生徒会長と俺の朝
「おはようございます、生徒会長」
「ああ。おはよう」
我が校の生徒会長は女性で、眉目秀麗、学業優秀、人望もあり、生徒から絶大な支持を受けている。
そんな彼女の登校風景は、我が校の風物詩の一つだ。
輝かしい朝。清々しい陽の光の中を彼女は、かけられる挨拶に丁寧に応えながら歩いていく。
俺はそんな様子を忌々しく眺める。
不良崩れ。それが学校の全生徒からの俺へのイメージだった。
不良崩れというのは、完全な不良になりきる事もできない、俺へのぴったりの呼び方だ。完全な不良生徒であれば、ある種の層からの畏敬の念も得られるだろうが、不良崩れ。だれが、俺のあり方を肯定してくれるというのか。
あのすまし顔の生徒会長も、俺のことなど学校のイメージを悪くする、汚点くらいに考えていることだろう。
挨拶を返しながら、だんだんと近づいてくる彼女を、冷めた目で見ていた。
俺と目があう。
「おはよう」
彼女は俺の目を見て言った。
俺は一瞬驚くが、すぐに悟る。笑えるじゃないか。俺は不良崩れとも認識されてなかったわけだ。何の印象もない、ただ目があっただけの生徒にすぎないというわけか。
自嘲気味な笑いを浮かべなら通り過ぎていく、彼女を見送っていると彼女は、二三歩歩いたところで、立ち止まり首だけこちらへ向けると、
「おはよう」
念を押すように、そう俺へ言う。
俺は戸惑い、困惑して、
「あ、ああ!」
そう声を絞り出す。
その返事を聞くと、満足そうな表情を浮かべた彼女はまた挨拶の輪へと戻っていく。
その姿を俺は呆然と見送った。