12話
夏休みになった。
燦々と降り注ぐ太陽。雲一つない空。
目の前に広大な海。
「海だーー!」
蒼ちゃんが手を広げて、大声で叫んでいた。
瞳をキラキラと輝かせている。
いつもなら、蒼ちゃんは海に飛び込みひたすら泳ぎまくるのだが、今日はデートだ。
忘れて海に飛び込んだりはしない……よね?
「蒼ちゃん」
「ん?」
「今日はデートだからね」
「あ……だ、大丈夫だ」
「……」
もし、私が言わなかったら、海に飛び込んでいた可能性大である。
「海見るとテンション上がりますよね」
日傘を差した光ちゃんが後ろからやってきた。
そう、今日は友達同伴のデート初日。
何もなく、終われば良いけど。
「文香先輩」
「うん?」
「楽しみましょうね、ダブルデート」
「……」
光ちゃんの言葉に早速、私の胃が痛くなった。
私達は更衣室に入り、水着に着替えた。
蒼ちゃんは前に買った青色のビキニ。私はワンピースタイプの水着である。
光ちゃんはフリルのついたピンク色のビキニだった。
「蒼先輩……スタイル良いですね」
「そ、そうか……」
蒼ちゃんは頬をかきながら、目を逸らした。
うんうん、褒められて良かったね。
「光も……その……似合ってる……」
蒼ちゃんが顔を赤らめながら、光ちゃんに伝える。
「ありがとうございます。今日のデートの為に用意したので……褒められると嬉しいです」
「っ……」
なかなかに甘々の光景である。
蒼ちゃんはレジャーシートとパラソルを持つと先に行ってしまった。
「文香先輩も可愛らしいです」
「……ありがとう」
「私のはどうですか?」
「……良いと思う」
「ふふ、ありがとうございます」
光ちゃんは蒼ちゃんの後を追った。
レジャーシートとパラソルの設置が終わった。
「蒼先輩、日焼け止め塗りますよ」
「日焼け止め……」
そういえば、蒼ちゃんは日焼け止めは塗らない。そのせいで、夏休みは真っ黒な蒼ちゃんが完成するのが毎度のお約束だった。
「私は」
「塗ってもらったら? 毎年、日焼けして痛めてるし……」
「そ、そうだな……じゃあお願いしても良いか?」
「はい」
蒼ちゃんがシートにうつ伏せに寝転がると、光ちゃんが日焼け止めを手に取った。
「ん……っ……」
蒼ちゃんから声が漏れる。くすぐったいのだろう。
「後は終わりました」
「ありがとう」
蒼ちゃんは起き上がる。その顔は赤くなっていた。
「次は前ですね」
「いや、前は自分で……」
「遠慮しないでください」
「で、でも……」
蒼ちゃんがチラチラと視線を私に向ける。助けて欲しいのだろう。けど、私は視線を逸らした。
「……蒼先輩……もしかして、私に触られるの嫌でしたか?」
「い、嫌じゃない……!」
涙を浮かべた光ちゃんを見て、慌てて否定する蒼ちゃん。
「だったら、良いですよね」
「お、おう……もちろんだ……」
光ちゃんが蒼ちゃんに日焼け止めを塗り始める。
お互いに向き合う形で、蒼ちゃんの顔は恥ずかしさからか真っ赤になっていた。
「蒼先輩て……胸大きいですよね」
「そ、そうか……」
「何か特別な事してますか?」
「いや、特に……たぶん、遺伝だと思うぞ」
「そうですか……少し揉んで見ても良いですか?」
「なっ……ダ、ダメだ……!」
蒼ちゃんが胸を隠した。
「えー、どうしてですか?」
頬を膨らませる光ちゃん。
「だ、だって……周りに人が居るし……」
「なるほど……では、二人きりの時は大丈夫ですよね」
「っ……」
蒼ちゃんの言葉が詰まった。完全に光ちゃんのペースだ。
「お返しとして、その時は私の胸も揉んで良いので。蒼先輩に比べたら、揉み応えは無いかもですけど……」
「っ……」
蒼ちゃんが光ちゃんの胸を見て、ゴクリと唾を飲んだ。
「蒼先輩、約束ですよ。あ、ちょっとお手洗いに行ってきますね」
光ちゃんは立ち上がり、お手洗いの方向へ歩き出した。
「……文香、私はどうしたら……!」
「どうしたら、て……揉ませてあげたら?」
「も、揉ませる……! 無理! 無理! 恥ずかしいだろ……!」
「けど、光ちゃんの胸も揉めるよ」
「……」
蒼ちゃんは頭を抱えていた。考えすぎて、頭から湯気が出そうだ。
「あれ? 蒼先輩、どうしたんですか?」
戻ってきた光ちゃんが首を傾げて訊いてきた。
「……大丈夫、頭を使いすぎただけ」
「そうですか……蒼先輩に日焼け止め塗って欲しかったんですが……文香先輩、代わりに塗ってくれますか?」
「……」
光ちゃんが日焼け止めを片手に、そう訊いてくる。
「蒼ちゃんに塗って貰ったら良い……」
「でも、蒼先輩……」
蒼ちゃんはさっきの揉む揉まれるで悩んだ末、頭から湯気を出していた。
「頬にチューすれば直る」
「なるほど……では、文香先輩、お願いします」
「……恋人の役目」
「ふふ、残念です」
光ちゃんが蒼ちゃんの頬にキスをする。
蒼ちゃんはギギギと壊れた機械のように光ちゃんを見た後、飛び上がっていた。揶揄った光ちゃんも楽しげに見ていた。
それから、蒼ちゃんはぎこちない手つきで、光ちゃんに日焼け止めを塗る。
「ありがとうございます、次は文香先輩の番ですね」
光ちゃんはニコニコ笑った。予想が出来ていた私は口を開いた。
「大丈夫、自分で塗ったから……」
「えー、でも塗り忘れもあるかも」
「……絶対にない」
「残念です」
言い切った私に、光ちゃんが折れたのであった。




