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第六章 大ピンチ! タップアウトは通じない!

「何やってんのキタガワっ! 後ろっ!」


 マネージがそう叫んだ時だった。


「てめええええええええっ!」


 ガスウッ!

 激怒したジョーの太い足が──勝ち誇り油断していたキタガワの腹を思い切りとらえる!


「ぐっ……ゲボァっ!」


 胃に加わる強烈な一撃──いかに不思議な力で強化されているキタガワの身体でも、三メートルを超える巨人の渾身の蹴りを無防備な腹に食らっては──胃液を吐き散らしながら吹き飛ぶしかなかった。


「キタガワああああああっ! どうしてっ!」


 マネージが叫び、キタガワから聞いていた彼女の世界の格闘ルールにハッと気づく。


「まさか……オーガが降参したと思って……」

「グフフ、痛ぇ痛ぇ」


 極められていたほうの腕をさすりながら、ジョーがぐったりと倒れたキタガワに歩み寄り──そして。


「よくもやってくれたなぁ、人間よぉ」

「き……さま……」


 キタガワが苦しそうに言う。


「降参したんじゃなかったのか……」

「は? このバトルハブアリーナにそんなルールはねぇよ。やるか、やられるだぜ」

「……しまった……クソっ!」


 相手がタップアウトしたと思い込んだキタガワはその手を緩めたことを後悔する。だが──

 ガシッ!


「ぐっ……」


 キタガワの頭を掴み、その二メートルの体を腕一本で軽々と持ち上げたジョーがニヤりと笑って言う。


「さあ、お楽しみだな。たっぷり嬲ってやるぜ」

「くっ……身体……が……動かないっ……」

「そうだろうそうだろうよ。俺の一撃を食らって全身の骨が砕けたろうしな!」


 ジョーの言う通りだった。キタガワの手足は痺れたようになり全く言うことを効かず、指一本動かせないでいたのだ。


「さぁて」


 ジョーが下卑た笑みを浮かべ──そして突如として顔をあらぬ方向に向ける。


「さてここからはお楽しみタイムだ! これから始まる特別なショーが見てぇやつは、プレミア会員に入ってくれ! 入り方は動画サイトに書いてあるからな! んで……その先のお楽しみは特別価格だから、そっちもな!」


「は、はぁ!?」


 マネージが思わずバトルハブアリーナの配信サイトを見る。そこに写っていたのは、ちょうど〈カメラ目線〉になっているジョー、そして表示されたポップアップで──


R十八プレミアタイムH 一万YEN

今まさに戦っていた女戦士のあられもない姿をナマ中継!


「え、ちょ……まさか……この配信って……」


 マネージが気づく。この配信は戦いを配信するのではなく──

R十八プレミアタイムG 五万YEN


「今まで戦っていた女戦士の……血や……肉が……き、キタガワあああああっ!」


 マネージが声の限り叫ぶ。


「立って! 立ち上がって! そ、そのままじゃ! 大変なことにっ!」


 だが──壁に叩きつけられた衝撃で装飾の頭の角と尻尾が取れ、全身傷だらけになっているキタガワに、その声は届かない。


続く

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