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分岐end1 死滅学園

本編じゃないけど、これを最後にしてもいい

 客室の扉には鍵が掛かっていた。ドアノブは途中で引っ掛かり、ピクリともしない。エリスは少し恥ずかしそうに魔法を唱えた。


 小さな失敗が微熱を与える。全てを諦めた虚無の身体に人間らしさとでも言うべき起伏が取り戻される。俯きがちな顔は前へと戻り、ニスの塗られた赤い木製の扉を認識する。開けばその先の窓に映る海の開放感さえはっきりと。


「魔導書、持ってますよね」


 自然と漏れた言葉にエリス自身でも驚く。しかしとエリスは振り向き再度ガーベラに尋ねた。


「魔導書……もうわかっていると思いますが、死の魔導書。持ってますよね」

「…………ああ」


 ガーベラは客室にも入らず口だけを動かして、ただエリスを観察していた。


「なら、もう終わりですね。きっとガーベラさんが考えている通りです」


 どうするべきか。先に答えを出したのはエリスの方だった。諦め、受け入れた。犯した罪と向き合い告解しようとする姿はどこか清々しい。


「そうだろうね」

「……私が——」

「その前にエリス」


 なら、次は私が向き合うべきだろう。これから犯す罪と。ガーベラはエリスの言葉に声を被せた。


「屋上に行ったことはあるかい?」

「……は?」


 学園の屋上には強く風が吹いていた。崖際に建っていることもあって、南の荒れた海から潮風が強く吹き荒れるのだ。反対に北を向けば穏やかで大きな街道が見える。森を切り開き煉瓦で舗装された道には人一人歩いていない。


「久しぶりに来たけどいい場所だね」


 道の先には都が栄え、その街のシンボルともなる時計塔が聳え立つ。二針の位置から放課後までまだまだ時間があるみたいだ。エリスは同級生たちが勤勉に授業を受けていることへの優越感も、広大な自然に心を動かされることもなく。やや不機嫌な目つきでガーベラを見ていた。


「なんで、屋上に来たのですか」

「最終手段だからといって、必ずしも最後にする必要はない」

「は?」


 わけのわからないことを言うガーベラにエリスは一層眉を顰めた。それでも当のガーベラは、エリスに目もくれず街道を眺めている。


「私は、私たちは始めに優先順位をつけた」


 屋上の壁に片腕を預け、もう片方の手は上着の内側を弄り、二つの本を取り出した。一つはエリスの死の魔導書。もう一つ、陽の光を金色に反射する分厚い本が宙に浮かぶ。


「一、豊作の終了。二、豊作を引き起こした犯人あるいは魔導書の回収。三、それ以外の全て」


 エリスには何を話しているのか一つも理解できなかった。ただガーベラの真横でパラパラとページが捲られているその本が魔導書であることだけを理解した。


「この三には例えば、魔導学園それ自体さえ含まれている。生徒、教師、用務員、事務員、司書、学園長。そして魔導書。それすら含まれている」

「……何の話ですか」

「理解する必要はない。エリス、君には頼みたいことがある」


 金色の魔導書がピタリと止まる。まるで目的のページを探し出したかのように、読めとガーベラに迫る。


「結べ誂え菊襲 孤け繕え鵙ノ贄」


 ガーベラの目が魔導書をなぞり、そう口にしたかと思えば、エリスの体は明らかな異変を感じ取っていた。浮遊感。まるで空を飛んでいるような明らかな高揚感。空腹感。昼間は食べていなかったがさっきまでとは比べ物にならないほど腹痛すら感じるほどの空腹。そして、時折り肩の下へと降ろしては、再び元の高さまで戻す腕。……いや、腕は普通降ろしておくものだったような。思考さえ落ちていく。


「魔を導くと書いて魔導。それはこの世の法を逸脱した圧倒的な力。魔導書はいわばその次元の扉だと思うんだ。だとしたら、出てきたいものは何なのだろう。魔導書たちが導きたい魔とは何なのだろう」


 肌に冷たい水が触れる。晴天の空の光がくぐもる瞳に降り注ぐ。空腹感は未だ健在。それに加えて今度は恐怖さえ湧き上がってくる。危険信号だ。


「魔導書は人に頼らなければならない。その魔を解放するために彼らは人を誘導する。魔術者の作った現代呪文から古代呪文、さらに『魔』本来の呪文へ。口当たりのいい言葉を並べて容易に唱えられるようにする」


 無数の知識が洪水のように流れ込んでくる。知らない魔法。知らない記憶。知らない体験。まるで別人の人生の片鱗をごちゃまぜに味わっている気分だった。そんな歪なパノラマの中、ひたすらに困惑だけが主張している。


「さて、範囲はどれくらいだろうね。見た感じ都の方にまでは届いていないだろうけれど。優先順位は低い。心配する必要はないね」

「なに……を」

「何をしたか? 何と言われても私にはわからない。君が今どんな気分でどんな目にあっているのか想像すらつかない。言えるのは、今君が味わっているこれが魔法だということだけ。繋がりの魔導書。君の様子を見るに繋がっているんだろうね。ありとあらゆる全てと一心同体になっている」


