#2
突然崩れ落ちる瓦礫に警戒しながら、慎重に歩を進める。
街を歩いている途中、何匹か野生動物を見かけた。しかしどれも警戒しているのか、オランウータンの姿を見ると逃げてしまう。仲間になり得る動物はいないのか、そう感じていた時、犬と猿のけたたましい鳴き声がオランウータンの耳に入ってきた。オランウータンはただ事ではない、そう判断すると同時に、声の方向に駆けていった。
そして駆け付けた先には、一匹の野犬が二匹のニホンザルに今にも飛び掛かりそうな勢いで唸り、吠えていた。猿達はつがいのようで、オスの猿がメスの猿を庇うように、犬の前に立ち塞がっている。しかし、実力差が分かっているのか、猿の方は及び腰だ。
野犬が牙を剥き出し、猿に飛び掛かる。猿は恐怖で固く目を閉じる。
「キャインッ‼」
来るはずの痛みが来ない、代わりに犬の怯える声が聞こえる。そして頭を撫でるような優しい感触。猿は恐る恐る目を開けると、目の前には彼らに優しく微笑みを向けるオランウータン・・・・・・そして自分達に背を向けて尾を丸めて逃げる野犬の姿が映った。
それからオランウータンは再び歩き出した。今度は一頭ではなく、先程の猿達と一緒に三匹で歩いている。猿が途中何かの音に気付き、オランウータンの腕を引っ張る。オランウータンが目を閉じて耳を澄ます。風鳴りのようにも聞こえるが、何かの雄叫びにも聞こえる。
音の方向に注意深く進むと、横倒しになったビルの瓦礫が見えてきた。音もどんどん大きくなっていく。音の正体は声だった。助けを求める叫びだ。その叫びは積み重なった瓦礫の中から聞こえていた。
オランウータンと猿達が協力して、一つ一つ、瓦礫をどかしていく。助けを求める声の主はすぐそこだ。三匹は懸命に救助作業を続ける。遂に見えてきた。黒い剛毛に覆われた太い腕。
腕の主は外の空気を感じたのか、自分も藻掻き脱出を試みる。三匹が多くの瓦礫をどかしてくれていたお陰で、自分の上に乗る残骸を押しのけ、再び外の世界に出られた。瓦礫の中から出てきたのはシルバーバックのマウンテンゴリラだった。
ゴリラを助けた後、オランウータンは再び街を見渡す。人間が築いた文明が崩れ去ったこの景色を見て、オランウータンは無性に悲しい気持ちが沸き上がってきた。その気持ちは猿達やゴリラにも伝染する。
自分を助けてくれた三匹が悲しむ姿を見たゴリラも悲しくなり下を向く。すると瓦礫の中で何かが光った。薄汚れた黒いサングラスのフレームが光を反射していた。ゴリラはサングラスを手に取り、悲しみに暮れる三匹の前に立つ。
ゴリラはおもむろにサングラスをかけて外す、その行為を繰り返した。ゴリラはその何気ない行動で皆の気分を和ませようとしているのか、いないいないばぁの要領で付け外しをする度に変顔をしている。ニホンザルのつがいはゴリラの仕草と顔に笑わされ、腹を抱えて転がっていた。
絶望的な世界の中でも、こうした彼らの平和的な光景にオランウータンは和み、そして同時に救われた気がした。