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6.ずっと一緒にいる

うっすらと差し込む朝日がカーテン越しに床を照らしていた。

ソファで寝てしまっていた美波はふとした吐き気で目を覚ます。


「う……最悪…昨日はやらかした……」


頭を抱えながら何度も自分の醜態を思い出しては床をのたうち回る。

その様子を見下ろしていた航平が呆れたような声で口を開いた。


「酒はほどほどにしとけって今まで散々言ってきただろ…。もう俺も介抱してやれないんだからな。」


「うぅ…ごめん。あーーーー陽翔くんに会いたくないなぁ。色々見られたよね。」


「見られたな。俺に話しかけてたぞお前。きっと側から見たら虚空に向かって話す奴だったな。」


「…あー。無理。穴があったら入りたい。」


美波が顔を覆ったまま呻くと、航平がふと視線を逸らす。


「で…彼とはどういった仲で…?」


「えーーーあーーー。会社の後輩?」


そっかと安心したように呟く航平にもしかして嫉妬?と美波が尋ねると航平は大きなため息をついた。

え、怒った?ごめんね?ごめんね?と謝る美波に向かって航平は困ったように笑った。

そして朝の支度をしようと立ち上がった美波だったが、足がおぼつかなくふらっとし、尻もちをついてしまった。

いててと呻く美波を見て航平は苦しそうな表情を見せた。


「俺はさ…もうこの手でお前を支えることもできないんだ。」


「………え?」


「転びそうになったお前を支えることもできない。立つために手を貸すこともできない…。」


「どうしたの…航平…」


「そんな俺が美波の周りの他のとこに嫉妬してるなんて。どんだけ望めば気が済むんだろう俺は……死んだ俺といるより生きた他の男といるほうが絶対に美波は幸せなのにどうして行って欲しくないなんて思うんだろう……」


そう言った航平の声にはただ深い自己嫌悪の色が滲んでいた。

美波は何も言えなかった。ただ、胸の奥がずきりと痛む。


「私…航平とずっと一緒にいるよ……」


小さな声でそう呟く美波の声には少し迷いが混ざっていた。

航平は黙って自己嫌悪の表情が抜けきらないまま美波に微笑む。

その目には悲しみと孤独だけが映っていた。








「おはようございます今日も同じ電車ですね、美波さん」


「……おはよう」


電車は今日も混んでいた。

ぎゅうぎゅうに詰まった車内で2人は自然と近くにいた。


「昨日は大丈夫でしたか?」


「うん、大丈夫。送ってくれてありがとう」


「ならよかったです!………あの…」


少し顔を赤ながら何かを話そうとする陽翔になに?と美波が問いかける。


「今日一緒にお昼とか…どうですか…?」近くに新しいカフェが出来たらしくて…どうかなって…」


美波も気になっていた店だ。いつもなら喜んで一緒に行っていただろう。

だが…


「うーん。今日は…ちょっといいや…」


航平に言った言葉が頭を離れない。

ずっと一緒にいる。

航平も生きていた頃は美波とずっと一緒にいるよと言ってくれた。

だが航平はあっけなく死んでしまって…。

この言葉がどれほど人を安心させ、どれほど無責任で、どれほど弱い言葉なのか美波が一番知っていたのに。

気休めとしてこの言葉を使ってしまった自分に嫌気がさして、陽翔とカフェに行く気になんてなれなかった。


「じゃ、じゃあ先輩!昼じゃなくても!夜とかどうですか!」


「え?」


「ほ、ほら!最近寒くなってきたし、帰りに温かいスープでも飲みに行きましょうよ…」


「陽翔くん…」


美波は困ったように微笑んだ。


「じゃあ、明日の夜でいい?」


陽翔はパッと目を輝かせて嬉しそうに頷く。

じゃあどうしよう!スープもいいしパスタもいいし!と言い出した陽翔に美波はくすりと笑って窓の外を見た。


航平を想い罪悪感が胸を占めた。

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