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TS魔法少女になった件について  作者: 廃棄工場長
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第三十一話 吸血鬼の最期/二度目の別れ

「――スノー……。申し訳ないが、さっきも言った通り私の一存では決められないんだ。だけど必ず話す……」

「そう……とりあえず分かったわ」

「――それで相談事は終■■たか?」



 私達の会話が終わったタイミングを見計らったのか、足音を立てながら、近づいてくる吸血鬼の怪人。



「貴方……大丈夫なの……その状態?」

「――いや、もう私も長くはない。元々損傷も多く、そして今回の連戦だ。流石に私はこれで破棄されるだろうな」



 そう話す吸血鬼の怪人の肉体は、ボロボロであった。『ネクロマンサー』の効果によって使役される怪人はほぼ全ては、体のどこかしら欠損している。その部分を補うために、泥のような魔力を用いられている。

 吸血鬼の怪人もその例外に漏れず、各部位に見られる損傷を補修されていたのだが、今夜の戦い――赤鬼の怪人と悪魔の怪人との連戦はよほど激しいものであったのだろう。

 泥のような魔力による復元が追いついていない。

 もう次の戦闘どころか、後数分も保たないレベルであろう。



 二度目となる自分の最期。それを気にした風もなく、その腕に抱えたクロを優しく地面に下ろす。

 既に顔面の半分を維持する余裕もないながらも、残った表情筋を使い、真剣な表情――であろうものを浮かべた。



「――これで終わりだからな。魔法に強制的に植え付けられた忠誠心であっても、忠臣であるとしよう。主のことは頼んだ」

「――もちろんよ。クロ――彼女にも色々とお世話になってるし、ファイの命の恩人でもあるから」

「――そうか。なら安心した」



 その言葉を最後に、吸血鬼の怪人は糸の切れた人形のように力尽きた。倒れ込むと同時に、体に混じっていた魔力も霧散していく。

 クロが活動する度に、かなりの頻度で召喚されていた吸血鬼の怪人。彼に対する印象は正直よいものではなく、仕える感情すらも魔法で作り出された偽りのものでしかない。

 けれど九尾の怪人と同様に、その心の有り様は人間と変わらないものであった。



「――じゃあね」



 小さく、別れの挨拶を告げる。

 クロを背負うと、ファイともう一人の少女の元へ向かう。

 彼女達が契約している妖精は極度の魔力消耗により、姿を実体化するのも困難だ。

 アイスマンによる防御魔法がかけてあるが、いち早く二人の元で、魔法庁からの職員が到着を待つとしよう。





「う……ここは?」



 視界に差し込む光が眩しく、目を細める。

 柔らかなベットの感触に、自分が今いる場所がどこであるのかに疑問を覚える。



 寝起き特有の重たい思考を働かせる。気を失う直前まで自分は何をしていたのか。



「えーと……うっ……!」



 頭痛が走る。右手で頭を押さえて、痛みに耐える。

 思い出されたのは、赤鬼の怪人や悪魔の怪人という今までにない強敵。

 そしてその怪人に良いようにやられて、まんまと魔法による洗脳を受けた自分。

 そして腹部を悪魔の怪人によって貫かれたファイの姿が――。



「お、お姉さんが……『私』のせいで――」



 慌てて両手で口を塞ぎ、吐き気を抑え込む。胃の中には何も入っておらず、苦い胃液の味が口に広がる。



 自己嫌悪で死にたくなる。ファイだけではない。まだ小学生程度のアンも、目の前で赤鬼の怪人で殺された。

 自分の力不足でしかない。怪人との戦闘を重ねて、強くなったと勘違いしていた。



 魔法『ネクロマンサー』によって使役できる怪人の力を、自分のものと混同していた。

 そもそもこの力も、クロから譲り受けたものだ。

 借り物の力で粋がっていたに過ぎない。



 クロと再会したことで、安定していた精神が崩れていく錯覚を感じる。

 何も考えたくない。このまま耳を塞いで、現実を直視したくない。



 そんな時呆然自失となっていた自分に、一人の少女の声が聞こえてきた。



「――クロちゃん! 目が覚めたんだね!?」



 声の方向に視線を向ける。その声の持ち主は、ファイ――と思われる少女であった。

 確信が持てないのは、その少女は至って普通の格好をしており、魔法少女が変身している際に発する認識阻害が働いていないからだ。



 しかし自分はこの少女がファイだと判断できる要素が一つだけ存在した。

 いつか見た夢――今なら理解できるがその夢はクロの記憶――で彼女が出てきていたことだ。



 ――ファイが生きていた。

 その事実に思考が埋め尽くされる。



「ど、どうしたの!? クロちゃん!? もしかして、まだどこか痛い所があるの!?」

「ううん……。良かった……良かった……」



 自分の口から出てくるのは、純粋な安堵の言葉。

 目から流れ出る涙は両手で拭っても、拭っても止まる様子は見られない。

 いつの間にか着替えさせられていた病院服に涙が溢れ落ち、染みが広がっていく。



 自分の反応を見たファイは、心配した面持ちで慌てた様子でオロオロしている。

 問題ないと告げたいのだが、上手いように喋ることができない。



「ああ……どうしたらいいんだろう!?」

「く、ははっ」

 


 ファイの慌てぶりがあまりにも可笑しく、嬉し涙はいつしか笑い声を孕んだものに変わっていく。



 過程はどうなったかは今はいい。ファイが生存している。その現実を噛み締めていたい。

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