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15話

 映画という拷問を耐え抜き、私達は映画館を出た。


「面白かったですね」

「……そ、そうだね」


 映画の内容なんて、思い出したくもない。


「特に文香先輩が泣きそうになっていたのは、最高でした」

「……」


 面白かったのは映画じゃなくて、私の反応か……!

 腹立たしいが、怒る気力はなかった。


「……光ちゃん、休憩したい……」

「ホテルの誘いですか?」

「違う……疲れたから」

「分かりました。では、休憩しましょう」


 私がベンチに座ると、光ちゃんは自販機で飲み物を買った。


「文香先輩、どうぞ」

「……ありがとう」


 今日は光ちゃんに奢ってもらってばかりだ。服という飲み物といい。こういうのは年上の私が奢るべきでは?

 飲み物を飲んで、落ち着いてくると、光ちゃんが口を開いた。


「午後からは文香先輩のエスコートでお願いします」

「……え?」

「最高のデートを期待しています」

「む、無理……!」


 私が首を横に張る。光ちゃんはそんな頼りない私を見ながら、口を開いた。


「無理ではないです。これは命令です」

「……」

「それに、将来恋人が出来た時、デートのエスコートくらいは出来た方が良いと思います」

「将来……」


 私に恋人は出来るのだろうか? イメージが全くつかない。

 けど、今は恋人いるんだよな……蒼ちゃんの彼女だけど。


「もしかして……恋人は私だけで十分と。このままゴールインしたい、そういうことですか?」

「……」


 私を揶揄う光ちゃんは生き生きとしていた。

 たまには仕返しをしてやる。

 私は光ちゃんの手を握り、目を真っ直ぐに見つめた。


「わ、私は光ちゃんと……け、けけけ……こん……」


 恥ずかしくなり、上手く言葉が出なかった。


「ふふ……文香先輩は可愛いですね。でも、私と結婚したら、蒼先輩と結婚出来なくなっちゃいますね……困りました」


 光ちゃんは頬に手を当てて、首を傾げた。


「……じょ、冗談だから……」

「えっ……冗談なんですか……! 私、本気で……」

「……」


 光ちゃんは顔を手で隠すと、俯いてしまった。

 どうせ、嘘泣きだろう。


「……」

「……」

「……光ちゃん」


 呼んでも返事がない。まさか、本当に泣いてる……!

 罪悪感が胸に刺さっていると、笑い声が聞こえてきた。


「ふふ」


 光ちゃんが顔を上げる。


「やっぱり、文香先輩は揶揄い甲斐がありますね」

「……っ」


 心配した自分が馬鹿だった。


「さて、文香先輩。お腹が空きましたのでお昼にしましょう」

「……うん」

「では、文香先輩のエスコートでお願いします」


 そうだった。光ちゃんの命令で、私がエスコートするのだ。


「……」


 取り敢えず、お昼……どこにしよう。


「……歩きながら、決めよ」

「了解です」


 ベンチから立ち上がり、移動しようとするが、光ちゃんはその場に立ったまま。


「光ちゃん?」

「文香先輩、何か忘れてないですか?」

「忘れて……」


 ダメだ。まったく、思い浮かばない。


「デートは手を繋ぐ物です」

「……な、なるほど……あれ? でも、午前中は繋いで無かった……」

「文句ありますか?」

「……無いです」

「よろしい」


 私は手を伸ばした。そう言えば、誰かと手を繋ぐ経験なんてない。ましてや、恋人なんて。

 そう思うと、顔が熱くなった。


「えい」


 光ちゃんが私の手を握った。そのまま、指を絡める。


「恋人繋ぎです」


 光ちゃんが繋いだ手を持ち上げて、私に見せつける。私の反応を楽しんでいるのだろう。

 それから私達は飲食店を巡り、私が選んだのは牛丼のチェーン店。

 注文を済ませて、テーブル席に座る。


「……文香先輩」

「な、何……?」

「会社員の昼休憩じゃないんですよ。分かってますか?」


 光ちゃんは眉を顰めて、低い声でそう言ってきた。


「だって……飲食店あんまり知らないし……牛丼屋だったら、蒼ちゃんとよく来るし……」

「……はぁ」


 光ちゃんはため息を吐くと、牛丼を食べ始めた。

 私も牛丼を食べ始める。


「まあ、美味しいから、今回は良しとします」

「……ありがとう」


 許せて貰えたようだ。


「今度からはオシャレなお店をお願いしますね」

「……うん」


 オシャレなお店か。私には敷居が高い。

 でも、次までには調べておかないと。

 牛丼を食べ終えて、私達はお店を出た。

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