普段は自信満々なのに、恋愛だけは自信がない。
「キスとかした?」
「っ……そ、そういうのは……時が来たら……」
しどろもどろになる蒼ちゃん。見ていて面白いかも。
「……蒼ちゃん、何しに来たの?」
「何って、見舞い」
「見舞い……」
「あ、そうだ。お土産持ってきたぞ」
そう言って、蒼ちゃんが取り出したのはリンゴ飴だった。
「文香、リンゴ飴好きだろ」
「……うん」
病人にリンゴ飴はどうかと思うけど……好きだし。
私は一口食べる。
「甘くて、美味しい……」
「そっか、良かった……」
半分ほど食べたところで食欲が無くなってきた。どうやら、身体は本調子ではないようだ。
「蒼ちゃん、後食べて」
蒼ちゃんはリンゴ飴を受け取ると、食べ始めた。
「……初めて一緒に行った夏祭り……リンゴ飴、半分こして食べたね」
「……そうだな。確か、文香は私の事男だと思ってたんだよな」
「……そ、そうだけど……蒼ちゃんが男の子みたいだったから……悪い」
「何だよ、私のせいかよ」
「……」
「もしかして、今も男の子に見えたりする?」
「それは……ない。うん、立派な……とても立派な女の子だよ」
私は蒼ちゃんのたわわな果実を見つめて、そう伝えた。
「そっか、立派な女の子か……」
気づいていない蒼ちゃんは「うんうん」と頷くのであった。




