10話
教室の外から蝉の鳴き声が聞こえて来る。日差しが強い為、教室のカーテンは閉め切っていた。
幸いにも空調がついている為、教室内は涼しい。
「もうすぐ夏休みだな……」
蒼ちゃんが売店で購入したアイスを食べながら呟く。
「そうだね」
「夏といえば、海にプールにバーベキュー。やりたいことがたくさんだな!」
「うん……後、蒼ちゃんはデートでしょ」
「なっ……」
蒼ちゃんの顔が熱くなった。
「……頑張ってね」
「おう」
デートの時間で、私と遊ぶ時間は減るけど仕方がないことだ。私はのんびりアニメでも観よう。
「文香……デートのことで、少し相談があって……」
「……蒼ちゃん、知ってると思うけど、私は恋愛から程遠い人間だよ」
「それは……知ってるけど……他に聞けるやついなくて」
「……蒼ちゃん、友達たくさんいるじゃん」
「いるけどよ……でも、大事なことは文香に相談したくて……」
「……」
蒼ちゃんめ、恥ずかしいことを……!
けど、蒼ちゃんに頼られたら、応えないわけにはいかない……!
「……わかった。相談に乗る」
「おう、ありがとう」
蒼ちゃんが少年のように笑った。
「それで、デートについての相談?」
「ああ……夏休みに、海に行く約束してな……それで、水着を買いたくて」
「……なら、毎年買ってる」
私はそう言って、蒼ちゃんの胸を睨んだ。
蒼ちゃんの胸は絶賛成長期。その為、毎年水着を買っていた。本人曰く、お金がかかって困っているとのことだが、全然成長の兆しを見せない私からしたら贅沢な悩みだ。
「確かに、そうだけど……でも、せっかくなら……光に可愛いて思われたい……」
「………………」
「文香?」
「……ごめん、少し待って」
蒼ちゃんの乙女な気持ちを聞いたら、自分の浅ましさが嫌になってきた。
「蒼ちゃん……最高の水着選ぼうね」
「……おう」
と、私達は学校が終わった後、水着を買いに近場のショッピングモールに来た。
「いつもなら、競泳水着一択だけどな……」
「そうだね」
毎年、蒼ちゃんの選ぶのは競泳水着だ。理由として泳ぎまくるし、遊びまくるので、動きやすい為とのこと。
実に蒼ちゃんらしい理由である。
「……うーん……」
蒼ちゃんは水着を見比べながら、首を捻っていた。
「蒼ちゃんはスタイル良いから、ビキニが似合う」
「ビキニ……わかった、試着してみる」
蒼ちゃんはビキニを何着か取ると、店員さんに話しかけて、試着室に入った。
私は試着室の前で、蒼ちゃんが着替え終わるのを待つ。
「文香、いるか?」
蒼ちゃんがカーテンを少し開け、顔だけ出してきた。
「いるよ」
「了解、着替えたから感想をくれ」
蒼ちゃんが試着室のカーテンを開ける。
私は蒼ちゃんの水着姿を見て、固まった。
青色のシンプルなビキニ。シンプルゆえに、蒼ちゃんのナイスバディが強調されていた。
「……」
特に胸がけしからん。まるで丸々としたスイカのようだ。
私の手が自然と蒼ちゃんの胸に伸びた。手のひらが沈む。
「……文香?」
「……あ、ごめん……つい」
私は慌てて手を離した。
「その……似合ってるか?」
「……うん、似合ってる……悩殺間違いなし、だよ」
「悩殺……! そ、そうか……!」
蒼ちゃんの顔が赤くなる。たぶん、光ちゃんを悩殺する自分を想像しているのだろう。
それから、蒼ちゃんは何着かビキニを試着し、青色のビキニを購入した。
「よし、次は文香の水着だな!」
「え? 私は良いよ……まだ、着れるし……」
蒼ちゃんの羨ましい事情とは違い、私は新しい水着を買う必要はない。
「せっかくだし、選ぼうぜ!」
「……はぁ」
蒼ちゃんは譲るつもりは無いようだ。
私はしぶしぶ水着を選ぶことに。
そもそも、水着を着る機会なんて、蒼ちゃんと遊びに行く時だけだ。蒼ちゃんは光ちゃんとデートするから、今年は着る機会がないかも。
「文香、これとかどうだ?」
蒼ちゃんが笑顔で見せてきたのは紺色の水着、スクール水着だった。
「蒼ちゃん……それって、私の体型が小学生みたいだから、スクール水着がお似合いて意味?」
「……え、えーと……これは違くて……」
蒼ちゃんが汗を垂らしながら、後ずさる。
蒼ちゃんとしては、軽く冗談でやったつもりだったのだろう。けど、私からしたら、冗談では済まされない。
「ねえ、蒼ちゃん」
「は、はい……」
「私ね、蒼ちゃんにはもっと似合う水着があると思う」
「に、似合う水着……?」
「うん」
私が手に取ったのはマイクロビキニだった。
「ふ、文香……これ、ほとんど紐なんだけど……」
「そうだね、でも蒼ちゃんのおっぱいは武器……うんうん、兵器だから積極的にアピールした方が良いよ」
「……でも、これ隠せないぞ」
「隠さずに出せば」
「……」
「……」
「……文香、本当に悪かった」
蒼ちゃんは私に深々と頭を下げたのであった。
その後、私はワンピースタイプの水着を一着買い、私達は店を出た。




