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ep.12 繋げる幕間

 可哀想。可哀想? 何が可哀想だというものか。

 上を目指すことがそんなに悪いことなのか。

 他者を蹴落とすことがいけないことなのか。


 ああ、違うんだろ。

 一番を夢見るこの心が哀れだというのだろ。


 心身の成長。島から出たエリスは数多の人と関わって理解した。あの時の姉の瞳がずっと頭から離れない理由を。


 されど仕方がないだろと、己を納得させようとする。瞳の色や肉付きのように心は生まれながらのものだから。他者を羨み嫉み僻み憎しみ怒り悔やむのは仕方がないことだろう。どれだけ変わろうとしても変われないのだから、仕方がないことだろう。


 もっと個でありたかった。


 成長するほどに知った。自分の弱さを理解した。だから他人とは差があればいいと、魔導書をより欲しがった。


 もう誰とも比べないように。誰よりも凄くて、誰とも違う魔導書が——。


「欲しい」


―――――――


 部屋の煙が晴れて、ポピーはすぐに窓の下を確認した。寮三階から飛び降りて無事であるはずもないのだが、それでも確認したくはなる。


 もともとポピーに任されたのは、ジギタリスの逃した獲物を足止めすること。殺すつもりなど毛頭ないのだ。


 だから、故に、焦っていたと言ってもいい。


 人が、学園の仲間が、死ぬ瞬間を目撃してしまったのだ。いや、もしかしたらまだ大丈夫かもしれない。その一縷の望みにかけて下を確認した。


 案の定、エリスの姿は見えない。渦巻く海流があらゆるものを飲み込んでしまんと口を大きくかっ開いている。


「どうするんだ? 助けに行くのか? どうやって?」


 わからない。ロープや習った魔法ではこの荒波に抗うことはできないだろう。自分に残された手段は人の行動を左右できる魔導書だけ。

 これでエリスを泳がせる? 不可能だ。どう足掻こうとも波に人体は勝てない。


「ああ、デメテル。お願いだ。恩がないなんて全く思ってない。禁書庫に連れて行ってくれたおかげでこんな魔導書も手に入れられたんだからさぁ。お願いだ。エリスを、助けてやってくれ!」


 まるで神に願うように祈りを捧げるポピー。それが届いたのかはわからない。だが、視界の端で黒い何かが海へと飛び込んだ。


 確かに見た。見間違いではない。水飛沫も小さく上がった。ただそれが何なのかまではわからない。黒く小さな鳥のような何か。


 願いが届いたのかはわからない。

 それでもポピーは海を、唖然と眺めていた。


 静寂。そう表現するしかない。どこまでも続く穏やかな海が地平線を越えて空まで繋がる美しい絶景。


 白波は消えてどこまでも青が、静かな青が広がっていく。


 崖際の波も、遠くの岩に打ち寄せる波も、全てが死んだように消え去った。


 氷上のような海。いや最早、ただの青でしかない。風が吹こうが魚が泳ごうが、波は死んでいた。


「……っ! ゴーマジック!」


 そのおかげか、人影が見えた。ポピーは迷わず魔法を唱え、自らも外へと向かった。

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