16話
牛丼屋を出た後、私は悩んでいた。
デートのエスコート。一体、どこに連れて行けば……!
そうだ。こういう時は漫画を参考にしよう。最近、読んだ漫画で、デートシーンがあったはず。
「……光ちゃん、私とドライブ、しよう……」
「ドライブ? 文香先輩、免許持ってますか?」
「……ごめん、忘れて……」
読んだ漫画は社会人同士が付き合っているものだった。
「……海に行こう」
「この前、行ったばかりじゃないですか」
「山……」
「今からですか?」
「……」
撃沈だった。私の心もポッキリと折れそう。
デートて、大変なんだ。
「はぁ……仕方ないですね。では、いつも蒼先輩と行っているところを案内してください」
「え? それって……」
もしかして、蒼ちゃんのことを知りたいてこと?
「そうしないと、立ったままデートが終わりそうなので」
「……はい」
私の早とちりだったようだ。
そして、私達がやってきたのはホームセンター。
「蒼ちゃん、物作り好きだから……ホームセンター良く来る」
「へー、そうなんですね」
「うん、特に工具売り場が好き……」
光ちゃんを連れて、工具売り場に行く。
光ちゃんはあまり工具には興味は無さそうだけど。私もないけど、蒼ちゃんに連れ回されたおかげで少しは分かる。
ここは、光ちゃんは楽しませるトークをしようじゃないか……!
「光ちゃん……これはモンキーて言って、こっちはラチェットで、後は……」
楽しませるトークなんて分からないよ……!
「これは……」
光ちゃんがバールを手に取った。
「バール……興味、ある?」
「はい、ホラー映画とかで頭に突き刺さるシーンとかありますよね」
「……そ、そうなんだ……」
ちゃんとエスコートしないと脳天に突き刺すて意味……?
「蒼先輩は、どんな物作るんですか?」
「どんな……写真ある」
私はスマホを操作して、写真を開くと、光ちゃんに見せた。
「……これ、何ですか?」
「……本棚」
「すぐに崩れ落ちそうですね……」
「うん……本一冊乗せたら壊れた」
「……蒼先輩、物作り好きですよね?」
「好き……だから、得意とは限らない……」
それから、私達はホームセンターは出て、ショッピングモールを歩いて回る。これでは、ただのウォーキングだ。
良いアイデアと、周囲を眺めていると広告が目に止まった。
『カップル! ペアルック!』
と、書かれていてオシャレなアクセサリーが載っていた。
「……ペアルック……て、どう?」
光ちゃんに恐る恐る訊いてみると、笑って答えた。
「文香先輩、素敵ですね」
というこで、アクセサリーを選ぶ事に。
指輪やネックレス、ピアス。
ピアスは……痛いからやめよう。
そもそも、アクセサリーなんて普段からつけないし。
「せっかくなので、文香先輩が選んでください」
「……わかった」
責任重大だ。変なのを選んだら、光ちゃんにセンスがないと思われるかも。すでに思われてるかもだけど。
「……」
アクセサリーを眺めて、指輪を手に取った。
ピンクゴールドで、ネコをモチーフにしたもの。
「可愛い……」
「それにしましょう」
光ちゃんも気に入ったようだ。
「……私が出すから」
「え? 良いんですか?」
「……うん、服のお礼」
私は会計を済ませる。光ちゃんは早速、指輪を付けていた。私も指輪を付ける。
「文香先輩、今日のデートはここまでです」
「……うん」
空はオレンジ色になっていた。
「今日は楽しかったです、服と牛丼屋には驚かせられましたけど……」
「それは、ごめん……」
次はちゃんと調べる事にしよう。
「……では、文香先輩、最後にさよならのキスをお願いします」
「……え?」
私が固まっていると、光ちゃんは顔を近づけきた。
「頬でも、唇でも良いですよ」
「……」
さよならのキスなんて……無理!
けど、やらないとダメだよね。
「光ちゃん……目、瞑って……」
「はい」
光ちゃんが目を閉じる。私は光ちゃんの手を取ると、手の甲にキスをした。
「……これが限界」
光ちゃんは目を開けて、自分の手の甲を見つめると、キスをした。
「今日はこれで、勘弁してあげます」
「……ふぅ」
ほっと胸を撫で下ろすと、光ちゃんが私を抱きしめる。
「冗談です」
「っ……」
光ちゃんは私の唇にキスをする。
「文香先輩、次は大人のキスしましょうね」
光ちゃんは私から離れると、去って行った。
私は指で唇に触れる。
キスされた……!
柔らかな感触が鮮明に思い出せる。
しばらく、顔からは熱が引きそうになかった。




