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1-7

 イヴァンは私の指先を見つめたまま何も言わない。これはどうしたらいいんだろう。とりあえず誤解は解けたと思うのだけれど。


「イヴァン? あの……」

「……少々お待ち頂けますか」

「え?」


 言うが早いかイヴァンは私を残して部屋から出て行く。どこに行ってしまったのか、そう思っているうちにイヴァンが部屋に戻ってきた。アラン様とキールを連れて。


「イヴァン、だからどういうことだ」

「ですから、アイリ様が」

「そんなわけがないだろう」

「ですが」


 何か揉めている二人を尻目に、キースが私のそばへとやってくる。


「あの、お二人は……」

「ああ、お気になさらないでください」


 気にしなくていいと言われても……。と、いうかアラン様は王子なのにイヴァンはあんな態度でいいのだろうか。

 そんな私の疑問には当たり前のようにキースが答えてくれる。


「イヴァンはアラン様の乳兄弟なのです」

「そうなんですか?」

「はい。彼の母親はリネット様の侍女でしたので。私も含め、幼い頃からアラン様の友人として育ってきました」


 だから二人に対してはアラン様も柔らかい対応をしていたのか、とお城の前にいた兵士の人に対する態度と比べて思う。それに私のこともイヴァンだから信頼して話をしたのかもしれない。と、いうことは?


「もしかしてリリーも」

「ああ、リリーはイヴァンの妹ですね」

「そういうことですか」


 ふんふん、と話を聞いて納得している私とその隣に立つキースにアラン様はようやく視線を向けた。


「アイリ様、申し訳ございませんが少々確認させて頂きたいことがございまして」

「あ、魔法のことですよね」

「ええ。……イヴァンの言うことを疑うわけではありませんが……」


 動揺しているのだろうか、アラン様の言葉遣いが元に戻ってしまっている。突っ込むべきなのだろうか、一瞬そんな考えが頭を過ったけれどひとまずやめておく。


「えっと、さっき図書室に行きまして何冊か魔法の本を借りてきたんです。それで色々読んでいるうちに試したくなりまして」

「…………」

「そしたら、できちゃいました」

「はあ……」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔、というのはこういうのを言うのかもしれない。それほどアラン様はぽかんとした表情を浮かべていた。

 それにしてもこの世界では魔法は普通のことのようなのに私が使えたからって何か問題があったのだろうか。ああ、もしかしたら魔力値が測定不能だったのに使えたから不思議がられているのかもしれない。


「クリス様の魔導師、でしたっけ。が、測った魔力値何か間違いでもあったんですかね……?」

「間違い……鑑定に間違いなど……いや、でも」


 アラン様がキースを見る。キースは頷くと、私に手のひらを向けた。


「失礼致します。――鑑定」


 キースの手のひらから光が溢れだし、私の身体を包む。しばらくすると、キースは小さく首を振った。


「ダメです、私の力でも測ることはできません」

「つまり、お前以上ということか」

「そうなりますね」

「あの……? どういうことですか?」


 話しについていけないのは私一人のようで。いつの間にかイヴァンまで私の方を見て眉間に皺を寄せていた。いったい私の魔力値がなんだっていうのだろう。


「……そもそも測定不能という時点で不審に思うべきだった。本来、魔力がなければ0と表示されるはずだ。だがアイリ様は異世界から召喚されたこともあり魔力という概念が存在しないのかと思っていたが、これは……」

「ちなみに、アイリ様がお使いになられた魔法をもう一度見せて頂くことは可能でしょうか」

「あ、はい」


 私の質問には答えることなく、というか答える余裕もない雰囲気で話を進める二人に頷くことしかできなかった。


「じゃあ……」


 先程と同じように目を閉じると身体の中の魔力の流れを確かめる。今回はわりとすんなりと身体の中に巡る魔力を捕まえることができた。

 そして――。


「あっ」

「どうした?」


 ふと気づき、私は目を開けた。身体を纏うようにあった温かい空気が霧散していくのを感じる。


「それが、さっき使ったときは指の逆むけを治したんですけどどうも一本だけじゃなく他の指にあった小さな傷も治ってしまったみたいで治すものがないんです」

「…………」

「あ、そうだ。ちょっと指先を切ってそれから魔法を使うのでナイフか何か借りれますか?」


 せっかくだから私ももう一回使ってみたい。治すものがないなら傷を作ればいいじゃない!

 正直、初めての魔法でハイになってるところがあるのは気づいてる。でも、こんなこと今までなかったんだからちょっと羽目を外すぐらいいいよね? アラン様たちも私が魔法を使うところ、見たいって言ってたし。

 けれど私の言葉に三人とも固まってしまって、ナイフを貸してくれそうにない。

 仕方なく辺りを見回すと、机の上にペンと一緒にナイフのようなものがあるのを見つけた。あれで切れるかな?


「って、アイリ! 何をやってるんだ!」


 手に取ったナイフで左手の腹の表面を切ろうとしていた私の腕を、慌てた様子でアラン様が掴む。そして簡単にナイフを取り上げられてしまった。


「何って、手を切ってそれを治そうと思いまして」

「だからって自分の手を切る奴がいるか!」

「えー、じゃあどうしたら……」


 他の魔法はここで試していいかわからないし、そもそもさっき使った魔法をって言われたからやっぱりヒールを見せるべきだと思う。でも回復魔法であるヒールを怪我も何もしていない状態で使ったところで効果なんてわからない。

 困り果てる私をよそにキースはアラン様に手を差し出した。


「アラン様、ナイフをお貸しください。私が」

「ああ。……いや、いい」

「は?」


 そう言ったが早いか、アラン様は自分の手のひらにナイフを当てて――勢いよく切り裂いた。


「なっ……!」

「ほら、これでどうだ?」

「どうだじゃないです! 何やってるんですか!!」


 目の前で赤い血を垂れ流す手のひらをこちらに見せてくるアラン様に私はパニックになる。だって、アラン様は王子様でなのに自分の手を、しかもその原因が私の魔法を見るためとかそんなのありえないでしょ!!


「あぁ、もうっ!」


 とにかくこの傷口を治さなきゃ。私の逆むけなんて目じゃないぐらい痛々しい傷だ。触れた手のひらは鍛えられているのか所々固くてたこのようになっている。

 って、そんなこと考えてる場合じゃない。

 とにかく今はこれを治すことに集中して。

 私はアラン様の血まみれの手を取ると、その手を握りしめた。


「…………」


 目を閉じて魔力に思いを馳せる。そして温かい光が私の身体を包む。

 よしこれなら。


「ヒ……」


 そういえば、さっき見てた本にヒールには上位魔法があると書かれていた。私の逆むけ程度ならヒールでもいいのかもしれないけれど、これだけ血が出てるんだもん。できれば上位魔法の方がいいよね。それに一ミリたりとも傷跡を残したくない。

 使えるかどうかはわからないけれど、無理ならあとからもう一回ヒールをかければいいんだし。

 よし。


「ハイヒール」

「なっ……!?」


 私が唱えた瞬間、すぐそばで息をのむ音が聞こえた気がした。

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