表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

14.変化

夕方、オフィス内には定時を知らせるチャイムが微かに鳴り響いた。

書類を閉じて席を立つ社員たちのざわめきの中、美波は自分のデスクでまだぼんやりと画面を見つめていた。


「…ねぇ、美波」


隣に立った由香が、少し遠慮がちに声をかけてくる。

振り返ると、昼間とは違う穏やかな表情で、けれどどこか決意の滲んだ瞳をしていた。


「今日、…家に行ってもいい?」


一瞬言葉に詰まった美波だったが、すぐに小さく頷いた。


「うん。……いいよ」


由香はにっこり笑い、二人で荷物をまとめると、会社を後にした。



夜の街は穏やかだった。電車に揺られながらも、美波はずっと窓の外を見ていた。

由香は無理に話しかけようとせず、ただ静かに隣に座っていた。

そして、美波の最寄り駅に着き、二人で並んで歩いて家へと向かう。

玄関の鍵を開け、靴を脱いでリビングに入ったとき、家の中はしんと静まり返っていた。


「…あの、航平さんって…まだここに?」


由香がぽつりと尋ねる。

美波は少し間を置いてから、こくんと頷いた。


「いるよ。……奥の部屋に、ずっとこもってるけど」


由香は頷くと、鞄を静かにソファの上に置いた。


「……私、航平さんに伝えたいことがあるの。あの人がまだここにいるなら、話したい」


「……でも……」


美波は何かを言いかけたが、言葉にならなかった。

どうしても、心のどこかに引っかかっている。

航平に会うことすら、自分にはまだ許されないような気がして。


「私はリビングにいる。……今の私で航平に会うのは……ずるい気がするから。ごめん」


「ううん。……ありがとう」


由香は美波の肩にそっと手を置き、それからまっすぐに奥の部屋へと歩いていった。

ドアの前で小さく呼吸を整え、ノックもせずに静かにドアを開ける。

そこには、かつて由香もよく知る姿の航平が立っている気がした。

目に見えるわけではない。

ただそこにいるという確信が由香にはあった。


――未来の美波を、どうか、見守ってやって。


その部屋に、優しい声が静かに響く。

言葉の届くことを信じて、由香は静かに話し始めた。




リビングに残った美波は、ソファに座ったまま、ぎゅっと両手を握りしめていた。

胸の奥がざわついて、言いようのない痛みに締めつけられる。

しばらくして、奥の部屋のドアが再び開いた音がした。

美波が顔を上げると、ずっと姿を見せなかった航平が、ゆっくりとリビングに現れた。

その顔には、まだ言葉にしきれない想いが滲んでいた。


「……行きたいところがある」


ぽつりと航平が言った。

美波はゆっくりと立ち上がり、彼の横に並ぶ。

何かが、変わろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