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第四章 強敵! ジャイアント・ジョー! 

「うーん、しかし……」


バトルハブ・アリーナの控え室──マネージが呆れた顔をして、キタガワのほうを見る。


「本当にいいのかい、そんな格好で……」

「ん?」


 キタガワが事もなげ、といった表情でマネージのほうを見て言う。


「これかい? 契約に書いてあったことに従っているだけさ」

「とは言ってもねぇ……」


 マネージが目の前にしているキタガワの格好は──いつもの「龍の化身」をアピールする装飾用の角、顔の紋章のような赤いメイク、そして両手足の装飾とイミテーションの尻尾はそのままだったが──身体は今にも大事なところが見えそうな、派手で赤く面積の小さいビキニ水着を着用していたのである。


「なんというか、表沙汰にできない理由がわかるね、と」

「まあこの程度、一千万YENに比べたらなんてことはないさ。マジッチで全国に流れるわけでもないし。それに……」


 キタガワがニヤリと笑う。


「いつもと違うのはこの程度の条件、というのは楽なもんだろ」

「そうだね。確かに……」


 マネージが控室に置かれた小さな机の上に紙の束を取り出す。それは──色々なところに付箋やペンでのチェックが入った契約書である。


「何度見ても怪しいところは特にない。〈衣装は当方が用意したものを着用すること〉とはあるけど、他にこちらを陥れるようなところはないね」


「ああ、なら」


 バシィッ!

 キタガワが握りしめた右拳と、開いた左の掌を乾いた音を立てて打ち付ける。


「あとは戦って、そして勝てばいいことさ! じゃあ、行ってくるよ!」


 控室のドアを開け、キタガワは左のアリーナのほうへ──そしてマネージは右側の特別招待席のほうに別れていく。


「……気をつけてね」

「もちろんさ!」


 不安げなマネージに向けて、キタガワが親指を立てて返した。


「ピイーッ……」


 だが、二人は気づいていなかった。いや、正確に言うと、マネージには〈見えていなかった〉。弱々しく発光する白い物体が、ゆっくりとキタガワのあとをつけるように、ふわふわと浮いていたのを。



 ワー──ワー──

 フィラファの地下にあるバトルハブ・アリーナは、二百人の客が入れば埋まってしまうような小さな建物である。だが、そこに集まった──ほとんどが裕福な格好をした男たちの歓声は、熱気のある空間を生み出していた。


「おまたせしました、第三試合の〈処理〉が終了いたしましたので! それはいよいよ本日のメインイベント! アルティメット・バーリトゥードマッチをはじめます!」


 ワー──

 待ってたぞー──

 早くやれー──!

 観客の声援が一際盛り上がる。


 ガシャン。

 アリーナの一方の赤い柵が空き、そこから──


「赤コーナー! 身長二メートル! 体重二百二十パウンド! 龍の化身! 最強女戦士! ドラゴネスー! キターガワー!」

「しゃああああっ!」


 気合とともに、キタガワが飛び出してくる。


 ウオー強そうだー!

 色っぺえぜー!

 脱げぇー!


「ははは、簡単にはいいところは見せないよっ!」


 キタガワが、この手の客への対応は得たものと言わんばかりに大きな百二十センチのバストに手をあて笑顔でそれをブルブルと震わすと、男たちのボルテージがさらに上がる。


「ひやぁ……すごいなあ……」


 特別招待席でその様子を見ていたマネージが、キタガワのサービスと──そして観客の熱気に驚いたような声をあげる。


「さすがキタガワだな。こんな場でも余裕綽々だ……」


 だが。


(……えらく血のニオイがするね。こりゃ……タダじゃ済まないみたいだね)


 笑顔でアピールしながら、キタガワは直前の清掃だけでは消しきれない血の痕、そしてニオイを感じ取っていたのである。


 ガシャン。


「続きまして青コーナー!」


 キタガワの対角にあるほうの青い柵が音を立てて開き、そこから出てきたのは──


「グオオオオオオオオッ!!」


 空気を揺らすような咆哮、血の色がそのまま肌に出ているような赤い体色、岩のようにゴツゴツとした肌、頭からは二本の角が生え、口には鋭い牙、そして──明らかに人間ではないほどに発達した全身の筋肉──それはまさに


「……鬼、だね」


 キタガワがぼそりとつぶやいた直後に、アリーナ内に声が響く。


「青コーナー! 身長三メートル二十センチ! 四百四十パウンド! バトルアリーナ通算成績十戦十勝!!〈最強のオーガ〉ジャイアント・ジョー!」


「オオオオオオオオオッ!」


 ドコドコドコ!!

 咆哮とともに分厚い胸板を両手で叩くパフォーマンスに──

 いいぞー!

 やれやれー!

 女をぶっ殺せー!


 観客たちが待ってました、とばかりに声援を飛ばす。そして──


 カン!


 二人が出揃ったところで、すぐにゴングの音が会場に響き渡った。


続く

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