第十六話
自分でもどうしてあんな事が出来たのか理解できなかった
甲斐が打ち込んで来たパンチに対して、僕は掌を開いたままの敵意の見られない両腕を顔を庇う様に上げて、甲斐のジャブが右手の甲に当たってよろけた拍子に突っ込んで来た甲斐の喉元にたまたま僕の左手の指が当たった
と言う映像が駅の構内の監視カメラにはバッチリ記録されていた
つまりコレは不幸な事故で原因は甲斐の方に有ると判断された訳だが、ホームに転がって口から泡を噴きながらのたうち回る甲斐の姿を見て僕はとんでもない事をしでかしてしまったと真っ青になって恐怖した、幾ら甲斐が「僕」をホームから突き落とした張本人だとしてもだ
甲斐はみどりに付き添われて病院へと送られていき、
僕は駆け付けた警察官に警察に連行されて事情聴取を受ける事になった
案の定警察で一番もめたのは僕が加害者か被害者かと言う事よりも、
僕が記憶喪失だと言う件だった
〜〜〜
という訳で数時間の取り調べから解放された後、僕は悠里と小百合と三人で警察近くのベトナム料理屋で夕食を食べる事になった
「この揚げ春巻美味しいね、」
どうやらご機嫌な様子の悠里はベトナム料理が好きらしい
「それで、たっつぁん、何か思い出したの?」
「え?」
「何か思い出したからあの女の子に話しかけたんじゃ無かったの?」
どうやら小百合はただの美女キャラでは無かったらしい
「うん、」
僕は、悠里の顔をじっと見つめて、それから覚悟を決めて僕の覚えている限りの全ての事を、僕が「轟木哲也」だと言う事を悠里にも告白した
〜〜〜
「あの子は、僕の幼馴染の東みどりで間違いない、」
悠里はレモンソースの掛かった鳥の唐揚げを箸で摘んだまま呆然とする
「パパは、パパじゃ無いって事?」
「すみません、」
「じゃあ、本当のパパはどうなったの?」
「分かりません、」
「でも、さっき背の高い男の子を倒したのってパパの拳法だよね、」
「え?拳法?ですか??」
悠里の話によれば「東郷忠良」さんはもう30年以上武術を習っているらしい、と、言われてみれば確かにあの時、僕が甲斐の喉仏を潰した指先はまるで身体の中を通る一本のチューブ状の風船で一直線に足裏が踏み締める地面に直結されていて、
自分でもどうしてあんな事が出来たのか理解できなかったのだけれども、確かに僕には必殺の手応えが感じられたのだ
「つまり、たっつぁんの身体に染み付いた武術の技が無意識の内に出ちゃった、って事なのかな?」




