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アランとキース

「第三の選択肢があることを何故お話されなかったのですか?」


 アイリの部屋から執務室へと戻ったアランへとキースは問いかけた。アランは椅子に座るとキースを見ずに答えた。目の前にはやらなければならない仕事が山積みだ。昨日今日とアイリのことがあり、仕事が滞っていた。

 

「なんのことだ」


 そんなものは存在しないとでも言いたげに書類を手に取るアランの言葉に、他の者ならそのまま口をつぐんだかもしれない。キース以外であれば。

 幼い頃から彼の学友として一緒に育ってきたキースにとって、アランは主であり気の置けない友人だった。

 

「第三の選択肢が存在するでしょう。あなたが王となり、アイリ様を元の世界に戻すという選択肢が」

「はっ、馬鹿なことを。そんなことあってはならないし、あるわけもない」

「どうしてですか」

「どうしてだって? お前もわかっているだろう、私が国を継げば国内が乱れる」


 正当な後継者でもない自分が王位を継ぐことなどあり得ない、それは昔からアランが嫌になるほど言い聞かせられた言葉だった。

 なかなか懐妊しなかった王妃に痺れを切らせた側近がどうにか王を説得し、一夜限りの契りで生まれた子、それがアランだった。そこに愛は存在せず、またアランも王に愛された記憶はなかった。与えられたものと言えば体よく追い出すために作られたこの城と、そして名前だけ。

 けれど、それでよかった。アランにとって家族は今もこの城の奥で療養を続ける母のリネットただ一人。アランを産んだあと、身体を壊し、今では数えるほどしか起きることのないリネットだったが、それでもアランにとって大切な母親だった。

 あとは友人であるキースとイヴァンがいればそれでいい。それをキースもわかっているはずだ。なのに。


「アイリ様を、聖女を妻とし国王となればそんな心配もございません」

「口を慎め」

「これは出過ぎた真似を」


 頭を下げるけれど、口先だけの言葉であることはキースもそしてアランも承知している。

アランは小さくため息を吐いた。


「とにかく、アイリ様に無事お帰り頂くためには国王以外でも聖女帰還の魔法を使う方法を見つけなければならない」

「さようでございます」

「わかっているならさっさと探せ」

「承知致しました」


 キースがいなくなった部屋で、アランは机の上に組んだ両手に額を乗せた。

 

「それに、私に――妻はいらない。愛されずに育った私が誰かを愛することなどできるはずがない」


 そう一人ごちるアランの耳に、どこからかアイリの声が聞こえた気がした。

「アラン様」と朗らかな声で呼ぶ愛莉の声が。


「アイリ様は、不思議な人だ。知らない世界に一人召喚され、泣いたかと思えば笑って、そして――私のことを心配する」


 アランにとってあんなふうにためらいなく自分に触れた人間はリネット以外にはアイリだけだった。幼い頃はいざ知らず、成人を迎えてからはキースもイヴァンも自分と一線を引いているのはわかっていた。生きる立場が違う、生まれた地位が違う。それは仕方のないことだ。

 妻を娶るつもりのないアランにとって、まるで普通の人間のように、ああやって手を握られ抱きしめられ心配されることなんて二度とないと思っていた。なのに、アイリはそれらを全て簡単にやってのけるのだ。当たり前のように、そうするのが当然のように。


「……ふっ」


 笑みがこぼれたことに気づいたのは、自分の頬が緩んでいたから。慌ててアランは口元を押さえると、天を仰いだ。

 視界に映るのは真っ白の壁のはずなのに、なぜかアイリの顔が思い浮かぶ。


「アイリ様のために王となる、か」


 あり得ない未来だ。そんな未来あり得るわけがない。そしてあり得ていいはずがない。

 それ以上の未来ならなおのこと、だ。

 アランは頭を振ると目の前の書類に視線を落とした。今日中に終わらせなければならない執務はまだまだある。

 息を吐くと、アランはペンを手に取りサインを走らせる。その表情に先程までの優しさは欠片もなかった。


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