魔石の苦しみ
前回のあらすじ
なぜか屋敷中から謎の声が聞こえるようになってしまったメルル。
薬で抑えるものの切れるとまた聞こえてしまう。
その時声は魔石の方から聞こえていることに気づきオニキスを掴んだ。
予想通りオニキスから声が聞こえたことで声の正体は魔石であることが判明した。
魔石はなぜメルルに話しかけるのか。
オニキスの声が聞こえた次の日。
昨日の出来事が衝撃的すぎて寝たはずなのになんか疲れてる。
もしかして昨日のことも夢だったのかも。
「ふあぁ〜。そんな…上手くいくことないよね〜。」
あくびをしながらベッドから降り机の上のオニキスを撫でる。
「おは、よう。」
「ひっ!」
「なんで、驚く。」
撫でた瞬間に頭に声が響いて後ずさりする。
「夢じゃ……なかったんだ……。」
「夢じゃ…ない。」
脳内に声が響く感覚はやっぱり慣れない。
リュシーに言った方がいいのかな?いや絶対おかしくなったって心配される!
本当に幻聴かもしれないし。
耐えられなくなったら言おう。
「何、考えてる?」
「いやぁなんでも。」
「そうか。他の石の話も聞いて、欲しい。」
淡々とした声の中に少しだけ切なさや悲しみが滲んでる気がした。
「……わかった。ご飯食べたらでいい?」
「あり、がとう。みんな、待ってる。」
待ってるんだ……。ちょっと怖い。
コンコン。
「お嬢様〜!おはようございます!調子いかがですか?」
怖っとなってる時に来るリュシーはほんとに女神かなんかの生まれ変わりだろう。
「リュシー!調子はだいぶ良くなったよ!」
「ふふふ。元気そうで良かったです!もし体調がすぐれなければライスプディングみたいな軽めのものにしようかと相談していたのですが普通のもので大丈夫そうですね。」
「うん。普通に食べれそう!ライスプディングもちょっと食べたいな美味しいからさ。」
ライスプディングと聞いて数日前に食べた優しい甘さが蘇ってくる。
現世じゃ食べたことなかったけどすごいほっとする味で好きな食べ物ティアでティア1に躍り出てくる勢いだ。
「お腹すいてるんですね!確かにうちの料理長が作るライスプディングは国一番美味しいと思いますからね!料理長も喜びますよ。持ってきますね〜!」
私も後でもらっちゃおうかなと頬を綻ばせてリュシーは部屋を出ていった。
「私も……食べたい。」
「はぁ?」
突然オニキスが喋り始めて素っ頓狂な声が出てしまう。
え魔石ってもの食べれるの?嘘だろ。
「冗談。」
かち割ってやろうかこいつ。
じとっとした目で見つめてしまう。
「……外が、恋しい。」
ふとオニキスが呟く。
「え?」
それも冗談なのだろうか。
ねぇそれどういう意味と口を開こうとしたその瞬間。
「お嬢様〜お持ちしましたよ!」
リュシーが入ってきてしまった。
「あ、ありがとう!」
「?どうかしましたか。」
さっきと少し雰囲気が変わった部屋の空気を感じリュシーは訝しげに聞いてきた。
「ううん。なんかまだちょっと眠いな〜って感じでさ!」
「そう、ならいいんですけど……。無理だけはなさらないでくださいね!」
心配そうな顔をしながら言い、彼女は業務に戻っていった。
ハムエッグ的なのにトーストっぽいやつ。それとライスプディング!
サクッとしたトーストがとても美味しい。
でも今は脳内食レポしてる場合じゃない。
「んっ。ねぇさっきのどういう意味?」
「さっきの、とはなんだ。」
「外恋しいってやつ。」
トーストの最後ひと口を飲み込んでオニキスに聞く。
「そのまま。外が、恋しい。」
外って売られてた時の記憶?それとも鉱山の話?
「戻りたいってこと?」
「違う。恋しい。出たい。」
んんん?なんか話が噛み合わない気がする。
「とりあえず食べ終わったら外とか出る?」
私の言葉に反応してかオニキスが一瞬キラリと不思議な光り方をした。
私の勘違いかもしれないけど。
「市場に、行きたい。」
「市場?」
やっぱり売られてた頃が懐かしいのかな。
「仲間たち、泣いてる。」
「泣いてる?」
「そう。」
それ以上オニキスは何も言わなかった。
まぁ確かに市場行くのありかも。
まだここに来てから魔石がとんな風に売ってるとか。人気具合とか全然知らないし。
つまり市場調査するしかない!
