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20話

 鼻血を出して倒れていた蒼ちゃんが復活して、私達は居間から蒼ちゃんの自室へと移動した。

 蒼ちゃんが自室の扉を開ける際、緊張して震えていた。


「ここが、蒼先輩の部屋ですか……綺麗ですね」

「そ、そうか……まあ、毎日掃除してるからな!」


 嘘だけど、指摘はしない。


「今、布団出すから」


 蒼ちゃんは押し入れから布団を取り出して敷く。私がいつも使用する布団だ。


「もう、一組取ってくるわ」


 蒼ちゃんはそう言って、部屋を出て行った。

 そして、光ちゃんはベッドの下を漁り始める。


「……光ちゃん?」

「文香先輩、こういうところにエロ本があったりするんですよ」

「……」


 そこに隠すのは思春期の男子高校生だ。少女漫画で顔を赤くする蒼ちゃんだから、エロ本はないだろう。


「あ、出てきました」

「え、嘘……」

「エロ本では、無いですけど」


 表紙では女の子同士が抱き合っていた。


「百合漫画ですね」

「百合漫画……」

「ちょっと、読んでみますか」

「いや、蒼ちゃんが戻ってくる前に……」


 扉が開くと、蒼ちゃんが入ってきた。


「布団、持ってきた……っ」


 光ちゃんが持っている百合漫画を見て、持っていた布団を落とした。次の瞬間、蒼ちゃんは風になり、百合漫画を奪い取る。


「……その……読んだか?」


 蒼ちゃんは顔を真っ赤にして、プルプルと身体を震わせていた。


「まだ、読んで無いですよ」


 私は何度も首を縦に振る。


「でも、読んでみたいです」

「……そ、それは……あ、こっちの漫画の方が面白いぞ……!」


 蒼ちゃんは本棚から漫画を取り出して、光ちゃんに渡そうとするが、光ちゃんは首を横に振った。


「いえ、私はそっちの方が良いです」


 光ちゃんは蒼ちゃんが奪った漫画を指差した。


「それって……女の子同士が恋する漫画ですよね。私自身、女の子と付き合うのが初めて……少しでも蒼先輩の好みを知れたら、と……」

「光……!」


 光ちゃんの演技に騙されて、蒼ちゃんが涙を流していた。


「……わかった! 好きなだけ読んでくれ!」

「あ、ありがとうございます……!」


 光ちゃんが漫画を受け取ると、開いた。

 内容が気になり、私も読もうとしたが、蒼ちゃんに肩を掴まれた。


「蒼ちゃん……?」

「文香は一緒にこっちの漫画読もうな」

「……うん」


 光ちゃんは良いのに、私に読ませないとは、ちょっと腹立つ。

 今度、こっそりと読んでやる。


「……」


 今の状況て、彼女に隠していたエロ本が見つかり、目の前で読まれるてことだよね。エロ本じゃなくて百合漫画だけど。

 そう考えると、蒼ちゃんの心情は羞恥心でいっぱいかも知れない。


「蒼ちゃん」

「うん?」

「……人生色々だよ」

「……?」


 励ましの言葉だったけど、上手く伝わらなかったようだ。

 それから、暇になった私は、蒼ちゃんから漫画を借りて読むことに。蒼ちゃんも漫画読んでいたけど、光ちゃんの方へ、チラチラと視線を向けていた。


「ふぅ……」


 光ちゃんが漫画を閉じた。


「蒼先輩、女の子同士の恋愛て、良いですね」

「そ、そうだよな……!」

「はい、親友だった女の子同士が遊びでキスをして、恋をしていく流れは面白かったです。後はーー」


 光ちゃんと蒼ちゃんは漫画の話で盛り上がっていた。


「……」


 一方、漫画の内容を知らない私は蚊帳の外である。

 ちょっと、寂しくなってくる。


「蒼先輩も……この漫画のようなキスしたいですか?」


 光ちゃんが頬を赤らめて、蒼ちゃんに訊ねた。蒼ちゃんは顔を真っ赤にして答える。


「……し、してみたい……かも……」

「じゃあ……今、してみます?」

「っ」


 光ちゃんは蒼ちゃんの前で座る。ぐいぐいくる光ちゃんに蒼ちゃんは戸惑っているようだ。それに、私という存在も忘れている気がする。


「ごほん」

「あ……文香先輩いましたね」

「そ、そうだな……」


 まさか、本気で忘れてた訳ないよね。

 それから、談笑したり漫画を読んだりして時間が過ぎて行った。


「……ん」


 時刻は二十二時。蒼ちゃんは頭を上下に揺らして、瞼が重そうだ。


「悪い、そろそろ限界だ……」


 蒼ちゃんは欠伸をすると、ベッドに入った。


「私達も、寝よう」

「そうですね」


 私達もそれぞれの布団に入った。リモコンで照明を消して、目を瞑る。

 隣からもそもそと動き音が聞こえてきた。

 目を開けると、光ちゃんの顔が目の前にあった。


「っ……」


 びっくりして声を上げそうになるが、その前に光ちゃんが私の口を手で押さえた。


「しー、ですよ」


 私が頷くと、光ちゃんは手を離した。


「どうして……私の布団に」

「可愛い彼女が寝てたら、手を出すのが作法だと思いますよ」

「……蒼ちゃんが彼女」

「なるほど、文香先輩も彼女でありながら、自分ではなくスヤスヤと眠っている蒼先輩を襲え、と言うことですね。文香先輩は友達を売って何とも思わないんですか?」

「……襲えとは言ってない」


 まるで、私が友達を売り飛ばす最低女みたいだ。

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