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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編版】転生したら破滅確定の悪役貴族だったので、自分から冒険者になることにした。~かつて神童と呼ばれた少年は、不断の努力で最強になる~

作者: あざね

短編版です(*'▽')ノ

あとがき下のリンクに、連載版があります!





「思い出した……!!」

「ひゃう!? どうされたんですか、アクア様!?」



 俺は思わず声を張り上げた。

 すると傍らにいた給仕の少女が、驚いたようにその場で跳ねる。しかし今の自分にはそのようなこと、些事でしかなかった。何故なら俺の脳裏に浮かんだ景色は、現状の自分がいかに窮地に追い込まれているかを示していたのだから。


 不可思議なことではあるけど、間違いない。

 俺は以前に、このような状況を目にしたことがあった。それはそう、自分がこの世界に生まれてくるもっと前から。何を言っているのか自分でもこんがらがってくるが、どうやら俺は『転生』したようだった。大人気スマホアプリ――【アンリミテッド:ワールド】の世界に。


「な、なぁ……ミリア。変なことを訊くけど、俺の名前は?」

「お名前、ですか?」

「……あ、あぁ」


 ミリアという給仕の少女は、困惑したように俺の名前を口にした。



「貴方は、アクア様。……アクア・リュクセンブルク様、です」――と。





 アクア・リュクセンブルクは【アンリミテッド:ワールド】に登場する悪役貴族だ。容姿端麗で天賦の才に愛されながらも、小悪党で最低な性格をしており、物語では最序盤に退場する。その後の消息は不明ではあるが、アプリで配信されている内容からして重要ではなかった。

 つまり俺は、アクアに転生した時点で破滅確定ということ。

 転生前の記憶を取り戻したいま、どうにかできるか必死に考えてみたのだけど……。


「……無理だ。裁かれるだけの罪状が、揃いすぎてる」


 要人の暗殺依頼に、公文書の偽造そして隠蔽。

 目的は相変わらず不明なままだったが、アクアはこの後に主人公たちの活躍によって表舞台を去ることになっていた。いわゆるチュートリアルの敵役、というわけだ。

 そして、そのタイムリミットは刻一刻と迫っている。


「今日の夕方に、主人公たちは国王陛下に謁見する。そこで俺ことアクアの罪を全部ぶちまける、という流れだったはずだけど……」


 いまが正午過ぎだから、六時間ほどしかなかった。

 この短い間にすべてをひっくり返すのは、さすがに厳しいだろう。いくつかを隠蔽できたとしても、火に油を注ぐ結果にならないとも言い切れなかった。何をするにしても、時すでに遅し。形勢逆転の目は少なくとも、手元にない。


 そう、手元には――。


「……待てよ。別に、手元にある武器で戦う必要はないんじゃないか?」


 俺はそこまで考えてから、一つの結論に至った。

 そう、手元にある汚れた手段で戦う必要なんて一つもないのだ。

 つまるところ、盤面にある駒だけで戦わなくてもいい。それはもういっそのこと、土台からひっくり返しても構わないのではないだろうか。



「………………だったら、そうだな」



 ゆっくりと、歩き始める。

 行く先はもちろん、国王陛下のもとだった。





 ――同日夕刻、謁見の間。



「アクア・リュクセンブルクが、自ら野に下った……?」

「あぁ、その通りだ。己の罪をすべて吐き出してから、な」



 そこには、武装して乗り込んできた主人公一行と国王の姿。

 しかし物語の進行上、当然いるべきはずの貴族の姿はなかった。国王が難しい表情で語った通り、アクアは自分から罪を告白して貴族の地位を捨てたのである。

 困惑する主人公たちを見ながら、国王は静かに語った。



「しかし、これでお前たちの主張が正しかったと証明された。いささか消化不良ではあるが、裁くべき相手がこの場にいない以上は追及できまい」

「そ、それはそうですが……!」



 不服を申し立てようとする主人公に、国王は諭すように続ける。



「落ち着け。もちろん、お前たちの手柄は申し分ない。したがって――」



 そうして、物語は軌道修正されていった。

 誰もが知る展開に。しかし――。




「こんなの、ダメです……!」




 遠く離れた場所で、小さくそう口にした少女がいたこと。

 それを知る者は当然ながら、誰もいなかった。


 



