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〝ヴィーレ〟の理由

「……とにかく、この場所を離れようか。こんな狭い範囲にこんなに屍獣が出たってことは他にも出るかもしれないし、できるだけ早く離れたほうがいい」

「そうですね。こちらも終わりましたので、行きましょう」

「さっきから何してたの?」


 グレアとの問答が一区切りついたと判断したヴィーレは、少し前から亡くなった男の体を探っていた。何のためにそんなことをしていたのか理解できなかったグレアは、先ほどまでは持っていなかった荷物を持っているヴィーレへと問いかけた。


「遺品の回収を。屍獣と戦って亡くなった者も、あるべきところへ帰らなければなりませんから」

「……そっか」


 そうして二人は屍獣やそれ以外の獣などに警戒をしながらも、無事に森を抜けることに成功した。


「ふう。やっと街道まで出てこれた」


 これまでできる限り敵に見つからないようにと一言もしゃべらずに行動していたため、最低限の安全が確保できる場所まで来れたことで安堵から大きく息を吐き出した。


「近くに気配はないので、今のところは安心でしょう」

「前回このあたりに浄化部隊が来たのが一ヶ月くらい前だったはずだから、本来ならまだ屍獣が湧く時期じゃないはずなんだけど……」


 そう言って悩み始めたグレアだったが、すぐに答えが出るものでもないと判断し、首を振って思考を切り替えた。


「なんにしても、無事に終えることができてよかったよ」


 屍獣という敵に襲われはしたものの、目的としていた鉱物を確保することもできたので結果としては上々だろう。

 グレアは満足げな様子で帰路へとついた。


「でもヴィーレ。あの時はなんで急に走り出したの? いや、急がないとまずい状況だったっていうのはわかるけど、ヴィーレはその……もう少し慎重に動く性格だと思ってたからさ」


 街道を歩き、街へと戻る途中で、グレアは気になったことを聞いてみることにした。


「……私にもわかりません。ただ、あの時はそうしなければならないと……いえ、それすらも考えるまでもなく動き出していました。申し訳ありません」


 だが、あの行動はヴィーレとしても想定外の事。自身が考えてそう動いたのではなく、本人が言ったように体が勝手に動いていたのだ。

 もしかしたらそれは、ヴィーレの意思ではなく体に宿っている魂の――〝ヴィーレ・ラルカ〟の意思、あるいは執念とも呼べる願いの表れなのかもしれない。


 だがそんなことに考え至ることのないヴィーレは、ただ自分の勝手な行動を謝罪するしかなかった。


「な、なんで謝るのさ。別に怒ってるわけじゃないよ」

「ですが、勝手な行動をして迷惑をかけたことは事実ですので」


 確かに突然の行動で驚いたし、迷いもした。だがグレアとしては、誰かを助けるために自然と行動することができた性質は、とても好ましいものに思えた。

 もちろんそれも聖女としての能力があるという前提があってこその行動だろうが、それでも動かない者もいることを考えると、やはりヴィーレの行動は好ましいと感じるものだった。


「迷惑なんかじゃないけど……なんていうかさ。やっぱり聖女、の妹なんだなって思ったよ」

「そうでしょうか?」

「そうだよ。だって、普通あの状況だったらすぐに動こうなんてしないでしょ。動けないで、少ししてから状況を理解して、それで……逃げるよ。少なくとも、僕だけだったら逃げてたよ」


 実際、ヴィーレが走り去った後もグレアは逃げようとした。正確には一瞬だけ逃げるという考えが過った程度ではあるが、それでもすぐに助けに行こうと思えなかったというのは事実だ。


「ですがグレア。あなたは逃げずについてきました」

「それは君が先に行ったからだよ。一人だったら、とてもヴィーレみたいに行動する勇気なんてないよ」

「それでもです。一人ではなかったとしても、あなたは危険を理解しながら走ったのです。ならば、勇気がないと言うべきではないでしょう」


 自分が不甲斐ないと感じているグレアに対し、ヴィーレはただただ感じた言葉を伝える。

 真っすぐ向けられた言葉に、グレアはゆっくりと顔を動かして隣を歩くヴィーレの横顔を見つめた。その横顔は嘘や誤魔化しなどなく、全てが真実を言っているのだとすんなりと理解できる程自然なものだった。

 そんなヴィーレの態度に、グレアは先ほどまでのやり取りを思い返すとどことなく恥ずかしさを感じて顔を赤くし、フイッと顔を逸らした。


「……ふう。帰ろうか」

「ええ」


 こうして、素材集めのために街の外に出た二人の冒険は終わることとなった。


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