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ロムスの目的

 ––––酒場[スターレリアの街]––––


「封印されしキューティクマさんって、知ってるか?」


 やることがないのでロムスを連れて三人で酒場に行くことにした。そして昼から飲んだ。その場で、隣に座ったロムスがそんな話題を振った。


「初めて聞いた」

「今作った話か?」


 向かいのソフィーがカシスオレンジ片手に茶化す。


「いや、絶対に真剣だ。……ほら、この前大きな地震があっただろ? そのときに、俺の住む村の道具屋に飾られてたキューティクマさん、っていう名前のぬいぐるみが、バラバラになって色んなところに飛び散ったんだよ。……それを俺は封印されしキューティクマさんと呼んでいる」

「ならお前の作った話じゃないか」

「てへぺろ」

「ロムスはそのぬいぐるみパーツを集めてるの?」

「ああ、そうだ」


 ロムスはジョッキに入ったビールを飲み干す。


「もう本体、右腕、左足は回収し終わっている。後は左腕と右足だけだ」

「それがこのスターレリアに?」

「いや、厳密(げんみつ)には近くの森の奥にある。俺の(かん)がそういってんだ」


 近くの森か……。この前、ソフィーと薬草を取りに行ったカンポーの森。あんな狭いところに、人形の破片が。


「ちなみに森にあるのは左腕だけでな。右足は、どうやらスターレリアの隣町にあるらしくて……」

「ドロータの町か?」


 ソフィーが彼の話に割り込む。


「おお! そうだ! よく知ってんな。そこに右足があるらしいんだよ。それも俺の勘」

「ちょうどいいな、それは。––––ほら、イヅル。この前言っただろう。良い飲み屋が隣町にあると。まさにそれがドロータの町だ。それに私は人間を進化させる魔の施設の謎もまだ解明できていない。ちょうどいい機会だ。キューティクマさんを探しつつ、隣町に行こうじゃないか」

「手伝ってくれるのか!?」

「私は賛成だ。……イヅルが良いといえばだが」

「おいおい、そんなの……」

 

 最高だ。冒険だ。出会った人間が探しものがあると言っている。それを仲間が手伝おうと言っている。行った先には謎も潜んでいる可能性がある。こういうの、こういうのだよ! 僕が求めていた冒険!


 僕は、残っていたビールを一気に飲み干して、立ち上がった。


「いいに決まってる! だって僕らは冒険者じゃないか! 封印されしキューティクマさん、絶対に探しだすぞー! いざ、波乱万丈(はらんばんじょう)の旅へ! ボン・ボヤージュ!!」

「……。イヅル、もう酔ってる? おたくのパーティリーダーはいつもこんなんなのか?」

「いや、珍しいな。周りも見ているのでやめてほしい」


 キメ台詞(ぜりふ)くらい言ったっていいじゃんか……。


     ◆


「ところで、ロムスは特技生成師(クリエイター)だと言ったが」


 ソフィーの2杯目に入っていた。


「それはどんなものなんだ? 実は私、まだまともなスキルを持っていない」


 それはアイテム合成書通りつくらねーからだろ! とツッコむ気持ちを一生懸命(いっしょうけんめい)こらえる。


「元あるスキルの説明文を書き換えるんだ。そもそも、スキルというのは”論理”で成り立っているからな」

「それは意外だ。私は経験値獲得による脳内シナプス結合の変化がスキルを産み出していると考えていた」

「ちげえんだよなあ、それが。スキルっているのは職業という規範にしたがったある種の法であって、で法ということは意味の持った単語の組み合わせで記述されているから……」


 また難しい話をする。僕は完全に蚊帳(かや)の外だった。別に、スキルそれ自体は山のように持っているからいいけど。でも会話には参加したい。


「なあなあ」


 2人の顔がこちらに向く。無視されないのは安心した。


「……2人はさ、そういった難しいことをどこで知るの?」


 これを聞くのは恥ずかしいことじゃない。こうやって、お互いに成長していきたい。そういうパーティでありたい。ただ、残念なことに2人ともそれに対する良い答えを持っていないようだった。


「なんとなく……かなあ俺は」

「私も、気づけばこんな人間になっていた。何か義務(ぎむ)(もと)づいて学んだ記憶はないな」

「人間、得意なことが1個くらいあるもんさ! 俺とソフィーだって、いま話全然()み合ってなかったし! ノリで生きようぜ! 人生、ノリと論理(ロジック)が大事なの!」

