22話
毎年、私と蒼ちゃんは夏祭りに行く。今年は光ちゃんも入れて三人だけど。
夏祭り当日、私は風邪を引いた。
「……」
熱は三十八度超え。頭痛と喉が痛くて、ベッドで寝ていた。蒼ちゃんに電話を掛ける。
「蒼ちゃん……風邪引いたから……今年は夏祭り行けない……」
『そうか……まあ、夏祭りは来年もあるからな』
「うん……だから、光ちゃんと二人で行ってきて……」
『わかった。お大事にな』
「……うん」
電話が切れ、スマホを頭の横に置いた。
扉がノックされて、開けられる。入ってきたのはお母さんだ。
「文香、具合はどう?」
「……全然ダメ」
「食欲はある?」
「ない……」
「無くても、何か食べないと……薬飲めないわよ、ほら
りんご剥いてきたから」
私はりんごを食べ、風邪薬を飲んだ。
「ちゃんと寝てるのよ」
「……うん」
お母さんが部屋から出ていく。私は瞼を閉じた。
***
「返して欲しかったら上ってこいよ!」
「そうだ、弱虫」
ジャングルジムの頂上に私から本を奪った男の子二人組がいた。
「……」
ああ、これ子供の時の記憶だ。
当時、弱虫で臆病な私はただ泣くことしかできなかった。そして、そんな子は当然揶揄われる的になる。
「うわっ、また泣いたぞ!」
「この泣き虫!」
「ほら、早くしないと破り捨てるぞ!」
私はジャングルジムに掴む、足を掛けて上るけど、一段目で足が震えてしまった。
「では、今から弱虫の本を破きます!」
「やったれ!」
男の子が本のページを一枚掴む。
「や、やめて……」
小さな声で言いながら、手を伸ばすが、本には届かない。
本が破られる……!
「貴様ら! 何をしてる!」
大声が公園内に響く。そして、公園に入って来たのは一人の男の子だった。
それを見て虐めていた男の子二人組を萎縮させていた。
「やべぇ……蒼だ……!」
「こ、殺される……!」
男の子二人組は本を捨てて、ジャングルジムを下りる。慌てて逃げようとするが、
「ぐへっ……!」
男の子の一人が吹き飛んだ。
「だ、大樹……!」
「さて、次はおまえだ!」
「ま、待って……!」
「ふん、男なら友達の仇を討つ! くらい言えないのか……!」
「……だ、大樹の仇だ……」
いじめっ子の男の子は涙を流しながら、男の子に向かっていくが、次の瞬間には吹き飛ばされていた。
もしかして、死んだ……?
私を助けてくれた男の子が、振り返った。
「安心しろ、峰打ちだ!」
「みね、うち……?」
「……つまり……手加減した、てこと!」
「……」
「怪我はないか?」
「怪我……うん、大丈夫」
男の子は落ちていた本を拾い、汚れを払った。そして、私に返してくれた。
「……ありがとう」
「どういたしまして! また、いじめられたら私に言ってくれ! けちょんけちょんにしてやるから!」
「……うん」
「そうだ、自己紹介がまだだった。私は夏目蒼、小学五年生だ」
「……緑川文香、小学五年生」
「おっ、同い年! 私のことは蒼て呼んでくれ! 私も文香て呼ぶから!」
「……っ」
私は服の袖をギュッと握った。そして、恐る恐る口を開いた。
「……あ、蒼……くん」
「おう! よろしくな!」
それが私と蒼くんとの初めての出会いだった。
それから、私と蒼くんはよく遊ぶようになった。
正確には蒼くんに手を引かれて、振り回された。
「文香! 今日はバレーボールしようぜ!」
「文香! 今日はサッカーだ!」
「文香! 今日は秘密基地作ろうぜ!」
蒼くんは運動が好きみたいで、遊ぶのは身体を動かすのは大半だった。そして、今日は森の中を探検しにやってきた。
「はぁ、はぁ……」
私は運動が苦手で、まともについて行くこともできない。
「文香、大丈夫か?」
「……少し休憩」
「……わかった」
私が木の影に座り込むと、蒼くんは隣に座った。
「……ごめん」
「どうして謝るんだ?」
「……私、蒼くんに迷惑かけてる……」
「そんなことか……気にしなくて良いよ。私が文香と一緒に遊びたいんだ」
そう言って、蒼くんは私の頭を撫でた。
私の顔が熱くなり、胸の辺りが温かくなった。
「……うん、ありがとう」
一緒に遊びたい。私も同じ気持ちだった。
「文香、明日の夏祭り、一緒に行こうぜ」
「夏祭り……うん、良いよ」
「やった……」
夏祭り当日。私達は少ないお小遣いを握りしめて、夏祭りに来た。
「わぁ……すげぇ、美味しそうなものがいっぱい」
「……そうだね」
蒼くんは瞳をキラキラとさせて、屋台を回る。
「ま、待って……」
蒼くんの足が速くて、見失いそうだ。それに人も多くて思い通りに歩く事ができない。
「うっ……」
蒼くんを見失ってしまった。
思わず涙が出てくる。
「文香! どこだ!」
「っ……」
蒼くんの声だ。
人混みを潜り抜けて、蒼くんの元に辿り着いた。




