#6
気を取り直して、力は教壇に立ち、出席名簿を開いて点呼を取る。
「・・・・・・ウホン、これからホームルームと言いたいところだが、そこのバカチンのせいで時間が無くなった。早速一時間目の授業を始める」
力が教壇の下からダンボールを取り出す。
「今日は算数のおさらいをするぞ」
ダンボールの中からリンゴを二つ取り出す力。それを生徒の前に見せる。
「まずは引き算からだ。引き算は食べる事だ。二つのリンゴのうち一つを食べると・・・・・・」
力はリンゴを丸かじりして、良い音を立てながら食べている。生徒やモンチー達は唾を飲みながら、力の様子を凝視している。力がリンゴを一つ食べ終わる。
「この通り、リンゴは一つになる。これが引き算だ。そして次は足し算だ。足し算は・・・・・・」
力は再びダンボールからリンゴを一つ取り出す。
「おかわりする事だ」
力が真面目な顔で生徒達に取り出したリンゴを突き出す。モンチー達も真面目にノートに力の授業内容を書き写している。その間に力が黒板に足し算と引き算が合わさった問題を書く。
「じゃあ、この問題出来る奴、手を挙げろ」
力が問題を書き終わると生徒達の方に向き直す。その中で二人のモンチーが勢いよく手を挙げる。モヒカンとロン毛だ。
「センセー、オレ分かるよ!」
「は? お前絶対分かってねぇだろ!」
「んだコラ、やんのか!」
二人は手を挙げたまま睨み合う。
「喧嘩はやめんか。そんなに自信があるなら、モヒカン、ロン毛、お前ら前に出てやってみろ」
力がモヒカンとロン毛を指名し、二匹が黒板の前に立つ。問題は六引く三足す一だ。二匹は両手の指を折って、計算している。
「出来たぜ、センセー! 答えは三だ!」
「バッカじゃねぇの! 答えは二だよ!」
モヒカンとロン毛が自信有り気に答えを書く。力が二匹の答えをチラッと一瞥すると、
「どっちも違ぁぁぁぁぁぁう!」
と力が二匹の額に強烈なデコピンをする。吹き飛ばされて額を押さえるモヒカンとロン毛。
「デ、デコが砕けるぅぅううううう‼」
床で悶絶しながら転がる二匹を尻目に、力は先程のリンゴを使った説明をして答えを出す。
「・・・・・・それから一つおかわりして、答えは四だ。なんか質問あるか?」
力の呼びかけに手を挙げる生徒がいた。力がその生徒を指名する。
「力先生! 割り算を教えて下さい!」
「おぉ、お前は勉強熱心だな。良いだろう、教えてやろう」
力はダンボールからバナナを一本取り出す。
「割り算はな、こうやって・・・・・・」
ポキッとバナナを真っ二つに折って、片方を前に突き出してみせた。
「これが二分の一だ。二つ合わせたら、ホレ、元の一本だろう?」
力が折ったバナナの上にもう半分のバナナを乗せると、元のバナナの姿になる。それを見た生徒達が驚嘆の声をあげる。そんな中、先程とは別の生徒が手を挙げる。
「先生、掛け算も教えて下さい!」
力が手に持ったバナナとダンボールを交互に見つめる。
「うるさぁぁぁぁぁぁい‼ また今度な、今度‼」
良い例えが出てこなかったのか、力は大声を張り上げて誤魔化した。彼はチャイムが鳴る少し前に、ダンボールを持って教室を出て行った。