「しかし、平民になったのは良いけど何すればいいんだ?」



 俺はボンヤリと王都の街を歩きながら、そんなことを独り言ちる。

 国王陛下に地位の返上を申し出て、丸一日が経過した。とりあえず必要な衣類などをまとめて、屋敷を出たのが昨日の夕方。適当に宿を見つけて部屋を確保したのは良いが、今後の方針というのがまるでなかった。とりあえず持ってきた資金で、一ヶ月は食うに困ることもないだろう。


「でも、問題はそこから先……だよな」


 しかし裏を返せば、一ヶ月しか猶予がないということだった。

 そこまでに仕事を見つけなければ、完全に路頭に迷ってしまうことになる。だけども元貴族の自分が気安く働ける場所など、あるのだろうか。

 それに転生前――西園拓斗であった頃は、平々凡々な営業マンだった。

 飛び込みにこそ無駄に慣れているが、それだけでしかない。


「異世界で営業職なんて、イメージが湧かないよな」


 ……そもそも、あるのか?

 そんなことを考えていたら、日が昇っていたのが昨日のハイライト。とにもかくにも、右も左も分からないのでは仕方がない。そう考えて街に繰り出したまでは良かったのだが、結果はわざわざ述べる必要性も感じられなかった。

 そんなこんなで、俺はいま中央広場の噴水前の長椅子に腰かけている。

 空は雲一つもない快晴で、人の往来も活発だった。


「手当たり次第に声をかけても、成功するなんて思えないしな。そうなってくると、いよいよ何もなくなってくるわけだけど……ん?」


 そう思って頭を悩ませていると、不意にこんな会話が耳に届く。



「さて、今日もクエスト頑張るぞ!」

「夜になったら酒場で宴会よ!」

「賛成!!」



 それは武器を手にして快活に笑う一団だった。

 彼らの姿を見送って、俺は少しだけ考える。



「なるほど、冒険者……か」



 ――冒険者。

 ダンジョンで魔物を倒すなど、依頼をこなすことを生業とする人々。

 常に自由であることを理想として掲げ、完全な実力主義の世界であることも知られていた。この【アンリミテッド:ワールド】の世界でも、それは例に漏れず。冒険者たちと協力する展開も用意されていたり、そこから騎士団に入る者もいたはずだった。


「そういえば、たしかアクアは才能だけは人一倍、だったよな」


 そこでふと、俺は自分が転生したアクアの設定を思い出す。

 彼は幼い頃から『神童』と呼ばれ、事実その才能は作中随一だった。もっとも『才能だけ』しかなく、努力というものを嫌っていたが。ただし少なくとも、現時点で並の人々よりも戦闘技能には秀でているはずだった。

 それならば、あるいは――。



「試してみる価値はあり、か」



 俺はそう結論付けて、立ち上がる。

 そして、真っすぐにある場所へと向かうのだった。





「……ここがダンジョン、か。気味が悪いな」



 たどり着いたのは、王都の程近くにあるダンジョン。

 上層は比較的誰でも苦にすることはないが、当然ながら下層へ行くほどに魔物のランクは上昇していく。それというのも、魔素という特別な物質やら何やらが関係しているとか。とにかく下層の魔物は上層の魔素では生存できない、とのことだった。


