プロローグ☆エルンスト
「ばあさんが腰を痛めて困っとる」
「そうですか……この塗り薬を1日3回塗ってあげてください」
ベルは作り置きの薬の棚から計量して小分けにすると、老人に手渡した。
「そのう、代金なんだが」
「あるとき払いでいいです。おばあちゃんにお大事にってお伝えください」
「おお。ありがとう」
老人が帰ると、卵屋のおばちゃんがカゴいっぱいの卵をもって訪ねてきた。
「蛇対策の仕掛け、きいてるよ。おかげでニワトリがいっぱい卵産んでくれる」
「そうですかそれはよかったです」
「お礼だよ。受け取って」
カゴごとたくさんの卵を置いていってくれる。
これで何日か食事が美味しく食べられるだろう。
ベルは手桶に水を汲んで、杓で表に水撒きを始めた。
あの雲は、もうすぐ雨を運んで来そうだ。水撒きの必要はないかな?
ビシャ。
「うわ」
「きゃあ、すいません!」
見ると、旅装の青年がずぶ濡れで立っている。背が高くて顔を見ようと見上げるが、フードをかぶっていて陰でよく見えない。
「あの、乾くまで中で休んで行かれませんか?」
「ああ、ありがとう」
陰から青い目がこちらを見た。きらりとひかる。嫌な感じはせず、むしろ、優しい温かいひかりだった。
「どちらに行かれるんですか?」
「錬金術師の爺さんを訪ねてきたんだが」
「あの、あの方は先日お亡くなりになってしまって」
「なんてこった」
「もう、100歳越えていらっしゃったし、無理がたたって」
「じゃあ、後継は?」
「あの、私、魔技師なんですけど、あの方によくしていただいていたので、形見に魔導書などの権利を引き継ぎました」
「魔技師。へえ」
フードをおろして、茶色の長髪をかきあげると、意外と整った顔立ちだった。
「その椅子に座ってください。温風機を当てますので」
「温風機?自作かい?」
「はい」
「器用なんだな」
「いえ」
ドザー。
大雨が外で降り始めた。
「やれやれ、助かったよ」
「よかったら数日滞在くださいね」
「なんで?」
「錬金術師の遺した本や研究が必要なんでしょう?ご案内します」
「そっか。それはありがたい。きみ、名前は?」
「ベルです。あなたは?」
「エルンスト」
「よろしくエルンスト」
「よろしくベル」
2人は握手して微笑んだ。