 そう話したガーベラは興味深そうに胸ポケットを弄ってあの虫を取り出した。死んだはずの黒い虫。それがワキワキと足を触角を動かしている。


「面白い。全てというのはきっと本当に全てなんだ。人と、鳥と、魚と、大地や海、木々から本、そして死体まで。範囲内の全てが繋がっている。故に、死体すらその生命と結びつき動くみたいだ。どうだいエリス。君は今このゴキブリの目を通して君を見ているんじゃないか? どんな風に写っているんだい?」


 ガーベラの深いクマとその上に浮かぶ黄金が嬉々としてこちらを見ている。困惑する私をエリスを少女を見ている。


「と……いて」

「それはできない。エリスも知っているだろう。魔法は万能じゃない。繋ぐ魔法は繋げることしかできない。解くにはその魔法が必要だ。とは言っても、ただの解呪魔法じゃあこの魔法は解けない。魔導書の魔を解放させた同等の魔法を解く魔法でなければね」


 だけど。ガーベラは言葉を続ける。


「エリス。君の魔法なら解けるかもしれない」


 エリスの瞳に光が差し込む。それは誰の光か。彼女だけのものか、それとも繋がった全ての生命のものか。


「死の魔導書。君が例えばこのゴキブリに魔法をかければ繋がった全ての生命は死ぬだろうね。単体で寿命が尽きても、繋がった者たちの生命力に押し潰されるだろうけど、君の魔導書ならその心配はない」


 エリスの顔に影がさす。ほんの僅かな影。戸惑いと言い換えてもいい。現状を変えられる死への希望と安堵が心中で渦巻いている。人間のものではない。


「それに魔導書が魔導士を守るとは言っても、今の君がエリスなのか、それとも混ざり合った何かなのかは判別がつかない。要するに、安心したまえエリス。君も死ねる」


 これは罰だと続け様に。犯した罪を背負いながら生きるのは辛いことだろうと。これから殺す全てに恨まれることも、罪悪感に苛まれることもない。


 だが、死を前にして勝るのは、安堵なんかじゃない。誰のかも判別つかない鼓動が音を鳴らす。感情は混沌とし、どれが自分のものかもわからない。しかしエリスは確かに目の前の得体の知れない女に怒りが湧いていた。それをガーベラは意に介することはない。


「本当の最終手段は、魔の解放による豊作の足止めだったんだけど、君がいたお陰で事件ごと解決しそうだ。心を込めて感謝するよ。ありがとう」

「私が…………するわけ」

「しないという選択肢はない。さもないと寿命が尽きるまでそのままだ。まともに動くこともできず、あらゆる全てと一つになったまま。ちなみに、寿命が尽きるっていうのは、君のじゃないよ。大地や海、空気、あと——ハムラサキ先生。時間の魔導書で永遠を生きるあの人が死ぬまで君は、君たちはそのまんまだ」

「どうして……こんな」

「どうしてこんなことができる……か。さあ、どうしてだろうね」


 ガーベラ自身、その明確な答えを持ち合わせていなかった。ただ命令だから仕事だから。それが理由だとしても、なぜこんな非道がなせるのか。


 きっと普通の人間ならば葛藤の一つでもあったのだろう。これから起こることへの恐怖。それがあったのだろう。


 だが、生憎ガーベラには一切の恐怖心がない。理解できない。常にあるのは知識のみであり、危険だ、するべきではないと、わかっていても出来てしまう。簡単にその選択を取れてしまえた。その先に待ち受ける未知への恐怖に思いを馳せても、うまく想像がつかない。きっと、ライオンの檻にでもぶち込まれても、ああ死ぬのか程度の哀愁で終わると自負していた。だが、それ故にこの選択肢が取れる。


「ふざけ……」

「ふざけていないよ。エリス。選択の時だ。いや君だけの問題じゃない。あらゆる全ての意思による決定だね。ほら、魔導書と、ゴキブリを置いておこう」


 足元に黒い魔導書と黒い虫が置かれる。気持ち悪い。遠ざけたいが、その虫は触角をゆらゆらと動かすばかりで足を動かそうともしない。エリス自身もそうだった。


「それじゃあ私はマギアに帰るよ。……本当に、君がマギアに来ることを楽しみにしていたよ。さようならエリスハウメア。それから皆んな」


 そう言葉を残してガーベラは飛び去った。追いかけることも、待てと呼び止めることすら今のエリスにはできない。そんな少女を尻目に、魔導書はゆっくりと宙に浮かぶ。黒い表紙から黄ばんだ紙がパキパキと音を立てて、たった一言だけが書かれたページを開く。

 魔導書は読めと、誰も頼んでいないのに、そのページをエリスの目に向けた。全てが呪文を認識した。


 唱えるな。ハッキリと言葉が聞こえる。お願いだと。唱えないでくれと。死にたくないと。言葉は聞こえるのだ。理解できる言葉。子どもの時に教わった母国語は聞こえるのだ。だというのに。


 一体何が口を動かせるのか。死という概念のない全てか、それとも雑多な動植物か。彼らが頭を心を体を支配して希死念慮を働かせる。


 誰かの知識にあった。自殺をするのは人間だけらしい。それは人が持つ想像力や思考力の成せる業。なら今はどうか、学園中の人間特有の自殺を理解した全ての無機物有機物が何を考えるのか。


 答えはただ一つ。





「シセルマジック」





 それは、あまりにも簡単に唱えられてしまう


 ——全てのものが死せる魔法。

せっかくの即死魔法なんだからこんなふうに舞台装置をメチャクチャにしたものが書きたいし、今後も分岐endを出すし、true endもこの路線で書きたい

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