 俺は先遣隊が設置した魔法の松明を頼りに、奥へと進んでいく。

 現在地がどのくらいなのか。それは分からないけれど、まだそこまで深くは潜っていないはずだった。



「うーん……なかなか、魔物に遭遇しないな」



 そして、運が良いのか悪いのか。

 息巻いて突入したまでは良しとしても、小一時間ほど魔物とは遭遇していない。それが異変なのか、そういったものなのか、というのも分からないままだ。

 しかし今さら、何の成果もなしに道を戻るのも勿体ない気がしてしまう。


「元貴族とも思えない貧乏性だけど、こればかりは仕方ないよな」


 何故なら、中身は正真正銘の小市民なので。

 などと考えているうちに、俺は少しばかり開けたドーム状の空間に到達していた。どうやら先遣隊の松明もここで途切れているので、現状での最下層に到達したらしい。

 魔物にちっとも遭遇しなかったのは、おそらく彼らが先んじて倒したからだろう。



「なんだよ。……骨折り損のくたびれ儲け、ってか」



 だったら本当に、そういうことになる。

 俺はしばし考えてから、ゆっくりと後ろを振り返って――。



「…………ん?」



 来た道を戻ろうとした。

 その時だ。



「お……おお、おおおおおお!?」



 地響きが鳴り渡り、背後から凄まじい叫び声が聞こえたのは。

 言うまでもなく、人間のそれではない。ちょっとした興奮を胸にまた振り返ると、声の主の正体がすぐに分かった。それというのも――。



「うおおおおお! すげええええええええ!!」



 ――あまりにも、巨大なドラゴンだった。

 いったいどこから出現したのかというのは、とりあえず端に置いておこう。とにもかくにも、いま俺の目の前には大きな眼でこちらを睨め付ける竜が存在していた。

 裂けるような口の端からは、常に炎が零れている。

 ドーム状の空間をいっぱいに飛び回るそれは、幾度となくこちらを威嚇していた。



「どうする。……逃げるか?」



 その威圧感に、その可能性が脳裏をよぎる。

 しかしすぐに首を左右に振って、俺は自然と口角を上げていた。そして、



「いいや。こんなチャンス、滅多にないって……!」



 武器屋で調達してきた新品の剣を構える。

 このような経験、転生前はしようがなかった。それなら――。




「楽しまなきゃ、損だろ!!」




 そう考えて、俺は駆け出すのだった。


 




『ねぇ、拓斗! このアプリ知ってる!?』

『なんだよ、茜。朝からそんなに興奮して……』



 それはまだ、俺が大学生だった頃のこと。

 幼馴染みの女子が一人、気怠い一限目の教室内に響き渡る声量で俺の名を呼んだ。彼女は昔からオタク気質であり、事あるごとに昔なじみの自分にハマっているゲームの話をしていた。その時もそんな感じで、彼女は意気揚々とスマホアプリの画面を提示する。

 俺は眉をひそめつつ、それを見た。


『これね、最近サービス開始したゲームなんだ! 【アンリミテッド:ワールド】っていうんだけど、キャラも曲も良いからインストールして一緒に遊ぼうよ!!』

『がーっ!? 耳元で騒ぐなって! 分かったから!!』

『えへへっ!』


 幼馴染み――茜は俺の反応を楽しむように、ニコニコと笑う。

 これは自分だから理解できるのだが、この小動物のような表情に異性を意識した気持ちは一切ない。この女の中にある考えはただ一つ、自分の同類を増やせたことへの歓喜だった。