リュシーは他の業務で忙しいのかなかなかお皿を取りに来なかったのでペンで書き置きを残す。
『ご飯美味しかったよ。ちょっと市場に行ってきます。』
「これでよし!」
割れてしまっているオニキスは瓶の中に入れて荷物をまとめて部屋を出る。
なにげに1人で家の外まで出るのは初めてかもしれない。
ちょっとドキドキしながら門をくぐる。
「いってらっしゃい!」
「メルル、気をつけて。」
「今日も可愛い。」
一斉に声が頭の中に響く。
昨日までは怯えてた声。
でも今なら分かる。きっとこれも魔石たちの声なんだ。
だから私は振り返って言った。
「いってきます!」
「わぁ!」「聞いた今の!」「返事した!」
一気に明るい声が流れ込んでくる。
少しいい気持ちになりながら市場へ向かった。
「みんな、喜んでる。」
「やっぱりこれって魔石たちの声なんだね。」
「そう。」
特に話すことが見つからなくて無言のまま歩く。
傍から見たら独り言だしね。
家から約15分市場に着く。
前はこの距離でもかなりしんどかったが体力がついてきた今ならそこまで苦じゃない。
「ちょっと暑いぐらいかも。」
何か飲み物でも探そうかな。
そう思い、市場へ足を踏み入れる。
「うーん。ミルクティーとかじゃなくてフルーツ系のさっぱりしたのがいいなぁ。」
魔石のことなんかそっちのけで露店をウロウロする。
「あっち。」
突然オニキスが喋りだした。
「え?」
「あっちの奥。」
「あとじゃダメ?」
ぐんっ。
いきなり引っ張られる感覚がした。
「え今のアンタ?」
「早く。」
そんなこともできるの……?
なんなのこいつら。
怖さもありオニキスの言う通り奥へ進んでいく。
「右。」
「路地ほっそ。」
通りと通りの間の細い道へとオニキスは誘導していく。
「この角。」
隣の通りに出たすぐそこらしい。何があるんだろう。
少しドキドキしながら道を抜ける。
そこは魔道具のお店だった。
店番として少し古いがちゃんとした身なりのおじいさんが座っていた。
こちらにも気づかず魔石を磨いている。
「ここであってる?」
「そう。」
「でもなんの変哲もないとこじゃない?」
「だからこそ。」
「え?」
かがんで魔道具を手に取る。
小さい杖の真ん中に濃い緑色の魔石がはまっているものやピンク色の石がはまった指輪。赤色の石がはまったネックレスに2色に見える原石
「これはエメラルド?こっちってアレキサンドライトじゃない?」
「……しい。」
「え?」
「……苦しい。」
緑の石から声が響く。
「苦しい?」
「閉じ込められてるから。」
オニキスが喋る。
「ん?ごめんね気づかなくて。」
店主がこちらに気づく。
「いえ。来たばっかなので大丈夫ですよ。」
「左から、エメラルド、モルガナイト、ルビー、アレキサンドライト。だよ。」
「あやっぱりそうなんですね。」
「ほう!分かるのか今どき珍しいねぇ。」
「出たい。」「助けて。」「苦しい。」
ニコニコしている店主には分からないだろうけど実はすごい阿鼻叫喚ですよ……。
「やっぱり、魔道具って人気ないんですか?」
時刻は昼過ぎなのにまだ残っているところをみると難しいのだろう。
「そうだねぇ。なかなか……っておや?」
「?」
私を隅から隅まで見ると店主は突然立ち上がった。
「ラブラドール家のご息女ではないですか!も、申し訳ありません!」
とても慌てたように店主は言う。
「あ、ぜ、全然大丈夫ですよ!」
「まさかラブラドール家の方がこんなところにいらっしゃると思っていなくて……。」
「そんなお気になさらず……。」
「いやはや……。おっしゃる通り魔道具は厳しいものですね……。やっぱり効果も微々たるものですし。なのに値は張るものなので……。」
店主はこめかみを押さえてため息をついた。
その下では魔石たちが呻いている。
「弱くない。」「お前らのせいだ。」「しんどい。」「苦しい。」
じ、地獄だ……。
私が狼狽えていることもつゆ知らず店主は言葉を続ける。
「ラブラドール様もやはり厳しいですよね……。もしや魔道具からは手を引かれるのですか?」
その言葉に彼らに目はないはずなのに魔石からの視線を感じる。
すごいプレッシャーだ。でも!
