第二話
コレは何かの間違いで間違いなかった
鏡に映る僕の顔と姿は、何処からどう見ても見たことも無い中年の禿げ親父だった
本当の僕は、口先にも格好良いとは言えないが、チビでちょっとぽっちゃりしたそれでも17歳の高校2年生だった筈、少なくとも今鏡の向こう側でしかめ面してる様なしょぼくれた年寄りでは無かった筈
コレは、考えられるとしたら、あの電車の事故で僕は一度死んで、魂が別の人間の身体に入って所謂「転生」したという事では無いだろうか?
「パパ、平気?」
心配そうに僕の顔を覗き込むのは、明らかに僕よりも年上の大人の女の人、この身体の本当の持ち主である東郷忠良さんの娘、らしい
「えっと、」
勿論、平気では無いが、この状況を何と説明すれば良いんだ?
実は僕は貴方のお父さんでは無いんです、
そんなの信じてもらえるわけもなく、事故による一時的な記憶の混乱、と言う事で既に医師のお墨付きで片がついているのだ
「聞くところ」によると、この身体の持ち主である東郷忠良さんも、通勤途中に誤って線路に落ちて電車に轢かれたらしい、運良く打撲だけで済んで奇跡的に一命を取り留めたものの数週間の間意識不明の寝たきりだったと言う事だった
それでは僕は、僕の身体は一体どうなったんだ?
今でも耳の残るブチブチと肉の引き裂かれるようなゾッとする音から察するに、とてもじゃないが生きて助かったとは考え難い、良くても取り返しのつかない人体損傷を負ってしまったに違いない
でもだからと言って、こんな禿頭のおじさんの身体に乗り移らなくても良かっただろうに、それまでしてこの世に戻ってくる必要があったとすれば、
それは幼馴染の東みどりに関係すると考えて間違い無いだろう
「パパ?平気?」
キョトン顔で心配そうに僕の顔を覗き込む「僕の娘」は、意外にもかなり容姿の整った美人さんだった