 それは重々承知しているが、いまいち無視できないのは俺の甘さだろう。

 また幼馴染みという名の腐れ縁というものに、それとなく心地よさを抱いていたのもあった。そうでなければ、生まれて今まで二十年も一緒にいない。


『……それで? 今回はいったい、どのキャラが推しなのさ』

『お、流石は拓斗氏。アタシの思考はしっかり理解している模様』

『ニヤニヤしてないで答えろっての。せっかくプレゼンの機会をやってるのに……』


 こんな軽口も、きっと大学を卒業すればなくなってしまうだろう。

 互いに社会人になって毎日が忙しくなり、会話する機会もなくなっていく。そのうちに連絡も取らなくなって、気付けば噂程度に結婚の報告を母親から……とか。


『アタシはやっぱり、アクア様かなぁ! 性格はアレだけど、やっぱ顔よ!!』

『……お前、ホントに変な男に引っかかりそうだな』


 ――前言撤回。

 こいつが俺より先に結婚とか、想像もできない。

 男のことを中身より、外見で判断しているうちは絶対に。


『えー、そうかな? アタシだって、相手の性格は考えてるよ』

『だったら、さっさとカレシの一人でも作れっての。顔は良いんだからさ』


 俺がアプリをインストールしながら言うと、茜は隣の席に腰かけながら笑った。

 そして、こちらの顔を覗き込みながら言うのだ。



『それは無理。だって――』



 本当に、悪戯っぽく笑いながら。



『アタシに男ができたら、拓斗が泣いちゃうでしょ?』――と。







「うおらあああああああああああああああああああ!!」



 ――俺は声を張り上げながら、巨大ドラゴンへと斬りかかる。

 分厚い鱗を叩いた剣は思い切り弾かれて、甲高い音色を奏でた。そこでいったん相手から距離を取って、刃こぼれがないかを確認する。どうやらまだ、無事のようではあった。

 しかしながら、肝心の剣がこれではままならない。

 俺はそう考えつつドラゴンのブレスを回避し、必死に策を巡らせた。


「えーっと、何だったか。茜がよく言ってたのは」


 その中で参考にしたのは、オタクな幼馴染みの早口な説明だ。

 彼女は適当にこのゲームをやっていた俺と違って、色々と攻略情報を集めていたはず。いまのように格上ないし、適正レベル以上の相手と対峙した時は――。


「あぁ、たしか……」


 そこまで記憶を手繰って、俺はようやく思い出した。

 たしか茜曰く、この手のゲームには必ず有利不利の属性があるとのこと。そして【火属性】に対して有効なのは、相場が決まっていた。

 俺は自身のキャラクターの名前が示す意味を思い浮かべ、ついつい笑ってしまう。

 そして、改めて握る柄に力を込めるのだ。


「ありがとな、茜……!」


 ずいぶん遠く離れてしまった幼馴染みに、感謝を口にする。

 その直後、俺の全身を包み込むようにして空中を水の塊が浮遊し始めた。


「たしか、これは【アクアストリーム】とかいったか?」


 巨大なドラゴンを相手にして、真っすぐに剣を構え直す。

 そして、それを振り上げると周囲の水の塊を纏い始めるのだ。俺は用語に詳しくないのだが、こういうのを【エンチャント】だとか何とかいうのだったか。

 そんな曖昧な知識で戦闘を行うこちらに、しかしドラゴンは脅威を感じたらしい。

 咆哮を上げながら、口内のブレスの勢いをいっそうに強めていた。だが、


「悪いけど、これで――」



 俺は自然と笑みを浮かべて、真っすぐに得物を振り下ろす――!



「終わりだあああああああああああああああああああああああああああ!!」



 天賦の才によって生み出された激流が、ドラゴンに向かって放たれた。

 直後のブレスを容易に掻き消したその勢いは、分厚い鱗に守られた魔物の肉体を貫く。あたかも水の刃であるかのような一撃は、ドラゴンの身体を穿ってみせた。

 断末魔の叫びを上げながら消失していく彼の竜を見送って、俺はゆっくりと胸を撫で下ろす。そして自分が成し遂げたことを確認して、小さく拳を握りしめるのだった。








「ふーん……あのドラゴンを単独討伐、か」



 ――そう口にしたのは、一人の少女だった。

 岩場の陰からアクアの戦闘を見守った彼女は、小さく笑みを浮かべて顎に手を触れる。そこにあったのは、彼に対する好奇に他ならなかった。

 そして、しばしの思考をした後にこう口にする。



「これは、面白い才能に出会ったね」――と。



 その言葉が意味するところは、いったい何なのか。

 いまはまだ、彼女しか知らない……。


 


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