「き、厳しいです、けど……また立て直したいなって思ってます!」
顔に熱が集まるのがわかる。
恥ずかしくなって下を向いてしまう。
「おお。」「ほんとに?」「まじかよ。」
下から歓喜の声が聞こえる。
なんか心なしかピカピカしている。
「言ってくれると、思ってた。」
少し嬉しそうなオニキスの声も聞こえる。
恐る恐る顔をあげると店主は驚いた顔をしていたがすぐにとても嬉しそうな顔をして言った。
「本当ですか?!ラブラドール様がしてくれるならとても嬉しいです!」
私の手を取って店主はブンブン振る。
「魔石はとても綺麗でこんな石ころのような扱いを受けていいわけないんです!でも私たちのような小さい店ではどうしようも出来なくて……。」
店主からは魔石への愛をとても感じる。
「私、頑張りますから!」
「お願いします……。もし良ければこの子たちを持っていって頂けませんか?」
そう言って売り物の魔道具を差し出してきた。
「いやいや!申し訳ないです!せめて代金払わせてください!」
「いいんです。なぜかわかりませんがこの子たちは貴方様といる方がいい気がするんです。今もほら私の目にはなんだかいつもより輝いて見えるんです。それにこんな小さい店にいるよりもラブラドール様のもとにいたほうが日の目を浴びれます。
この子たちの居場所になって下さるなら代金なんていいんです。」
涙目になりながら渡されると断りづらくて受け取ってしまう。
手の中に収まった彼らは確かに店主の言う通り輝いて見える。
「ありがとうございます。大切にします。」
「やったー!」「新しい家。」「楽しみ。」「出れる?」
そんな声が頭に響く。
「あの、もう1つ聞いてもいいですか?」
「もちろんですとも。」
私が今1番気になっていることを聞く。
「魔石には秘められたさらに強い力があると言われたら信じますか?」
「ほぉ?」
私の言葉にぽかんとした顔を店主は浮かべる。
少し考えたあと彼は口を開いた。
「もちろんそんな力があれば魔石に携わってきた者としてはとても嬉しいですよ。ですが信じられかと言われれば……。」
苦笑混じりな言葉にまぁ当然だよねと思う。
「ですよね。ありがとうございました。」
ぺこっと頭を下げて店をあとにする。
オニキスは静かになっていた。
満足したのかもしれないと思い別の店もうろうろする。
やはり魔石の店は少ない。
全体で2、3軒って感じだ。
各店で売れ行きを聞いたがどこも閑古鳥が鳴いているようだ。理由も1軒目と同じ。
そしてどこの魔石も苦しそうに呻いていてそのままにしてられなくて何個かお迎えしてしまった。
力の話も当然したが苦笑いで返された。
それほど魔石というのは今は廃れてしまったものらしい。
行きよりも増えた荷物を抱えて帰路に着く。
「やっぱり魔石って難しいね。」
「お前たちが、思ってるだけ。」
オニキスが喋り出す。
「他の子たちは?」
「気絶してる。」
「気絶?!」
とんでもないワードに驚きが隠せない。
「それだけ、苦しい。」
「そうなんだ……。」
なんて返したらいいか分からなくて黙ってしまう。
「外ってどうやったら出られるの?」
苦しいや出たい、外が恋しいなど言う彼らへの疑問をぶつける。
「出してくれればいい。」
「いやそうするにはどうしたらいいの?ってこと!」
「形が違う。」
「形?」
ハート型とかにすればいいのか?
「それぞれ、本当の形がある。」
「へぇ……。私に教えてくれる?」
「…………。」
突然オニキスは黙り込んでしまった。
「おーい大丈夫?」
「何が目的なんだ。」
「え?」
「金儲け、か?」
怒りを含んだような悲しさのような声が響く。
確かに家を復興するためだけど……。
チラリとカバンの中を見る。
そこには今日買ったり貰ったりした魔道具が大量に入っている。
苦しんでいる魔石たちが。呻く声が思い出される。救ってあげたい。
そんな気持ちが芽生えた。
「もちろん家は復興したい。でも今日店をまわってこの子たちの声を聞いて思ったの。苦しんでるのは見たくない。助けたいって。」
少しの沈黙。ドキドキしながら待っているとやがて声が聞こえた。
「そうか。ならいいんだ。」
「うん。」
「教える。」
「え?何を?」
「私たちの本当の形、本当の姿。」
覚悟を決めたような声。
ごくり。
オニキスの真剣な声と覚悟を聞いてカバンがとても重く感じる。プレッシャーか後に引けなくなった後悔か。はたまた魔石たちが覚悟を決めたからか。
今日は眠れぬ夜になりそうだ。
お会いできて光栄です。
かなり間が空いてしまいました。
魔道具実際見たらすごい綺麗そうですよね。
魔石たちの出るとはなんなのかお楽しみに。
それではまた次の夜に。