11話
「文香、今度の土曜日空いてるか?」
「うん、空いてるよ」
「そうか……光に文香のこと紹介したくて……」
「え……」
蒼ちゃんが私を光ちゃんに紹介? どういうこと……?
「実は……光と夏休みの予定立てて……私が友達と遊ぶ時間少ないて言ったら……友達も誘ったらて……」
「……」
ダブルデートならまだしも、友達同伴のデートてありなの?
「けど、文香は人と話すのが苦手だろ。だから、嫌なら断ってくれても良いから」
「……」
正直、私を誘う光ちゃんの目的はわからない。
けど、蒼ちゃんと遊ぶ時間少なくなるのは嫌。
「わかった、良いよ」
「良いのか?」
「うん……けど、私の方が一緒に行って良いの? 折角のデートに水差しちゃうかも」
「……まあな。光とのデートも大切だけど、私が文香と遊びたいんだ……」
「……そっか」
そんな恥ずかしい事を言われたら、もう行くしか無い。というか、よく蒼ちゃんは恥ずかしがらずに言える物だ。
そして、土曜日。
ファミレスにて私達三人は顔合わせする事になった。ボックス席にて、私の対面に、蒼ちゃんと光ちゃんが座っている。
「初めまして、蒼先輩とお付き合いさせて頂いている、七瀬光です」
「……は、初めまして……蒼ちゃんの友達の緑川文香です……」
初めましてでは無いけど、それを指摘したら、面倒ごとになる。
「文香先輩と呼んで良いですか? 私は光で良いので」
「……うん、光ちゃん……」
光ちゃんは私と一緒にいながら、平然とした様子だ。私は蒼ちゃんに関係が露見しないかヒヤヒヤしているのに。
「蒼先輩から聞いてます。文香先輩は大切な友達だって」
「……そうなの?」
「おう、文香は大切な友達だ」
「そう言われると、嫉妬しちゃいます」
「す、すまん……でも、光も……た、大切だから……」
「蒼先輩たら……」
光ちゃんは蒼ちゃんに寄りかかる。蒼ちゃんは顔を赤くしていた。
「……」
うんうん、幸せそうで何よりだ。
光ちゃんはパフェをスプーンで掬うと、蒼ちゃんに口元に運んだ。
「蒼先輩、はい、あーん」
「ま、待ってくれ……文香が見てるから……」
蒼ちゃんが私に視線を向ける。光ちゃんはニコニコと笑顔を浮かべて口を開いた。
「ダメですか……? 蒼先輩に食べて欲しかったのに……」
しゅんと落ち込む光ちゃん。その様子を見て、蒼ちゃんがぱくりとパフェを食べた。
「蒼先輩……! 大好きです……!」
「っ……」
光ちゃんのそんな言葉を聞き、蒼ちゃんの顔は真っ赤になり、口元がにやけそうになっていた。
甘々な光景を見せられた私は胸がいっぱいになる。
「……お手洗いに」
席を立ち、トイレに入る。
「はぁ……」
個室に入り、ため息を吐いた。
目の前でイチャイチャされ、居心地が悪くなり、トイレに逃げ込んでしまった。
それにしても、蒼ちゃん……光ちゃんにデレデレだった。
「……」
戻ろう。
個室を出て、手を洗っていると、
「文香先輩」
耳元で声を掛けられた。耳を抑えて振り返ると、光ちゃんが立っていた。
「ひ、光ちゃん……!」
「もしかして、耳弱いですか?」
楽しげに笑う光ちゃんを私は睨みつけた。
「……何のよう?」
「蒼先輩とイチャイチャしたので、文香先輩が嫉妬してないかと思いまして」
「……してない」
「えー、そこは寂しかったて言って甘えて欲しいです」
「……」
「ふふ、冗談ですよ」
光ちゃんは壁に寄り掛かり、腕を組んだ。
「ほら、今回の件で聞きたいことありますよね?」
「……何で、私も誘ったの?」
「……それはですね、私からの善意ですよ。蒼先輩が友達と遊べなくて悲しいと言ってたので、文香先輩も同じかもと思いまして」
「でも……デート、だから……友達同伴はおかしい……」
「普通ならありえないですよ。でも、私から見たらダブルデートみたいなものです」
「ダブルデート……?」
私が首を傾げていると、光ちゃんがニコニコ笑いながら口を開いた。
「私と蒼先輩、私と文香先輩。ほら、ダブルデートじゃないですか」
「……」
「まあ、分かりやすく言うなら……夫婦の旅行に不倫相手を友達というポジションで連れて行くものです。なかなかの鬼メンタルですね」
そんな例え話を聞いたら、胃が痛くなってきた。
つまり、光ちゃんとの関係がバレないように気を使わないといけない。
「あ、今更行かないのはダメですよ。私も蒼先輩も文香先輩と一緒に行けるの楽しみにしているので」