「その2個を並列させるのレアキャラすぎるでしょ……」

「イヅルは何か得意なことねーの?」

「そうだな……」


 元の世界にいた頃を思い出す。まあ、話し相手に応じてキャラを変えるのとかは得意だった。そのくせ就活は失敗したけど、それは夢を追い続けたのもあるかもしれないから……。


「特に、ない……」


 キャラを切り替えることの説明は難しいのであえて言わなかった。当然チートのことも言わない。


「ウソつけ〜! 大体なんでもできるやつってゆーのはそーやって謙遜すんだよ!」


 ロムスはなかなか気持ち良いことを言ってくれる。こいつ、良いやつだな。


     ◆


 ––––宿屋[スターレリアの街]––––


「イヅルはずっと2人パーティだったのか?」


 飲みを終えて、みな体が動かないので今日はクエストを受けないことにした。こんなのでいいのか僕の冒険生活。クエストを受けないので、早い時間から宿屋に入る。ソフィーだけ別部屋で、僕とロムスは同じ部屋。


「ああ。僕の初めてのパーティメンバーがソフィーで、今まで誰も抜けたことがない。ロムスが3人目かな」

「へえ〜」


 ロムスは、ソフィーのいる隣部屋の壁をチラ見してからこちらに言った。


「よくあんな変な奴と2人でいられたな……」


 ロムスも大概(たいがい)だとおもうけれどそれは黙っておく。


「言っとくが悪口じゃねえぞ! 喋ってみたらすげえ面白かったけど、さすがに急に捕えられたのはビビったし、あと、イヅルとは、なんとなく合わねえかな? って」

「相性が悪いと思ったことはないよ。ただ、会話が上手いこといかない」

「はは。だよな」


 ロムスは僕の肩をポンポンと叩く。


「まあ、俺がいる間は、俺が信頼できる相棒になってやるから、何でも頼れ!」


 やっぱり良いやつだ。オンカジにハマっていて法を重んじすぎていて訳の分からない職に手を染めている以外は、まともな奴かもしれない。


「イヅルは、何か夢とかあるの?」


 ベッドに体を委ねたロムスが急にそんな話題を振る。元からアツい奴なのか、()っているせいか。


「なんで?」

「さっきさ、得意なこと聞いたとき、難しい顔してたじゃんか」

「んん……」


 なかなか見透かされている。元の世界にいた頃の、……僕の夢。


「絵本……」

「ん?」

「絵本作家に、なりたかった」


 なんでなりたかったのだろう。あんまり覚えてない。幼少期から漠然(ばくぜん)(あこが)れていた。コンパクトにまとまった脚本(きゃくほん)(わず)かな絵と平易(へいい)な文章で、子供たちに興奮と教訓を与えるあの世界に夢を見てたんだ。そんな感じのはず。


「えー! めちゃくちゃカッコいいじゃねえか!」


 ロムスの反応はかなり好意的だった。


「俺! アニメとかゲームとかすげえ好き! 絵本は、より分かりやすく、そして広い範囲(はんい)(えが)かれた仮想体験だよな! そんなカッコいいものがあるならいえよ〜!」


 またロムスは肩を叩く。


 本当はそれ以外にも元の世界に大切にしていたものがもう1つあった。それとは、もっと早いうち、10歳の頃に分かれてしまったけど。この話をするには彼と打ち解けてなさすぎるし、何より空気が重くなる予感しかしない。


 そうやって黙ってたら、そのうちに会話が途切(とぎ)れてしまう。


「なんかしっぽりしてきたな。酒足りねえか。ソフィーも呼んでこの部屋で(あば)れる?」


 僕はそれにnoで答える。酒は足りてた。ソフィーも呼んで暴れるのはちょっと賛成だった。といっても遊びというよりまた変な議論(ぎろん)が始まりそう。


「あ、てか誰かと冒険することになったら絶対にやりたいことあったんだが!」


 ロムスはスマホを取り出す。画面に映し出されている()で大体を(さっ)してしまう。


「イヅルもオンカジやらね!?」

「え、まじ」

「やばいほど(もう)かるんだよガチで! ソフィーは控除(こうじょ)率がなんとかとか言って断りよった」

「ちなみに、ロムスはいくらくらい稼いだの……?」

「いや、稼ぐのはこれからで! 正直めっちゃ借金取りに追われてるんだが。……ふふ、そこは俺の戦闘能力の見せ所さ」


 彼が本当にいい人なのか分からなくなってきた。


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