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12.朝になって

淡く差し込む朝日が、まだ覚めきらない意識を優しく揺さぶる。

重たい瞼の向こう側に見えたのは隣で眠る陽翔の姿だった。掛け布団が肩までずり落ちて逞しい筋肉質の肌が覗く。

美波は心臓を掴まれたかのような衝撃に襲われた。


ーやってしまった。


昨日の記憶は鮮明だった。

お酒に浮かされた心。

重なった唇。

許してはいけなかった肌の温もり。

陽翔にきていいよ。と言いながら両手を広げベッドへ招く自分。

絡めた指と指。

離さないでと言わんばかりに陽翔の腰を捕まえる足。

美波はもう一度隣を見た。


ー私、最低だ。


航平がいるのに。

まだこの家にいてくれているのに。

何度ももう一度会いたいと願い続けて、やっとその願いが叶ったのに。

だというのに陽翔のーーー彼の腕の中で夜を明かしてしまった。


そっと布団を抜け出し、足音を殺してリビングへ向かう。

冷たい床が罪を告げるように足裏から沁みてくる。

カーテン越しの窓の向こうから柔らかな朝日がぼんやりと差し込んでいた。

だが美波はそこに気配を感じて身体を凍らせた。

ベランダに1人。

航平が、いた。

まるで夜明けからそこに立ち続けていたかのようにぼんやりと。


「航平…?」


声が震えた。彼がどれだけの時間そこにたのか、美波にはわからなかった。

ただ、きっと気づいている。

美波が誰を長い夜を過ごしたのか。

航平は振り返らずに言った。


「ごめん。家に入る勇気がなくて。」


美波は必死で弁明の言葉を探した。

声を出そうとした。でも何もいうことはなかった。

全て事実なのだから。

今更何を言っても言い訳にしかならないことを自分が一番理解していた。


「ちがうの…あの…ねぇ、航平……ごめん…こっち向いてよ…」


「何が違うの?」


ゆっくりと微笑みながら航平は笑った。

その目には涙もなく怒りもなく、ただ深い深い絶望が浮かんでいた。

美波の横をそのまま通り過ぎていく。


「待って…話を…話をしようよ…航平!」


追い縋ろうと手を伸ばすも、航平に触れない美波に航平を止める術などなかった。

そのまま航平はあまり使われていない物置部屋と化した奥の部屋へと消えた。

美波も奥の部屋まで追いかけようとした。

そのときーーー


「おはようございます。美波さん。」


背後から声がかかった。

振り返ると陽翔が目をこすりながら立っていた。寝癖がついた髪。眠たげな目。その何気ない姿に美波はひどく傷ついた。

罪の対象が生身でそこに立っている。それがこんなにも穏やかで優しいなんてーーー


「おはよう陽翔くん…」


美波は喉の奥から絞り出すようにして返事をした。


「身体大丈夫ですか?」


心配そうに美波を気遣う陽翔にますます美波の心は苦しめられる。


ー私に優しくしないで…私には、そんな価値ないの…


何もかも夢だと言えたら。

でも、全ては起こってしまったことなのだ。

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