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捨て猫の居候  作者: ひーやん
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捨て猫~俺の飼い猫になるpart2

 仁は昨日、親父から届いた手紙を読んだ時の事を思い出していた。


『息子へ


 お元気ですか? お父さんは今、南米にいる。詳しい国名はお前に言ったところで解らんだろうから省くが、』


 あの野郎……仁はそこまで読み上げた手紙に向かい呟いた。

 危うく破り捨てそうになったが、そこは律儀な性格が災いして、続きがあるようなので取り敢えず破り捨てる事はせず、続きを読んだ。


『天涯孤独となった親友の娘を家で預かるから、後は頼んだ!!』


 はああ!?


「今度は何とちくるってんだあの野郎は!!犬や猫を預かるのと訳が違うんだぞ!?」


 今この場にいない人物相手に、分かっていても声に出してキレるのもしょうがない事だろう。

 何せこの家に今現在住んでいるのは仁だけで、当の本人は世界をまたにかけて全快で遊びまくっているのだから…。

 だが真面目な仁は、はちゃめちゃな事を言う今更な親父の事よりも、手紙の中の幼子のことが気がかりになってしまう。

 まあ、そんな仁だから、父親も安心して任せられるとは本人は知る由もないのだが。


『いくつかは解らんが、よもや乳飲み子じゃあないだろうな…そしたら保育園の手続きをしなくちゃいけないだろう? 俺だって学校があるんだから…』


 どこかを見ているようで、その実どこも見ずに思考の彼方に行ってしまった仁を、希望は黙って見守った。

 山育ちの希望は世間様を知らない。 強面の男子高校生と幼女としか見えないちぐはぐな自分、そんな自分達が住宅街に突っ立っている事が、どれほど変かなんて判るはずも無かった。


 そこで『ハッ』っと自分がフリーズしていた事に気付き、仁は感情を現実に戻すと、神妙な顔をしてうつ向いていた希望を見た。

 一体自分はどの位そうしていたのだろう?

 少ない時間であっても希望には長く感じられたはずだ。 仁はうつ向いた希望の頭を少し乱暴に撫でると、今度はキョトンとする希望に優しく語りかけた…

 どんなに親父にはムカついても、子どもにあたって良いはずはない。

 とりあえず帰ってきたら親父の事は殴るとして、目の前いる子をどうにかしなければと、仁は見えない場所にいる親父の事は取り敢えず忘れる事にした。

 こんなに小さい子どもを一人で、しかもよく知りもしない他人に預ける何て、 きっと子の親も親父同様にろくでなしに違い無いのだから。

 ただ一人、こんな小さな子が母親の最後を看取る何て、何れ程の事だったか………仁は希望の気持ちを思うと心が強く痛んだ。


 顔に似合わず、子どもとお年寄り、動物には優しい仁だから。


「お前、飯は食ったのか?」


 聞き方がいまいちぶっきらぼうなおっさん見たいだったが、希望には仁の労りが何故だか良く伝わった。


「いえ……高峯さん家にたどり着く事しか頭になかったから、未だ…です」


 自分のご飯(そんなこと)は考えもしなかった。


「なら早く帰るぞ」


 仁は歩き出す。帰るぞ、の中に自分も含まれている事が、希望には唯々嬉しかった。

 生まれて初めて、母親以外の他人に受け入れて貰える、それがどんなに大切な事か、嬉しい事か、仁さん………貴方には解らないでしょう?

 この日から、刷り込みのように仁に希望がなついて行く事になろうとは…この時の仁には思いもしなかった。

 そんなこんなで一緒に暮らすことになったちぐはぐな二人だったのだが、元々強面で愛想が良くない為怖がられ泣かれる事が多いが、子供好きで面倒見が良い仁である。 幼い(実際には16歳だが…)希望の身の上に同情したのかも知れない。 だから…俺が面倒を見てやろうと考えたのかも知れない。

でも、そんなことは関係なかった。

 この時の感情が解るのはもう少し先になる事を仁はまだ知らなかった…。


「今日からお前の家になる高峯家に行くぞ!! ほら、荷物を貸しな…持ってやるから」


強面が崩れ優しく微笑みながら差し出された手が自分へのものだなんて想いも寄らなかった。

 少しの間状況の把握が出来ないでいた希望だが、状況を呑み込むと『パッあ』っと笑顔を見せた。


「!!…はい!…宜しくお願いします」

「言い返事だ」


先ほどから仁は自分がどんな顔をしているかなんて判らなかった。 そう、仁は自分でも気付いていないうちに笑顔で希望に答えていたから。

 希望から全ての荷物を受け取ると、といっても驚く程に少ないのだが、仁は歩き出した。

 無論、車道側に立ち嫌味なく歩幅を合わせる。この男、これが無意識だから手に負えない。

 だからなのか、面構えは(仁義通す方々)依りなのだが、影ではよく女性にモテた。

 まぁ、本人は気付いていないから、思っている相手は可哀想である。


「あの、私持てますよ。お迎えに来て頂いた上に荷物迄持って頂く訳には……」


 希望が恐縮しそう言うと、怖い顔からは想像出来ない程優しい歯を見せない笑顔で


「ガキがそんな事を気にするな」


 そう言って頭を優しく撫でてくれた。

 ギャップ萌え……それが好きな人には堪らないであろう、本当に仁は見た目と行動のギャップが激しかった。

 希望は、一発で仁に好感を持った事は言うまでもない。

 昔ながらの住宅街を二人で歩くと、お兄ちゃんと妹の様に見えてしまう、実際は年近い二人なのだから雰囲気が出ても良い物だが、そこは仁と希望だ。

 親子に見えないだけましだろう。

 この住宅街は、もう10年位前からその景色を変えていなかった。

 それは丁度、仁の母親が亡くなった当たりで、仁にとっては変わらないこの景色が嬉しくも、心が囚われている様にも見えた。

 この景色をまた誰かと歩くことになるなんて思わなかった。

 そんな事を仁は考えていた。

 まだ、小さいころは母親が手を引いてくれて、色々な話を聞かせてくれた物だ。

 今度は、自分が当時の自分と同じくらいの子供を連れて歩いている。 何とも運命めいてはいないだろうか。


「仁さん……どうかしましたか?」


 余程、考えすぎていたのだろう。希望は仁に問いかけた。少しの間だけだが、この子は聡い子で余計な事は話さない。こちらが黙っていてほしい事は察してくれている様な素振り冴え見えてくる。

 まあ、考えすぎだろうが。


「いや……懐かしいなと思ってさ」 

「懐かしい…ですか?」


 不思議そうに希望は問いかけた。 そんな希望を、改めてこの子を見ると、随分と整った顔をしている。

 自分はそんな事さえ気づかない程、目の前の子を見ようともしていなかったのか?いや、母親が死んでから必要最低限以外を見ないようにしていた、その自覚はあった。


「ああ、昔母親と一緒によく歩いていたのを思い出したんだ」

「お母さまと?」


 誰にも聞かれたくない、踏み込んで欲しくない場所ではあったけど、不思議とこの子には話させた。


「体の弱い人で、でも体調がいい日はよく遊びに連れ出してくれてた。  でも決まってその夜は具合が悪そうにしてたな。 俺に気付かせない様にしていたみたいだけど」

「優しい人だったんですね」


 小さいなりには似つかわしくない程、穏やかな表情を隣の子供はみせた。 きっと、小さいなりに苦労していたに違いない。そんな感覚を覚えた。

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